16~月夜に想う~・4

 パスティヤージュの夜風はひんやりとしており、昼間の砂漠の暑さとは対照的だ。

 ガレに連れられて外に出たカカオは、空と仄かな光を発してそこに浮かぶ月が混じりあって織り成す色彩の美しさに一瞬言葉を奪われた。


「確かに、綺麗な月だな……」

「にゃははー、そうでござろう」


 長い尻尾をうねらせ、何故か得意気になるガレ。

 図体こそ大きくなったが、素直なところは変わっていないようで、なんだか微笑ましくなったカカオはふっと目を細めた。


「んで、わざわざ連れ出して何か話でもするのか?」

「……“あの夜”も、月が綺麗だったのをよく覚えているのでござる」


 ガレがふいに話を切り出せば、カカオの目がきょとんと瞬く。

 ややあって思い当たったのはマンジュの夜……イシェルナに気功術を教えて貰った時のことだった。


「もしかしてあの特訓のことか? 今のお前にとっては十五年も昔の話なんじゃねーのか?」

「それでも、昨日のことのように思い出せる。ひたむきに厳しい修行と向き合い、ついには気功術を身に付けたカカオどの……かっこよかったでござる」


 父親譲りの赤銅色の猫目はきらきらと憧憬に輝く。

 それが何だか照れ臭く、気恥ずかしくて、カカオは指先で頬を掻いた。


「そんな大したことは……」

「それに、ししょーが時空干渉で消えそうになっていた時に取り乱したそれがしを宥めて、役割を与えてくれた。あの時からカカオどのは、それがしの憧れのお兄ちゃんなのでござるよ」


 お兄ちゃん。


 その言葉を耳にした途端、カカオの表情が自嘲じみた笑みに変わる。


「オレ、ろくな兄ちゃんじゃねえんだけどな……」

「カカオどの?」

「なんでもねえよ。なんつーか……ありがとな」


 照れ隠しに視線をそらしながらも、それはガレに満面の笑顔をさせるのには充分なもので、


「それがしもあの頃からいっぱいいっぱい強くなり申した。今度はそれがしが、カカオどのや皆を助ける番でござる!」

「そっか。頼りにしてるぜ、ガレ」


 カカオよりずっと高い位置になった肩をぽんと叩くと、心から嬉しそうな声が返ってきた。


(猫っつーか、でっけえわんこって感じになったなぁ……)


 なんて思ったことは、ガレには内緒。

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