17~セルクル遺跡の岐路~・2

 遺跡の天井が崩れ落ちたことにより、カカオ達はわかれ道に追い込まれて離ればなれになってしまった。

 戻ろうにも瓦礫が邪魔をして、下手に破壊しようものならさらなる崩落を招いてしまうかもしれない。


「でもなんで急にこんなことになったのかしら?」


 こちらはメリーゼとブオル、アングレーズの組。


 アングレーズが口許に手を置き、不思議そうに首を傾げると、しばらく考え込むように俯いていたメリーゼが口を開く。


「……さっき、壁に走った亀裂に触れた時……少し視えた気がします」

「視えた、ってお嬢ちゃんまさかいつものやつか?」

「いつものってなあに?」


 まだ同行して日が浅いアングレーズにはブオルの言葉の意味がよくわからなかった。

 まずはそこから、とふたりが顔を見合わせる。


「メリーゼは時空の精霊……ランシッド様が人間だった頃の娘さんなんだそうだ。いろいろあってこの現代に生まれたが……それで一緒にいる時間が長かったせいか、不思議な能力に目覚め始めたみたいでな」


 長くなりそうな部分を省いたブオルの説明に、メリーゼも頷いて続けた。


「はじめは時空干渉を止めるため、過去に行った時でした。相手がまだ事を起こす前から、干渉された結果の未来……ひとつの可能性が、視えるようになったんです」

「ふうん……神子姫の予知とはまた違うのねえ。でも今回は過去に来てないし、何が視えたの?」


 茜色と黄金の瞳をもつ少女は映ったものを噛み締めるように一度それを閉じる。


「……ゴーレムに乗った小さな子供が、ここで暴れまわっている映像です」

「!」

「それって……」


 土人形を操る能力は先日見たばかりの一行だが、その力はとても珍しいものだ。

 そしてそんな能力をもつ者の一人がここにいるアングレーズと、それから彼女の父親のワッフル。


「……たぶんあたしのお父さんね。昔は居場所がなくて荒れてたらしいから」

「目と髪の色から見ても、恐らく……」

「今度は過去の断片も感じ取れるようになった、ってことか?」


 こんな古びた遺跡の中で大柄なブオルよりさらに大きく頑強な土人形を無遠慮に暴れさせれば、壁や天井にダメージが蓄積されるのも無理はない……先程の崩落の原因になんとなく結びついた気がして微妙な顔をする三人だった。


 と、


「おーい!」

「カカオ君?」


 積み重なった瓦礫の隙間から漏れ聞こえたカカオの声に、メリーゼが振り返って応える。


「風花に空気の流れを調べて貰ったんだけど、この先で道が交わるところがあるんだってさ。あと外に通じる道もあるみたいだ」

『そういう訳ですから、進んで大丈夫ですよ。しばらく壁越しでお互いの様子がわからないかと思いますが、わたしならこうやって行き来できます。連絡役はお任せください』


 実体をもたない精霊である清き風花が壁をすり抜けてメリーゼ達に微笑みかけると、完全に繋がりを断たれた訳ではないのだという安堵があった。


「そっか、それなら安心して先に進める。ありがとな、風花ちゃん」

「合流地点で会いましょう、みんな」

「承知でござる! お互い、無事に!」


 安心したら、次は気合いを入れて。


「いくぞ!」


 希望を見出だした彼らの足取りはしっかりと、迷いのないものとなった。

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