高二の調教
……そうして、時は過ぎていった。
いま、思い返したようなことも含めて。自分でも、思い出したくもないような。嘘のような。悪夢のような……日常が、続いていた。
数珠つなぎのように。
僕は、人間でありながら、あの空間で人間の資格をうしなっていく――。
そんなふうに、たぶんふつうの人間のひとだったら、ひとつ起きただけでも耐えられなかったであろうことを、僕は数えきれないほど、……させられた、わけだけれど。
いくらでもある。
でも、そのなかに。ひとつの決定的なできごととして、やはり、高二の修学旅行や、頭を剃られたということがある――。
……あのころには、とっくにクラスの奴隷となっていた僕は。
修学旅行では、ほんとうに、ほんとうに耳を疑うようなことを、命じられた。
つねに全裸で過ごせ、とか。
クラス全員ぶんの荷物を馬のようにひいていけ、とか。
一晩じゅう木に縛りつけられて、アルコールをぶっかけられろ、とか。
……そのどれも、現実になった。
残念なことに。まことに。――笑ってしまいたくなるほど、残念なことに。
よく覚えている。
修学旅行の行き先は、優秀者限定のプライベートな無人島だった。
昼。
きらめく浜辺。
クラスのみなさまがたが、はしゃぎながら駆けていく。
……そのうしろで、ぜいぜい言いながら、クラスメイトのみなさまがたの荷物の載った巨大なカートを、馬のようにひいていく、僕。
僕のこの重たさも知らないで――彼女たちは、ときに僕のそばに寄ってきては、……棒でつついたり、嘲笑ったり、ときにはカートの上に乗ってますます重たくしたり、するのだ。
夜。
波の音。
クラスのみなさまがたは、楽しそうに酒盛りをしている。そう。……ここにいるかたがたは社会的にも優秀者だから、高校生でも少々の飲酒は、許されているのだ。
……もちろん、僕には自発的にアルコールを飲む権利は、ないけれども。
頭からぶっかけられる、というならまた話は別だ――彼女たちはじっさい、僕の頭からアルコールを、ぶちまけた、なんども、なんども、ぶちまけた。
苦しかった。もうやめてくださいと懇願した。
木に強くしばりつけられているから、逃げることもできない。
でも、彼女たちは、げらげら笑いながら――僕が泣けば泣くほどもっと、……むせるほどのアルコールを、浴びせかけて、くるのだ。
溺れそうだった。
アルコールに、臭いに。
やめて、やめて、やめてくださいとしまいには僕がプライドもなんもすべてを捨てて、お願いしても――やめなかった。彼女たちは。その悪ノリを。……青春だねえ、と言って楽しむ。
……そして、そして。
おなじく、高二のとき。僕は頭を剃られた――。
そっちのほうが似合うでしょうと言って。南美川さんが。……無理やりに。
鏡のなかで見る自分は、泣きたくなるほど、みっともなかった。
頭が、つるつるなのだ。
もちろん、ファッションとして、そういうスタイルが似合うひとというのは世のなかにいるだろう――でも僕の場合は、違うのだ、そうじゃないのだ。こんなに、似合わない。ただますます滑稽になるとわかっていて、それもほんとうに合意なく無理やりに――悪意をもって剃られた、という、そんな感じ。
……じっさい、僕が校舎を歩くとますます目立つようになり、いろんなひとに指さされる回数が、増えたと思う。
僕は、頭を両手で押さえて隠したかった――でもそうするとますます目立つだろうってこともわかったし、だから、……僕は諦め、ただそういう存在として、校舎を、笑われものの晒しものとして歩くのだった。
もちろん、帽子の着用など許されてはいない。……南美川さんが、そう言った。
……ますます情けないすがたになって、でも、それでも僕は、……学校に通わねばいけなかった。
そうでなければ卒業ができない、僕のこの能力で高校中退だなんて――ゴミになりますって、宣言しているのと、おんなじじゃないか。
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