だれ?
いまのは、テキストメッセージの受信音だった。
不穏な気がする。
だって、僕にわざわざ連絡をよこすだなんて――そんなの、それこそ南美川さんたちにいじめられていたころに、時間帯もこちらの都合もおかまいなく呼び出されていたとき以来だ。
僕は立ち上がり、台所に置きっぱなしになっていたスマホを開いた。
その場に立ったまま、タップ。テキストモニターが立ち上がる――。
『春』
だれだ、と目を見開いた。送信者の名前はアンノーウン。まさか。――南美川家のだれかや関係者?
間髪入れずに次のメッセージが来る。
そのあとも、ポンポンポンと。……ずいぶんと、短文タイプの相手なようで。
『連絡ちょうだい』
『どこにいるの』
『連絡先わからなくて』
僕はいよいよ緊張する、全身も強張る、――だれだよ。
いたずらとかでは、――ないはずだ。オープンネットで受信している。と、いうことは――ある程度信頼性があるメソッドによっての、コンタクトのはずだから。
『ねえこれ送れてる?』
『よくわからないこういうの』
『ねえ春。わからないんだってば』
無視、しようかとも思った。
だがどうにも……名前を呼ばれているのが、気持ち悪い。
後頭部をこれでもかというほどぐしゃぐしゃに掻いたのち、右手の五本の指を駆使して――スマホのフリックタイプキーボードの上で、滑らした。
『送れてますけど、誰ですか? 何の用ですか?』
軽快に着ていたテキストが、途切れる。
そしていくばくかの間ののち、ピコン、ときた――。
『本気で言ってます?』
……いや、本気もなにも、うん。そのまんまを、言ってるだけなんだけど……。
埒が明かないので、アンノーウンの唐突で不穏なだれかに僕は懇切丁寧に説明してあげることにした――。いや、こんなのね、ほんとにね、……サービスですよ、サービス。
『まずコンタクトがオープンネット経由ですので原則アイデンティファイ機能は無効です。
なので送信者様がアンノーウン状態です。個人証明もセキュリティロックがあるので不可視です』
いったん、ここまでのかたまりで、送って。
『オープンネット開示要求は正当な理由があればできます。
僕に連絡する正当な理由があったということでしょうか?
そう思いましたので不躾ですが用件を尋ねさせていただきました』
ここまで、送って。
……ふう、と息を吐いて天井を見上げる。……あ、換気扇そろそろ掃除しなきゃ。
仕事じゃ、ないんだけどな。……がっつり、休暇中なんだけどな。
しばし、間があった。……読んでいるのかもしれない。
まあ、この程度の文章だったら……社会的な人間であれば、みんなすぐに読めてしまう程度のものだろうけど。ごく標準的な、……通信システムについての説明だ。
そして、ピコンと――。
『説明書読まされてるみたいだった。こういうのは苦手だからかんべん』
『誰ですか。何の用ですか』
ほとんど反射的におんなじ内容を送ってしまった僕の返信は――たぶん、危機感によるものだっただろう。じっさい、気持ちが、焦る、……変な知らせじゃないといい、って。
『そらねーちゃんだよ』
……え? と、心のなかだけではなくて声にまで出てしまった。
急いで、テキスト入力をする。
『もしかしてですが来栖空さんですか?』
『なにその言い方きもちわる。そうですけどね』
『姉ちゃん?』
『ほかにもねーちゃんがいるのかねあんたは』
なんだよ、それ、いや、いないけど――内心でつぶやいた僕はいま、クエスチョンマークでいっぱいになっている。
――姉ちゃんが? なんで? そもそも連絡先をお互い知らないくらいの距離感なのに、わざわざオープンネットを経由してまで僕に語りかけてくるなんて――どうして?
……まさか、いまさら。
きょうだいの絆を深めようだなんて、そんなわけもあるまいし――姉ちゃんと海だけならまだしも、だよ。
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