化と真の進んだ高校は
雑木林は、もうすぐ抜けそうだ。
僕たちは急いでいる。でも同時に、話を続ける。
南美川化にかんする話はこの状況において重大な話だからだ。
南美川さんも、あるいは。そのように感じてくれているのかも、しれない――。
「彼は、とっても小さなときには、正午になるとブロック遊びをはじめていたんだね。ブロックって、いちおう確認するけど、物理ブロックのほう?」
「うん。概念ブロックを手に取りはじめたのは、むしろあの子がプログラミングにハマってからだわ」
「なるほど。とっても小さいって、いつだろう。幼稚園くらいのとき?」
「そのくらいの年齢ね。化ちゃんは幼稚園に行かなかったから、ずっとおうちにいたけれど……真ちゃんもね。わたしは幼稚園には通ったの。あの子たちが通わなかった理由は、わからないのだけれど」
「つまり、一日じゅう家にいて、正午になったらかならずブロック遊びをする……」
「そういうことね。パパもママもよく笑ってしゃべってたわ。化ちゃんは、真昼になると、機械のようにスイッチが入る、って」
――機械のように、スイッチが入る。
「彼が、……化くんがハマっていたものは、ずっとブロックだったのかな」
「いいえ。けっこう、ころころ変わるの。小学生のときは、最初は、古典プログラミングだったわね。中学年くらいになると、それが語学学習に置き換わって、高学年や中学生くらいからは、もっと短いスパンで変わっていたけれど、あの子はゲームが好きだからいっつも正午になるとゲームをしていた気がするの――」
「それは、彼の、……習慣、みたいなものかな」
「たぶん……でも習慣というには、すこし重たかったような気もする」
「守れないと、癇癪を起こすとか?」
「いいえ。あの子は、そういうところはなかったわ。いつでも穏やかで、ひとに対して譲ることができて……癇癪なら、真ちゃんのほうが、よっぽど起こしていたもの」
このような状況にさえ、なって。
このひとは、どこか懐かしそうな、目をしていた。
「だからね、守れないときには、仕方ないと割り切っていたみたいなのよ。さっきもちょっと言ったけど、学校で先生に咎められたら、素直に謝って、なんにもやらなかったみたいだし。とっても申しわけなさそうにしてるんで、かえって申しわけないんです、って化ちゃんの担任の先生が家庭訪問で言ってたことあるの、わたし、見たことあるの」
「でも、原則は、彼はその習慣――いいや、習慣みたいなものと言ったほうがいいのかな、とりあえずそう呼ぶけれど、とにかく、習慣みたいなものを、守ろうとしていた」
「そうね。……守れないときのほうが多かった時期も、あったみたいだけど。とくに、中学生のころとかね」
「どうしてだろう。義務教育だったから?」
「そう。……時間割に忠実に従わなければならないのは、義務教育まででしょう」
「公立だったのかな。彼らは優秀だから、てっきり
「公立なの。しかも地元の、いちばん近いところよ。歩いて行けるの。あの子たちの頭からすると、もっと選びようがあったはずだと思うんだけど、パパとママは迷わずそういう近所の学校にあの子たちを入れたのね……中学までは」
この社会。優秀であれば、なにごとにも例外はあるが。
とはいえ。
原則的に、公立の義務教育においては時間割に従うことになっている。優秀者であっても、基本的には。
それが嫌なら、世界立や国立、私立に行けばいいのだ。それらの学校はそれぞれに特色をもち、時間割というものそのものを撤廃しているところも、珍しくはない。もちろんそれらの学校には入学試験がある。もちろん。けれども彼なら、軽々とクリアしたはずだろう――たとえば僕などとは違い、優秀すぎる彼らはほんらい、わざわざ我慢してまで、近所の公立に通う必要は、なかったはずなのだ。
「高校からは、化ちゃんは、優秀だったから」
「じゃあ時間割のない学校を選んだのかな」
ああ、出口が、見えてきた。
雑木林の、……出口が見える。
「それがね、そうでもなかったの。化ちゃんと真ちゃんが進んだのは、国立学府の付属校のひとつだったわ……国立学府の付属といっても、いろいろあるでしょう。けれど、そうね、……いま思い返せばどうしてなのかしらね、あの子たちは、付属のなかでもいちばん規律の厳しい学校に進んだ。……どちらかといえば優秀だけれど自律のできない子たちが集まっているような学校よ。寮から通う子たちが、八割以上なの。そうね、たしかに、思い返してみればおかしい――」
……その、違和感が。
かすかだとしても。わずかだとしても。
……ひとつの側面に、過ぎなくとも。
この状況の、なんらか理由となっているのだろうか――ああ、もうすぐ、遊歩道に出ることができる。進み続ける……息を切らして、ちょっと苦しくて、寒くて、……それでもこうして、話し続けながら。
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