第22話 称号と膝枕 -- 点魔法と称号 --


 史郎とルルが町へ帰ってくる数日前、城ではある騒ぎが起こっていた。


 ドラゴン討伐後に、勇者が水盤すいばんをとりおこなった。

 勇者のレベルは、大幅に上がっていた。

 そこまではよかったのだが、彼には、肝心の称号が付いていなかった。


「う~む、ドラゴンを倒したのに、称号が付いてないとは……」


 筆頭宮廷魔術師のハートンが、太い首をかしげる。


「称号が付かないと、何か不都合でもあるのか」


 加藤が尋ねる。

 ちなみに、黒髪の勇者たち三人も、多言語理解の指輪をもらっている。


「いえ、多くの者が現場にいたので、ドラゴン討伐がなされたこと自体に疑いはないのですが……」


 ハートンは、どこか歯切れが悪い。


「ドラゴンなどを倒したときの称号は、まあ、討伐のあかしのようなものですし、相手の強さによって、いろいろな能力を手に入れることができるのです」


 なるほど、思ったより俺が強くなってないから不満なわけだな。加藤は、そう推測した。


「まあ、討伐が目的だったんだから、いいじゃないか」


「え、ええ、そうですね。

 勇者様、これからは、『ドラゴンスレイヤー』をお名乗りください」


「そうした方がいいってんなら、そうするがな」


「そういえば、倒したドラゴンは特殊個体だったとか」


「そうらしいな」


「その辺の事情がからんでいるのかもしれません」


「ま、難しいことは、どうでもいいや。

 これでしばらくは、何もないんだろう?」


「はい、その通りでございます」


「じゃ、俺はもう行くぜ」


 加藤は、つかつかと部屋から出ていった。


 残されたハートンは、頭を抱えていた。


「まあ、誰かに調べられるわけではありませんから、大丈夫でしょうが。

 しかし、これを陛下にどう報告したらいいのか……」


 ◇


 場面は、史郎とルルの新居に戻る。


 点ちゃん、「古代竜の加護」って何?


『(・ω・) 加護は、高位生命体が付けてくれる、最上級のエンチャントですね』


 エンチャントって?


『(・ω・) 祝福とも言われます。対象者に、色々な恩恵がつきます』


 古代竜と普通の竜は、どう違うの?


『(・ω・)ノ 古代竜というのは、大昔、竜の力が強かったころの純血種ですね。

 竜は次第に数を減らしていますから、種族維持のため、近種の竜との交雑が盛んにおこなわれたようです。

 その結果、古代竜はすでに絶滅したと言われています』


 竜のお母さんって、天然記念物のようなものだったのか。


『(?ω?) 天然記念物とは?』


 いや、それはいいから。

 それより、加護でついた恩恵って、どうやったら調べられるの?


『(・ω・)つ□ それは、もう一度、パレットを作って加護で調べてもいいですし、加護という文字に触れても分かりますよ』


 もうパレットが消えちゃってるから、もう一回、パレットを作ってと……。

「古代竜の加護」という文字をチョンと……できた!


 古代竜の加護 物理攻撃無効


 うはっ! これって、いけないやつだ。

 ジャイ〇ンに殴られても、カキーンみたいな……。


『(*ω*)? ジャイ〇ンってなんでしょう?』


 だから、それは後でいいって。

 称号も調べておくか。

 パレットを作ってチョン。


 称号「ドラゴンスレイヤー」 ドラゴンを倒した者に与えられる


 えっ! これってやばくない? ってことは加藤にはドラゴンスレイヤーって称号がついてないわけでしょ……まあ、いいか。

 もう一回、パレットをチョンっと。


 称号「のんびりする者」 とことん、のんびりした者に与えられる称号


 はい、はい。こちらはどうでもいい、ってどうでもよくないよ! 俺にとっては、最高に嬉しい称号じゃん。

 はっきり言って、ドラゴンスレイヤーより上?


『べ(・ω・)べ ご主人様は、称号もらっても、ちっとも有難みがありませんねー』


 え? でも、俺って人生の目的がくつろぐことだからねえ。


『(・ω・)つ くつろいで、長期間、私を放置しないようにしてください』


 おっしゃる通りです。

 会おうと思えば、すぐ会えるんだから。今日からなるべく毎日会うよ、情報収集も兼ねて。


『( ;∀;) ……ご主人様の目的は、情報収集ですか。私、いらない子?』


 いやっ! そういう意味じゃないよ。

 点ちゃん、大大大好き!


『(〃´∪`〃)ゞ』


ちょろいな。


『( =ω=) 何か、おっしゃいましたか?』


 いえっ、何も。


 お、子供たちが起きたみたいだから、今日はここまでだね。点ちゃん、ありがとう。


『(・ω・)/~ またのお越しを、お待ちしております』


 お店かい!


 ◇


 目が覚めてしばらく間、娘たちは少しぐずっていた。


 その間は、ルルと二人で抱いてやる。娘たちが落ちついたので、ルルがお手洗いを教える。その間に、俺は食事の用意をしておく。

 ベーコンに似た干し肉を炒め、鶏卵よりやや小ぶりの卵を上から落す。香ばしい匂いが漂う。


 子供たちは、テーブルに着くと、がつがつと食べはじめた。

 ああ、手づかみだね、やっぱり。

 ルルがフォークの使い方を教えている。ナイフは、まだちょっと早そうだね。


「おいしいかい?」


 尋ねると娘達が美しい顔でニコッと頷く。二人ともミルクが大好きみたいだ。


 食事が終わると、二人に名前をつけることにする。

 二人とも金髪だが、髪の色がやや濃く、瞳の色が碧いほうがサファイア、瞳の色が紅いほうをルビーとした。


「でも、お母さんからもらった名前があるの」


 はいっー、ドラゴンのゴッドファーザー計画、一瞬で終了、うううっ。


 瞳があおいほうがナル、あかいほうがメルだそうだ。


「お母さんからもらったものは、大事にしようね」


 あちゃー、お母さんのこと思いださせちゃった。涙ぐんでるよ。


「旦那様、今日は二人を連れて、ピクニックにでも行きませんか?」


 ルルさん、ナイスフォロー! そうだね。家でずっとゴロゴロしてても、喜ぶのは俺だけだし。


「いいところがあるよ。

 行ってみよう」


 ランチとお茶の用意をルルのポーチに入れてもらう。ホント便利だわ、マジックバッグ。


 ◇


 ルルと俺は、ナルとメルを連れ、例の河原に来ている。

 砂地に布を引き、ルルと俺はその上に座る。

 ナルとメルは、キャッキャと水辺で遊んでいる。


 雲がゆっくり流れていく。

 鳥の声と川のせせらぎ。

 のどかだねえ。


 うとうとしているとルルの声がする。


「旦那様、横になってください」


 子供たちが見えるように、川の方に向いて横になる。

 ルルが近づいてきて、頭の下に膝を入れてくれる。

 ルル様、まじ天使。


 史郎十七才にして、嬉し恥ずかし膝枕デビュー。

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