八章二話
「大したことは何も話していないよ。ただ、僕の姿――半透明で、今にも消えそうな姿――を見て、たった一言だけ。『救いは、要らないかい?』と言われた」
「それで?」
三人が同時に言った。響の声真似が、思いの外それらしく聞こえたからであった。
「いくらイケメンで何かしら救いをくれそうな人物に見えても、今まで見たことがない上にあからさまに不審な声音をしている。僕は困惑し、そして考えた。そう思ったのに、気がついた時には口から出る自分の言葉を聞いていた。『お願いだ。僕を
萌子が小さくため息を吐いて、桃に言う。
「秋原さん。話を聞く限り、ニコラス=コールウィーカーという人は、とびっきり不審だけど美形のお人好しにしか聞こえないのだけれど、そんな人がわざわざ他人の名前を騙るかしら?それも、知る人ぞ知るマイナーな偉人であったり、その筋では有名な大悪党であったりする人の名前を」
桃はしきりに首や手を横に振っている。
「違います。おかしいです。誰かが間違っています。そうでなければ説明がつきません。子供の時から『彼は悪党なのだ』とずっと聞かされてきたんです」
「桃ちゃん……。もう、誰が間違っていたのか、分かっているんじゃない?」
諭すように優しい言葉をかける侑里を、桃は鋭く睨みつける。
「分かりません。間違っているのは私でも秋原家でもありません」
「桃ちゃん。確かにニコラス=コールウィーカーという人は不老不死で何千年も何万年も生きている変な人なのかもしれない。でも、その人が本当に響に会ったのかどうかも、調べようがないじゃない?ここには監視カメラなんてついてないんだから」
「有り得ません。ニコラス=コールウィーカーを名乗るのは世界でたった一人ですっ!」
そう叫ぶと、桃は黒い犬を二匹出現させて、部室から飛び出した。桃の足音が遠ざかっていく。
「桃ちゃん……」
追いかけたいところだが、今はかける言葉が見つからなかった。
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