第42話 魔弾

ここで颯爽と出て行って、盗賊団をやっつけられたら格好良いのだけど。

残念ながら実力が伴わない。

俺の実力では、1対1でも危なそうな奴がいる。


「大変・・・助けないと」


ジリアンが出て行こうとする。


「落ち着け、俺達の実力じゃ返り討ちだ」


「でもっ」


「それに、ちゃんと護衛はいるようだぞ?」


馬車から、冒険者がぞろぞろ出てくる。

盗賊団が叫ぶ。


「なっ・・・風の岩テンペストだと?!何故こんな馬車に!」


ランク4のパーティーだったかな。

かなり強そうだ。


「大人しく降伏しろ。命までは奪わん」


リーダーらしき大男が言う。


「ふざけるな・・・俺達にはお頭がついているんだ!覚悟するのはお前達の方だ!」


盗賊が叫ぶ。


盗賊団と風の岩テンペストの戦い・・・

風の岩テンペストが、巧妙な連携で、着実に盗賊を無力化していく。

やはり強い。


「てめえら、ふがいなさ過ぎるぞ!」


ひょろっとした男が、岩陰から出てくる。


「お前もすぐに捕まえてやろう」


風の岩テンペストのリーダーらしき男が盗賊に向かい・・・


ヒュン


リーダーの片腕が飛ばされる。

首に剣が当てられ、


「てめえら、動くな・・・後、うちの者共はさっさと立ち上がれ」


・・・強い!


〈あれは魔剣ですね〉


アテナの声が聞こえる。

・・・また悪魔かあ。


まさか魔剣で対抗とかする訳にもいかないだろうし。


リーダーの命が握られた状況・・・風の岩テンペストの面々が迷いを見せ・・・

盗賊が再度言い放つ。


「勘違いするなよ?人質でもないんだ。こいつを殺して、次に他の奴を殺して・・・皆殺しにもできる。その実力差は分かっているだろう?分かったら動くな。大人しく商品を渡せ・・・命は助けてやる。寛大だろう?」


盗賊は商品を運び出す部下を、そして動けない風の岩テンペストを見て・・・


「嬢ちゃん達は、俺と一緒に来い。今晩からたっぷり可愛がってやろう」


風の岩テンペストの女僧侶と、女魔法使いの事だろう。


どうするか・・・俺達が行っても何も出来ない・・・だが・・・

気付かれないように奇襲すればひょっとすれば・・・?


「ほーほー、落ち着いてお菓子でも食べませんか?」


不意に、何処から現れたのか、フクロウが現れる。

何処から来た?!

とりあえず今はお菓子をのんびり食べている場合ではない。


「・・・喋るフクロウ・・・?とりあえず今は何処かに行ってくれ」


「ほーほー、私と旦那の仲じゃないですか?」


「初対面だ?!」


「オーディン・・・落ち着いて・・・気付かれるよ!」


ジリアンが慌てて止める。

そうだ・・・危ない危ない・・・


「とりあえず渡しましたからね」


フクロウが無理矢理渡してきたお菓子は・・・待て。

棒状のクッキーに、傘の形にチョコレートがついた・・・これは・・・不味い。


「おい・・・待て、これは色々な意味で不味い。対になるアレとセットで扱わないと、単独で扱ったりしたら・・・これを食べる訳には・・・おい、もう一つのアレはどうした・・・?」


「ほーほー。私はそちら派なので、それ以外持ち歩いてませんよ!」


「ちょ・・・どうするんだ・・・」


これを食べる訳には・・・というか早くしないと盗賊に気付かれる・・・


「ほーほー、渡しましたからね!」


フクロウが飛び去る。

ちょっ。


焦りながら見ると・・・え、なんかみんな止まっている?

あ・・・動き出した。


盗賊が女性を抱え上げ・・・


「もう見てられない!」


ジリアンが木陰から飛び出、盗賊に向かって走る。

盗賊はリーダーのもう片方の腕を切り落とすと、蹴飛ばし、ジリアンの顔に蹴りを入れる。

軽く宙を飛ぶジリアン。


「死にたいのか?」


盗賊が魔剣をジリアンに向かって振り上げ・・・


ザシュ


盗賊の腕を俺が投擲した槍が貫く。


「おおおっ?!」


ふらっと後ろに下がる盗賊。

魔剣が地面に落ちる。


再び槍を手に戻し、再度投擲。

今度は足を狙い・・・


カンッ


盗賊が魔剣で槍を弾く。

手が戻っている?!


「残念だったなあ、小僧。この魔剣を所持している限り、勝手に魔剣が手に戻るし、身体回復能力も凄まじいのさ。せっかく見逃してやっていたのに・・・死にたいなら、希望を叶えてやろう」


盗賊が再び魔剣を振り上げ・・・


ヒュッ


盗賊の腕が再び貫かれる。


「効かねえ!」


盗賊が再び再生しようとするが・・・


ダンッ ダンッ


無数の矢が盗賊を串刺しにする。


ガッ


地面に転がった魔剣を、無数の矢が貫き・・・破壊される。


「な・・・」


反動だろうか、盗賊がその場にへたり込む。

風の岩テンペストが動き出し、動揺した盗賊を捕らえていく。


助かった・・・

ジリアンを助け起こす。

ジリアンが自分に回復をかけ、次いで、風の岩テンペストの治療を始めた。


「キミも魔剣使い?」


不意に後ろから声がする。

驚いて振り向くと、少女が居た。

確かこの少女は・・・


魔弾ナイトスナイパーベティーナさん?」


「ん、正解」


「助かりました」


「ちょっと遅れちゃったけどね。まさか風の岩テンペストが負けるとは思ってなかったからさ・・・あれが魔剣か・・・それも魔剣だよね?」


「はい。アンデッドの出る洞窟で拾いました。危険なので、詳しい人に預ける予定です」


「ん・・・りょーかい。途中で盗られないでね?」


「分かりました」


結局、商人の馬車に乗せて貰って、街に帰った。

悪魔か・・・恐らく、悪人と正義のパワーバランスが崩れるのを見るのが楽しいのだろう。

愉快犯。


ジリアンと別れ、魔剣はアテナに渡した。

アテナが光の泡に分解してしまった。

・・・よく考えたら、既にアスモデウスがやったって分かってるんだから、持って帰っても調査も何も無いよなあ。


******************


2018/05/18:

未来からの干渉が有りました。

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