54~黒騎士の心~・4

 カカオ達は別れた仲間にカーシスとの戦いの結末と、彼が遺した言葉……テラが今回の騒ぎの裏で動いているらしいということを話した。


「感傷に浸る暇すら今の僕達にはないようだね」

「それで、精霊サマは何か感じないの?」


 パンキッドが尋ねるとランシッドは己の胸に手をあて、探るように目を閉じた。


『時空干渉の類だと思う、けど……俺に直接干渉はできないはずだ。消滅しそうって訳でもないし……』

「けど、お父様……苦しいのですよね?」

『ああ、今は落ち着いたけど』


 確実に異変は起きているはず、と含めてメリーゼは父を見上げる。

 するとランシッドはそんな彼女を見て、あ、と声を漏らした。


『メ、メリーゼ……その身体……!』

「え?」


 精霊に血色など関係ないはずだが、青ざめたランシッドのただならぬ様子にメリーゼは一瞬遅れて自分の身に視線を落とす。

 手が、足が、肩が……華奢な少女の身体は、まだほんの一部ではあるが、あちこちが薄く透けて消えかかっていた。


「う、嘘……!?」

「メリーゼっ!」

「カカオ君、わたし……っ」


 今にも泣いて取り乱しそうなメリーゼを、カカオがすかさず抱き留めた。

 そうしたところで消滅を止められる訳ではないが、彼女を現世に留めようとしての本能的な行動だった。


「メリーゼ、カカオ……」


 想い続けてきたメリーゼの危機と、咄嗟に動いたカカオ。

 そんな光景を前にシーフォンが思わず唇を噛み締めるが、


『……そうか、わかったぞ』


 彼の思考はまとまらないまま、ランシッドに中断される。


『俺自身の消滅ではなく、それでも影響がある事象……そして、メリーゼが消えかけているということは……』

「メリーゼの存在を揺るがす時空干渉が起きている、ということだな。そして両方を満たすのは……」


 デューも答えに行き着いたが、当人の言葉を待つ。


『狙われたのは、ダクワーズだ……』

「お母様……!」


 メリーゼの母親でランシッドの契約者、ダクワーズ。

 彼女が過去で殺されれば、娘であるメリーゼが生まれなくなるだけでなく、契約者を喪ったランシッドは自由に力を行使できなくなってしまう。


 そして精霊にとって契約者とは、そう簡単に代わりが見つかるものでもないのだ。


『くそ、彼女を危険から遠ざけようとしたのが仇となったかっ!』

「とにかく急ごう!」


 時空干渉の影響が定着してしまえば、取り返しのつかないことになる。

 休む間もなく、カカオ達は城を飛び出した。

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