第12話6章・ゴルティアにて。
【6】
翌日。
本日が休暇のジュディを置いて、ゼチーアはいつものように出勤の為に身支度をする。
何となく落ち着かない。
そわそわ、とする。
鏡越しに背後を見た。ベッドが人の形に盛り上がっている。
それがその――嬉しいような、くすぐったいような、妙な気になる。
「……」
鏡に視線を戻す。
緩んでいるように見える自分の顔を睨み付け、普段の表情を保とうと努力する。
「……ん?」
首元。
手を当てた。
「………」
まずい。
くすくすと、ベッドの中から笑い声。
目が覚めているようだ。
そして、これは確信犯だったようだ。
「ジュディ」
「御免なさい。――襟の高い服で隠せない?」
身体を起こしながら笑うジュディを鏡越しに見る。
布を身体に巻きつけ、ベッドの上で笑う彼女。無邪気とも取れる表情に、ため息。
「少し難しい」
「包帯でも巻いてあげましょうか?」
「逆に騒ぎになる」
「なら――隠さずに堂々と行けば?」
「……今回だけにしてくれ」
「分かってる」
笑う。
「仲直りを宣伝したいの」
「シヴァにでも話しておくか? 今日の午後には城中に知れ渡る」
「あら、素敵」
楽しげな笑い声。
ジュディは足を身体に引き寄せる。
布越しに膝を抱いた。
「でもシヴァ経由なら話が倍以上大きくなってそうね。例えば、私と貴方が結婚するとか」
「貴女の親に怒鳴り込まれそうだ」
「逆じゃない? 行き遅れの娘を貰ってくれて有難うって、お父さん、大感激よ、きっと」
本当になりそうな気がする会話だった。
何とか身支度を整え――首は諦めた――、ジュディに向き直る。
ジュディの手に招かれてベッドに近付く。
口付けと言うには淡いものをひとつ、贈られた。
「行ってらっしゃい」
「あぁ」
「……今日、此処でゆっくりしていってもいい?」
「ならベルグマンの様子を見て欲しい」
「分かったわ」
軽く手を振って見送ってくれるジュディに笑い掛け、部屋を出た。
さて――と、考える。
シヴァにはどう話すべきか。
【7】
とりあえず、午後には、城中には知れ渡っていた。
メイドたちの一部が大喜びし、別の一部が高いお菓子を購入する羽目になって泣きそうな顔をしていた。
それ以外は、ごく普通の一日だ。
「あの……ゼチーアさん、噂が凄い事になってますが……」
「聞きたくも無い」
進化しただろう夕方の噂は聞かない事にしたゼチーアだった。
終
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