46~想い出の地の奥で~・4

――――暗い暗い黒の空間に、大小さまざま色とりどりの玉が浮かぶ。

 ふよふよと漂うそれに腰掛け、道化師……アラカルティアを滅亡に追い込もうと暗躍する化物、テラは足元に転がる空の鳥籠に視線をやった。


「……ねこみみクンは奪還されちゃったかあ。まあいいわ、そこそこ楽しめたし」


 扉が開いたままのそれを、用済みとばかりにポンと蹴飛ばす。

 果てしなく転がっていってやがて見えなくなるものに、テラは興味を示さない。


「あいつらはどんどん強くなって近づいてくる……まだ、まだ遊べるわ……」


 計画を邪魔されて、腹を立てるどころか下品な笑い声を立てて上機嫌なテラ。

 ガレの奪還……本来ならそれはひとつの敗北を意味するのだが、アラカルティアを盤上に見立てて遊ぶ化物には些細なことのようだ。


 と、その背後に大きな影が迫る。


「……そう、新しいオモチャも手に入れたことだしね?」


 その“玩具”はテラの言葉に反応もせず、じっと立っている。

 最初の頃よく使っていた図形を組み合わせたような人形とは違い、ちゃんと目鼻はあるのだが、そこから表情は抜け落ちてしまっていた。


「…………」

「黙って無表情だと結構な強面サンねえ。アナタを目にした時のあいつらの顔、さぞかし面白いコトになるわあ」


 ケラケラ、ケタケタと耳障りな声で笑うテラを前に、玩具は眉ひとつ動かさない。


「さあ、行ってらっしゃい。そして盛大に“    ”をかましてやるのよ」


 テラが指し示した先で、空間がぽっかりと口を開ける。

 玩具は従順に、言われるままその裂け目に吸い込まれ、消えていった。


「……今度は反応がなくてつまんないわねえ。もうちょいしたら馴染むかしら?」


 再びひとりになった空間で、テラは脚を組み直して頬杖をついた。

 道化師の口元が楽しげに弧を描き、その端から僅かに赤い舌が覗く。


 すうっと細められた金の眼は、新しい獲物を見つけた化物のモノだった。

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