26~願いの腕輪~・1

 オアシスでの一件、宿屋での時空干渉と息つく間もないカカオ達は自分は自分で行動するというデューと別れ、闘技場都市サラマンドルに来ていた。

 それというのも未来を視る神子姫であるアングレーズが視た予知がきっかけなのだが……


「ここでいいんだね、アン?」

「丸い建物、熱狂する大勢の人々……断片的ではあるけれど、サラマンドルの闘技場を指していると思うわ。ただ、具体的に何が起きるかまでは視えなかったけど……」


 もともと神子姫の予知というのは断片的で抽象的なものがほとんどで、はっきりした内容を知ることはできない。

 とはいえ彼女がそこに強く惹かれたのも事実で、これといって手懸かりのなかったカカオ達はその直感を信じてみることにしたのだ。


「闘技場……戦う者達が集う、力と力のぶつかり合う場所……一度来てみたかったんです」

『メリーゼ、うっとりしてるとこ悪いけど遊びに来た訳じゃないからね?』

「わ、わかっています! ただ、アングレーズさんの予知が闘技場を指しているのなら、行ってみた方がいいとは思いますけど……さ、参加してみた方がもっと確実かな、なんて」


 黄金と茜色の目を輝かせ、闘技場に興味津々なメリーゼは父にツッコミを入れられてしどろもどろになりながらもそう提案する。


「メリーゼの戦闘マニアはともかく……それは確かに一理あるんじゃないのか?」

「で、ですよね! 行きましょう、カカオ君!」

「おっ、おい、そんなに引っ張らなくても行くって!」


 言うが早いか、同意したカカオの腕をがっちり掴むと彼女は闘技場へと消えていく。


「カカオどのが連れ去られたでござる! メリーゼどの、そんなに闘技場にいってみたかったのでござるな……」

『まったく、誰に似たのやら。サラマンドルは前回来た時、軽く通過しただけだったからねぇ……主だった大会も開催されてなかったから活気もそこそこだったし』


 溜め息まじりのランシッドが見つめる先では、続々と中に入っていく人達。

 彼らの足取りには高まる期待と興奮が見てとれた。


「そういや今回は賑やかですね……何かやってるのかな?」

『まずい時期に来ちゃったかもしれない……いや、むしろだからこそ予知に出たのか?』


 そう言いながら残りのメンバーも続いていく。


……と、最後尾にいたアングレーズがふと立ち止まり、円形の建造物を見上げた。

 彼女の思考は、その光景と先刻視たものを重ねる。


(不穏な影と、それを打ち払う光……抽象的過ぎてわからないけど、妙に気になるというか、ここに来なきゃいけないみたいな、何かに背中を押される感じ……)


 とはいえ、それ以上内容をはっきりさせることはできないため、彼女もまた闘技場の門を潜ることにしたのだった。

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