甘ったれた妹ちゃんタイプ

 わたしはまず最初に、守那美鈴に同情の意を示した。

 ねぎらいの意も、示した。


 もちろん、きちんと言葉でももってして。

 態度でも、もってして。


 大変だったわね、いいえ、いまも大変なのね、わたしはそのことに対してとってもたっぷり思うことがあるの――心の底からわたしがそう思ってるんだって、……このまた難易度の低そうな子の顔に、それでも、ちゃんとそう見えるように、細心の注意を払いながら、そのように伝えた。



 言葉を、尽くしたわ。

 自分でも、わざとらしいなって思うほど。

 飾り立てたの。

 守那美鈴じゃないけれど、……それこそ、吐き気なんか催しちゃうくらいにね、って――。


 だってそのくらいしないと、効果ないから。

 この、単純そうな女の子が、誤解してくれちゃうくらいじゃないと、ぜんぜん、ぜーんぜん、効果がないから。



 味方だって、思わせないと。

 わたしがそんなこと言葉ではっきり言う必要はないのよ。いま、味方だってわたしが言葉で言っちゃって、……そういうのだって猫の目は見ているはずだし、ずうっとあとで、たとえばなにかがトラブルになったりしたとき攻撃材料として出されたって、嫌だもの。


 だからねそんなこと明確には伝えないけれど。

 この子がね、……守那美鈴がね、ああ南美川さんって話もわかるし気持ちもわかる、いいひとだな、信頼できそうだな、このひとになら、打ち明けたってよさそう……そう思われるように、とことん振る舞ったの。


 もちろん、守那美鈴だけではないわ。

 葉隠雪乃にも、黒鋼里子にも、そう思ってもらわなければ、困っちゃうもの。



 ……わたしはね。

 もうすでに、ここの人間関係図を、この時点で予感していた。

 ほとんどそれは推測といってもいいほどよ。直感でしかないけれど、……でも、人間関係の経験って、それなりに、ね、……二十年の人生のなかで、わたしのなかに溜まってきていたのだから。



 たぶん、だけど。

 これからね。



 守那美鈴はこのなかでは、いちばん妹っぽい立ち位置になっていく。もともと妹だってこともあって、……いわゆる妹奴隷で、優秀な兄の妹としてしか、人間として生きられないっていう事情が絡んでいるんだろうけれど――たしかに守那美鈴には、なんというか、妹っぽさが染みついていた。



 ちょっと、ひとをうかがうときの視線。上目づかいがデフォルトになってること。

 すこし語尾をぼかすような、曖昧なしゃべりかた。

 自分で話を展開していく、というよりは。自分自身が、言いたいことをまず言って。でん、とそこに置いといて。ほかのひとが、拾ってくれるのをただひたすら、じっと待つ。


 愛想を崩すことはない。

 たぶん、自分が、かわいいという立ち位置にそれなりにいられているときには。

 激しい意見を言うこともないだろう。激しい自己主張をすることもないだろう。


 御しやすいといえば、御しやすい――でも一歩間違うと、ちょっと面倒なタイプね。爆弾のように、爆発するとしたら、……とことん被害者ぶって、妹っぽく甘えられる相手にあることないこと言いながら泣きつきそうだもの、この子。



 それを純粋に全力で心の底から、かわいいー、とか思えるのは、たぶん女性の好きなひとだけだ――男性として異性が好きなひとか、女性として同性が好きなひとか、それともそのほかの性別タイプなのか、それは、わたしは知らないけれど。


 わたしは女性として男性が好きだから、……女性に対して、心底そういう感情を抱くってことは、おそらくないわ。もちろん現代生物学的には生涯そうとは言い切れないけど。でも、わたしには狩理くんがいるし、そうねそもそも狩理くん以外の人間にそういう感情を抱くってことは、ないでしょう――あと、わたしはどっちかって言えば、甘えられるよりは甘えたいほうだし。……ごく個人的な、個人間の相性としては、たぶんわたしと守那美鈴は、よくない。

 たとえばふたりで仲よくしようとしたら、ちょっとエネルギーが必要かもしれないって思う。



 でも、グループとしてはそれでいいんだと思う。

 わたしは甘えるほうが好きだけど、……それは、わたしが認めた相手に対してだけ、だから。


 いちばん、妹っぽい人間が。

 ほかにいてくれるのは、むしろ助かること。



 爆発しないようにさえ気をつけながら利用すれば、グループにおいてけっこう使えたりするんだもの、こういう、身体の芯からスイーツの腐ったようなにおいでもしそうな、甘ったれた、妹ちゃんタイプはね――。

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