57~足下に眠る、失われた大地~・4

「……行ってしまった」


 大人数が消えて一気に広くなったダクワーズの部屋でぽつりと呟く部屋の主。

 ベッドで上体を起こした体勢の彼女は、負傷のため今は思うように動くことができない。


「ダクワーズ……」

「大丈夫だ、デュー。今の私にはちゃんと役割がある。離れていても、ランシッド様と繋がっているからな」


 それが強がりだということを、かつて彼女と共に戦ったデューは知っていた。

 敵が現れれば我先に剣を取り、道を切り拓く……ダクワーズはそんな気質の、強く勇ましい騎士なのだから。


「率先して突っ込んでいきたいくせによぉ」

「時空干渉を受けている本人である以上、どのみちそれはできないだろう。それに、この戦いはランシッド様の力が鍵……私に与えられた役割も大きいはずだ」


 ダクワーズの契約精霊、ランシッドは時空を司る……彼の力なくしてはテラと戦うことすらできない。

 今まではダクワーズを心配させないよう、ランシッドが彼女との繋がりを一時的に断っていたせいでその力には制限がかかっていた。


 だから、契約者がこうして繋がっているというだけでも格段に違う……頭では、そうわかっているつもりなのだ。


「……お前にそっくりな娘が、お前の代わりに暴れてきてくれるよ」

「むう……」

「大丈夫だ。メリーゼも、あいつらも、強くなった」


 悔しさに力が入った拳に、デューの手が重ねられる。


「元気になったら真っ先に相手してやるからさ」

「デュー……その言葉、忘れるなよ?」

「忘れるもんかよ。美人とふたり、熱い時間を過ごせるってのに」

「ふん、言っていろ。そのニヤけた面を蒼白に変えてやる」


 交わしたのは、色気も何もない手合わせの約束。


 この時空干渉を阻止できなければ、当然叶うことのないものだ。


「あ」

「なんだ?」

「いや、ちなみに今の会話はランシッド様にも筒抜けだからな、と」

「げっ、マジかよ」


 思いっきり顔をしかめるデューに、ダクワーズが思わず吹き出した。


「ふふ……そういう訳だから、お前はお前のやるべき事をやりに行くといい。ここにも戦える者はいるし、私は大丈夫だ」

「そうかよ。んじゃさっさと退散しますかね」

「行ってこい、騎士団長殿」


 ダクワーズの声を背に受けて、デューは部屋を後にする。

 パタン、と後ろで扉が閉まる音を聞く間もなく、その足は廊下を歩きだしていた。

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