八章一話

今日は文学愛好会の活動がない。人目を気にせず思う存分話し合いができると考えて、四人はまっすぐ文学愛好会の部室に向かった。中に入り、思い思いの席に座ると、桃が口を開いた。

「雪河さん。あなたが会ったニコラス=コールウィーカーはどのような人物でしたか?」

全員の視線を浴びて、戸惑いながら響は答える。

「腰まで届くような長い黒髪ストレートの、中性的な男性。背は170cmから180cmくらいで、仏頂面で、ほっそりしていた。神徒らしい特徴は特になし。世間的には美形ほど神徒らしさが強いから、ちょっと意外だった。顔立ちが海外の人っぽくて、その髪型はあんまり似合わないなと思ったけれど、ホラー映画に出てくるような長い黒髪の女性の幽霊っぽい雰囲気だった。ここの校舎は古いから歩けば大分きしむのに、あの人は全く音をさせてなくて、最初は幽霊か死神だと感じた。後は……深い綺麗な青い目をしていた。あの目は一度見たら絶対忘れないと思う」

桃は首を横に振る。

「雪河さん。『存在の糸』で彼を触りましたか?」

「もちろん。彼は本当に言った通りの姿だったよ。それに、君もあの目を見れば、偽物なんかではないと一瞬で気がつくはずだ」

響が嘘をついていないと分かったのだろう。大きく深呼吸をしてから、桃は言った。

「……私が知っているニコラス=コールウィーカーの特徴と何一つ一致していないんです」

ニコラス=コールウィーカーと背こそ似ているものの、ニコラスはやや筋肉質で、「ほっそり」とは言いがたい。髪が長く、髪質がストレートであるという点も同じだが、彼は金髪だ。仏頂面という点もおかしい。彼は微笑みを浮かべたまま、一切その表情を崩さない。雰囲気もまるっきり正反対だ。そして。

。そして、彼は自分の目の色がとても気に入っていて、それを変えることは絶対に有り得ない」

侑里が口を挟む。

「つまり、響が会ったニコラス=コールウィーカーは偽物ってこと?」

「ええ、それ以外に考えられません。雪河さん。彼と何か話しましたか?」

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