二部一章五話

「非人道的な発想でアンタと同レベルでも悲しいだけだわ。でも、それでもアンタならここまでのことを全部終わらせるのにひと月半もかかるとは思えないんだけど」

紘知には未来が見えるのだ。それに、協会内でかなりの発言力を持っている。独断で惑星一つを囮にしてしまって、後になってから説得して回ればいいのだ。いつもの紘知ならそうする。

「怪物の視点に立つと、違和感が拭い切れなかったからだ。並大抵の攻撃は通用しないならば、悠々自適な生活を送りそうなものだろう?それなのに、協会の長い歴史の中で、一度も発見できていなかったんだ。。確かに最初はそう思ったが、敵の体組織が古い魔術でできていた。数万年は生きていることは間違いない。つまり」

芝居がかった仕草で一度溜めた紘知のセリフを香弥が奪い取る。

「隠れていたんだから、出てくる必要と意味があるはず」

満足げに紘知が頷く。つくづく腹の立つ男だ。

「折角協会の面々を説得し始めたのだから、と思って調べてみたよ。するとあらびっくり。怪物の針が、一本足りないということが分かった。そしてもう一つ。怪物と同じ微弱な反応が、ミュズィースのいた星から検知された。怪物は、自分の失われた体を求めて、身の危険を冒してわざわざ表舞台に登場したというわけだ」

指をパチンと鳴らして、紘知はさらに続ける。

「運のいいことに、例の星は今極点に巨大な青銅の門が出現している。随分古い術式だったはずだが、アレはどこかの死後の世界ネルが、歴史を旅していく過程で構築する、停泊地の証だろう?我らが神の子星にも存在したものだ。青銅の門をきちんと使いさえすれば、犠牲を払わずに怪物を処理できる」

「まさか……」

香弥の赤い両目がちくりと痛む。神の子星の青銅の門を一人でくぐろうとした結果、香弥の目は今のような物になってしまった。『死そのもの』を浴びてしまった対価、だそうだ。

「いくら化け物だの不死だのと言っても、『死そのもの』を浴びて無事なのは死体だけさ。自分の体を求めて動くような、明らかに死体ではないものには致命傷になる。あとは、それを説得さえしてしまえば、僕の仕事は終わりさ」

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