42~望まぬ戦い~・4

 はらり、色づいた葉が舞い落ちる光景が美しい離島、マンジュの里。

 本来ならばそんな光景に心ときめかせるか、季節の移ろいを感じるか……しかし長のイシェルナは落ちゆく葉を受けたてのひらに見つめ、憂うように睫毛を伏せた。


『……イシェルナ』

「ええ、視たわ。シブースト村での出来事……」


 彼女の足元にのびる長くスマートな影が実体をもち、闇の大精霊が姿を現す。

 イシェルナは彼と契約を結んだことで、世界中に……どこにでも存在する闇、影から離れた場所の様子を見聞きして知ることができるようになった。


 それこそ無数にある全てを覗けばとんでもなく膨大な情報を得られるだろうが、もちろんそんな簡単なものでもないし、そのために王都のトランシュ達や各地に放った里の者とも頻繁に連絡をとっている。

 だから、彼女が覗き見するのはたまに気になったことがある時だけ……だったのだが。


「ガレ君、大変なことになってたみたいね……」


 たまたま、彼女は知ってしまったのだ。

 テラに操られたガレがシブースト村に現れ、カカオ達と戦うことになっているのを……その経緯も、会話内容からだいたいは察して。


 今すぐシブーストに飛んでいきたいが、マンジュからはあまりにも遠い上に、


「……ああいう術のことはあたしはサッパリなのよね……」


 自分が行ったところで、操られた愛弟子を全力でブッ飛ばしてひとまず止めるぐらいしかできないだろうと武闘派極振りの彼女は頭を悩ませる。


『カッセに伝えるべきだろうか』

「うーん、そうねぇ……」

「ちちうえが、どうかしたのでござるか?」


 てとてと、何も知らない顔でやって来たのは……未来からやってきたあちらのガレではなく、現代に生きる子供のガレ。


「ガ、ガレ君」

「ししょー、いかがいたした? 顔色がまっしろでござる」

「ちょ、ちょっと美白に凝ってて……ね」


 小首を傾げれば、顔の横の黒い猫耳がぴこぴこと動く。

 未来の自分が今どんな状況なのか……そもそも、十五年先の自分が憧れのカカオ達と一緒に旅をしていることも、この子は知らない。


「……ガレ君、いらっしゃい」

「?」


 素直に傍に来た少年を、イシェルナはぎゅっと抱き締めた。


「ふあ、な、なんでござるか!?」

「ごめんなさいね。少し……もう少しだけ、こうさせて頂戴」

「ししょー……?」


 師の不安げな顔の理由も、いきなり抱き締められた理由もわからないガレは、ただその背中をぽんぽんと優しく叩く。

 ふと、カカオ達が初めて里を訪れた時……イシェルナが時空干渉で消えかけた事件のことを思い出したガレは、


「それがしはどこにも行かないでござるよ?」


 そう言って、大丈夫、大丈夫と何度も繰り返した。

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