49~眠れない夜に~・3

 こうなることは、半分以上は予想していた。

 そう思うだけの時間を“仲間”として過ごしていたのだから……


『……ってことみたいだけど、みんな?』


 溜息混じりに振り向いたランシッドの目には、建物の陰からこっそりとこちらを窺うカカオ達の姿があった。


「お前さんたち……」

「や、やべっ……うわあ!?」


 どたどたとなだれ込むように重なって倒れ込む若者たち。

 我も我もとぎゅうぎゅう押しながら覗いていたのだから、一人が急に動けばこうなるのは明らかで。


「いたた……」

「だっ大丈夫か? 夜遅いしとっくに寝てるもんだと……」


 ブオルが駆け寄ると、最後尾でちゃっかり難を逃れていたアングレーズが彼につかつかと歩み寄る。


「甘いわね、おじさま」

「へ?」

「あれだけあたし達に優しい言葉をかけてくれて、元気づけてくれて、いっぱい助けてくれた貴方に……今更あたし達が深入りしないとでも?」


 逞しい胸板にそっと華奢な手を置いて、アングレーズは悪戯っぽく口の端を上げた。


「……そうだぜ、ブオルのおっさんっ」


 一番下で潰されていたカカオがようやく立ち上がると、土で汚れたのだろうかぐしぐしと雑に顔を拭う。

 しかしよく見ればシーグリーンの目は僅かに潤み、声も若干震えていた。


「カカオ、お前泣いて……」

「っるせー!」


 叫べばまた、じわ、と涙が滲むカカオの後ろからメリーゼが進み出て、代わりに言葉を紡ぐ。


「……ブオルさんが記憶を消して元の時代に帰りたいと言うのなら、それはわたし達には止められません。それだけ、今回の出来事は衝撃が大きかったと思います」

「けど、あいつ……あのもうひとりのおっさんと向き合うって言うなら話は別だ! そんな辛いこと、ひとりで背負おうとすんな!」

「わたし達だって、力になりたいんです!」

「カカオ、メリーゼ……」


 きょとんとするブオルに、二人がぎゅっと抱きついた。

 そしてその後に他の仲間たちも続く。


「ブオルどのー!」

「うおっ!?」


 大柄なブオルもこれには堪らず、バランスを崩して尻餅をついた。


「今度はそれがしが助ける番でござる!」

「おじさんが震えちまう時は、アタシ達がカバーするからね!」

「あいつはめちゃめちゃ強いけど、みんなで挑めば何かやりようはあるはずだよ!」


 順番に、ガレ、パンキッド、モカ。

 ぎゅうぎゅうになりながら真っ直ぐ言葉をぶつける彼らに、ブオルの視界が歪む。


「ふえ……な、なんだよ、これ……」

「皆、貴方が大好きなんですよ、ブオル殿」


 ぽろぽろと涙を零すブオルを、一歩引いていたクローテが覗き込み、最初からは考えられないほど柔らかく微笑んでみせる。


「ひいお祖父様から聞いてはいたが……改めて、皆から慕われる好人物だったのだな」

「王子……」


 仲間になってまだ日が浅いシーフォンも輪には加わらないものの、それでも、彼らが旅の中で築いてきたものは感じ取れたようだ。


『たまには頼る側になってもいいんじゃないか? ブオル』

「へへ……勘弁してくださいよ、もう……っ」


 抱き寄せた仲間たちの頭を撫でながら「ありがとう」と涙を流すブオル。


 その光景を、時空の精霊はその目にしっかりと焼きつけた。

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