第34話 旅立つ前に


 俺は、まもなく自分がパンゲア世界に帰ることを、ミミとポルに告げた。

 二人は、いつかその瞬間が来るはずだと分かっていたからか、それほど驚かなかった。

 いや、なぜか全く驚かなかった。


「あっそう」

「ああ、そうですか」 


 いくら何でも、それは無いんじゃない。

 ちょっと寂しかったが、まあパーティというのはそういうものかもしれないと思い、自分を納得させた。

 獣人族長への連絡はコルネに、ギルド関係者への連絡はアンデにお願いした。

 コルネは、もう姉の行動について諦めてしまったのか、「姉さんをよろしく」と言っていた。

 アンデは、「ケーナイギルドの金ランクが……」と嘆いていたが、何か考えがあるようで、最後は含み笑いをしていた。


 道具屋と武器屋にも挨拶に行った。俺が聖女の友人で、しかも彼女の救出に尽力した事が伝わっており、下にも置かない対応をされた。

 愛想がいい武器屋のオヤジは、かえって少し怖かった。


 山岳地帯の犬人族集落にも、お土産を持ち挨拶に行った。もちろん、舞子とピエロッティも一緒だ。集落からケーナイの町へ帰る途中、点ちゃん1号の中で、舞子が意外な気持ちを打ちあけた。


「史郎君、もうすぐアリストへ帰るんでしょ?」


「ああ、そのつもりだよ。

 舞子も一緒にね」


「私、一緒に帰るけど、またこちらの世界に来るつもりなの」


「え?

 何のために?」


「今、獣人世界は、猿人族がしでかしたことの後始末で大変でしょ。

 私、みんなの力になりたい」


 じっと俺の目を見つめる舞子は、サナギの殻を破ろうとする蝶のようだった。


「分かったよ。

 でも、何かあればいつでも連絡が取れるように、アンデに頼んでおくからね」


 ギルドには、異世界間でも使える通信手段があると言われている。もし聖女に何かあれば、ためらいなくそれを使ってくれるだろう。


「後ね、今回の事で、いろいろ分かったの。

 いままで私、史郎君に頼ってばかりいた。

 自分の力でしっかり生きて、史郎君にふさわしい女性になりたい」


 彼女が潜りぬけた、この世界での体験がどれほど厳しかったか、それが伝わってくる。


「コルナにも、負けられないしね」


 そう言うと、彼女は微笑んだ。それは今まで見た、舞子の一番綺麗な笑顔だった。俺は、ドキッとしたが、適当にごまかしておいた。

 コルナや舞子を見ていると、ずっとだらだらしている自分が恥ずかしくなってくる。


『(・ω・)ノ でも、それが、ご主人様ですからね~』


 そうなんだよね、点ちゃん。

 ま、俺は俺らしく生きていくしかないってことかな。

 俺は、自分らしさを再確認するのだった。

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