ネネさんの説明(5)高いから
「……汚職がバレて、スキャンダルになる政治家ってーのが、ときどきいるだろ?
あるいは、社会体制が変わって、……処刑されることになった、とか。
旧時代の前半だったら、ギロチンとかでザックリだったかもしれないし。
後半だったら、政治家を辞めさせられてたかもしれない。
……春。現代では、政治家は、そうだな、たとえば、……重大な倫理違反でも判明したら、どうなる?」
「……ひどい目に、遭います」
「具体的には、どんな目に?」
そのくらいのことは、知っていた。
下世話な、好奇心、そういったたぐいのものが僕のなかにもあることを、いま認めざるをえなかった――たしかに政治家のその手のニュースなら、僕も、オープンネットに流れてくれば、……ふっ、とつまみ読みしたりしていたのだ。
南美川さんに再会しなければ、ずっとただ野次馬のひとりでいられたのかもしれない――
「……一発で、人間未満認定」
「ビンゴ。しかしね春。――彼らは、そのままはいそうですかと人間未満に身をやつすわけでは、ないんだ。
もちろんいちどは世論を鎮静化されるために、人間未満の、たとえばヒューマン・アニマルに堕ちて――」
ネネさんは、……歪んだ、笑顔で。
それは、たぶん、……なにかに対しての、憤り。
「あらかじめ予定してあった通り、関係者に、すぐに買われる。
そしてそのまま、遠い土地までぴょーんとひとっ飛び。……リゾート地であることが、多いみたいだな。
……そして二年か三年くらいは、悠々自適に、……ペットさまさま生活さ。
ほとぼりが冷めたころ、また地域を移動する。
そこでまた、新たな人生をやりなおす――ってわけだ。人間に、戻って」
「……人間に、戻って?」
……なにを、話してるのだろう、いちど人間未満認定された政治家が、……ヒューマン・アニマルにはなっても快適な生活で、そのあとほかの地域でやりなおす、なんて、なんだよそんなの、……常識的に言えば、めちゃくちゃじゃないか……。
「そうだ。春。……じつは、飲めばすぐに人間の体に戻れる薬というものは、存在している。
そして――そちらは、倫理の認可が下りている。
私たちのオリビタは、その薬の後追い開発でしかないんだ――その薬の成分を、必死で収集して調査している。すこしでも、……あの薬に、オリビタを近づけるために。
あの薬を使うのではなく、……私たちのオリビタが、使えるようになるように……」
「……どうして、認可の下りたほうの薬を使うんじゃ、駄目なんですか……?」
「――高いからだよ」
ネネさんは、とても低い声で、……吐き捨てるように言った。
「一般の、人間が、……あんな額をポンと出せるわけ、ないだろう。
あんな薬――エリートどもだけに許された特権じゃないか、馬鹿らしいと私は思うよ、そうじゃなくて人間に戻す薬というのは、もっと――」
もっと、とネネさんは反復した。
「オリビタを、そんな、……ひとに迷惑をかけまくったえらいヤツらたちのためだけじゃなくて、だれしも、……もういちど人間として再出発できるひとたちにも、提供できるように――」
――待ってくれ。
なんだか、いろいろ、……混乱してきた、つまり――
……先発ですでに存在する薬は、高いから無理だってことなのか?
だから、南美川さんを人間に戻すことも、――要はお金の問題だって?
……いや。それだったら、そもそもおかしい。ネネさんは、それであれば、……無理だって言って、おしまいのはずだ。
しかしじっさいにはネネさんは、……ヒューマン・アニマルを人間に戻す活動を、おこなっているんだ。
……それに、まだたいして長いつきあいでもないけれど、ネネさんが、……いくら僕みたいにギリギリ人間をやってるという相手に対してだって、――金がないから諦めろだなんてこのタイミングで言うひとじゃないってこと、僕にはもうわかっている……。
ネネさんは、ここから――僕になにを説明しようとしているんだ?
戻せる薬がすでにある。しかし、それはとても高い。だから――だから、南美川さんは、どうなるっていうんだよ……?
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