53~芽生えた自我~・1
ひとつ、またひとつ。
刃と刃が打ち合う度に、己の体に力が、感覚が戻っていくのがわかる。
これまでの戦いでも少しずつ取り戻してきていたものが、ここでははっきりと。
(最近はほとんど気にしてなかったけど……そうか、こいつが俺の最後の枷……ていうか、その鍵だったのか)
ブオルは黒騎士の剣を斧で受け止めると、じっと相手を見た。
事故とはいえ時空を超えて未来に来てしまった者への枷なのか、この時代に来た当初は本来の力の半分ほどが奪われた状態だったブオル。
そしてそんな自分の未来の姿……本来ならば知り得るはずもなかった死。
黒騎士の見た目から今日明日の話ではなさそうだが、ブオルに残された時間は、恐らくは十年とないだろう。
「なに見てやがる」
「いや、当たり前だけどやっぱそっくりだなあって」
「そりゃそうだろ。体はお前のなんだから、なッ!」
強烈な横薙ぎの一撃がブオルを襲う。
巨体を簡単に吹っ飛ばすほどの威力に、つくづくここが異空間……元の、王城のド真ん中でなくて良かったと感じた。
「いてて……」
「ブオルのおっさん!」
「他人の心配してる場合かよ、ひよっこがッ!」
仲間の危機に思わず余所見をしたカカオは、次の標的と見定められる。
襲いかかる大剣は咄嗟に反応して受けることができたものの、どうにも力負けして押されてしまう。
「カカオ君、危ない!」
「っと」
メリーゼがすかさず割って入り、二人を引き離す。
あと少し彼女の乱入が遅ければ、黒騎士の人間離れした怪力の前にカカオがどうなっていたかわからないだろう。
「わりぃ、メリーゼっ!」
「可愛いカノジョに助けられてるようじゃカッコ悪いぜ、兄ちゃん!」
色恋沙汰など負の感情を糧にする災厄の眷属にはわからないものだが、ブオルの記憶から学んだのだろう黒騎士には時間と共にそれなりの知識が得られていた。
そこからカカオの動揺を誘うべく、メリーゼとの関係を強調してからかったのだが……
「? 男とか女とか今は関係ねーだろ!」
「そうです! カカオ君だってわたしの足りない所を補ってくれていますし、他のみんなだって……!」
と、動揺するどころかしっかりと仲間発言を返すふたり。
「……あれ、違うのか? まあいいや」
ダメ元の安い挑発だったし、あてが外れたところでやる事は変わらないだろうと黒騎士はすぐに気を取り直す。
(いや、間違ってないんだけど違うんだよなあ……)
説明したところでどうなる訳でもないし、そもそも敵同士だ。
ブオルはなんとも言えない気持ちを溜息で吐き出しながら、斧を構え直した。
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