九章六話

ウィリアム=カー氏は、『青銅の門』の向こう側を、「ネル」と表現して、桃にかつて語ったことがあると言う。



「簡単に言うと空気の密度が違うんだ。ネルがかなり濃くて、こっちは薄い。だから、『青銅の門』がどれだけ大きく開いていようと、濃い空気に弾かれるような恰好になるから、入念な準備と対策を積んでからじゃないといけない。残念だけど、今のこっちの技術では不可能だと思う。対して、ネルからこっちに来るのはそう難しい話じゃない。空気が常にこっちに向かって流れ続けているから、『青銅の門』の近くに立てば、吐き出されるように移動することができる。でもまぁ、それに伴う大量のリスクを無視しての移動になるから、最悪死んでしまうこともあるし、他所の世界に多大な不利益を与えた大罪人として指名手配されることもある。僕や他の神徒たちはそんなことになるのは嫌だから、大人しくとっても面倒くさい公的手続きをきちんと済ませて、帰れないかもしれないことにも同意をした上で、こっちにやって来た。ここまでは、桃ちゃんと会うまでの話」


桃が『青銅の鍵』例の本を手に入れる前のことになる。ウィリアム=カーは桃を歓迎し、再び語った。

「僕は若い時からずっと、ネル以外の異世界を探検する仕事をしている一人だ。これについては前にも話したね。その仕事の長い経験と直感から、ここに来てからずっと感じてることがあるんだ。落ち着いて、よく聞いて欲しい」


――やがて、この世界はネルと同化する。


「ネルの空気を吸うと、人間は本来有り得ない能力を手に入れたり、体が変化してしまう。残念だけど、これ自体は天災の一つだから、どうにかすることはできない。『青銅の門』は誰かの意志があるだけでは出現できないものだからね。そして、『青銅の門』が出現した後は、門が消えて全てが元通りになるか、ネルと同化するかになって落ち着くんだ。この世界は後者だね。年々ネルから来た神徒が増えていることと、青い花びらが舞ったことが証拠だ。……さて、このような事態に対して君たちは何ができるか、だけれど」

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