八章五話
「昨日はそれどころじゃなくなっちゃったからね、今日改めて探して見たんだ。すぐに見つかったよ。何せ、文学愛好会の部室を入ってすぐのところにこれが置いてあったんだから」
「ほんとに?」
疑いの目を向ける侑里に、肩をすくめながら響は答える。
「本当さ。部室に入る時には目に入らないかもしれないけど、出る時には必ず視界に入るはずだ。みんながこの本のことを思い出せなくなっていたのは、そういう理由かもしれないね」
「中身を見たけど、やっぱりこの本はいつ読んでもそんなに面白いわけじゃないね」と、その後に続けた響に、侑里は再び質問した。
「青い花びらはあった?本についてたりとか、中に挟まってたりとか」
「いや、全くそんなことはなかったよ。全ページきちんと確認したから間違いない。一応命綱代わりに『存在の糸』を握りながら確認したけど、特に中を見たからどうこうというわけではなさそうだ。肝心なのは本の表紙、それも多分背表紙を見ることなんだろうね」
響が背表紙を侑里に向けるが、特に異常は感じられなかった。奪うようにして響から受け取り、表紙を隅々まで見つめてみるが、やはり何か不思議な力が働くようなものには見えない。
「大丈夫、なのかな……?」
「どこも変じゃないと思うよ。キツネにつままれたと思って、そのまま気にしないでいるのが一番じゃないかな」
†
首を傾げている侑里に、一つ黙っていることがあった。
実際のところ、青い花びらは大量についていた。それも、本を挟むような形で。本のタイトルは確認できるようになっていたものの、あの量の花びらに挟まれていたら、怪奇現象を引き起こすのも無理はない、と感じさせるほどだった。手に取って、指で払い落とし、本棚に残った分も床に落ちた分も、響は全て箒とちりとりで回収した。ゴミ箱に捨てれば忘れられてしまう『何か』が増えるだろうと考えたからだ。
そして、中を開くと1ページ目にもう一枚青い花びらが挟まっており、更には小さな紙が一枚。犯人と思われる人間の残したメモだ。そこに書いてあったことを見て、響はまだ黙っているべきだと判断して、花びらもメモも全て隠すことに決めた。
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