14~パスティヤージュの守護者たち~・4

 パスティヤージュの中央にある月白の祭壇という場所は、神子姫が特別な啓示を受ける神聖な場所であり、里の中でも限られた者しか入れない。

 現在はフィノと契約している光の大精霊“月光の女神”が住まう場所でもあり、人間好きの彼女は古くからこの里を見守っているのだ。


「ねーねー、特別な場所なのにボク達が入っちゃっていいの?」

『主であるアタシが許可するんだからいいのよ。遠慮なく入って入って♪』


 何もないとこだけどね、と付け加えて先を行く女神の後ろ姿は、甘い色合いの衣が脚の付け根近くまでうっすらと透けており、くねくね歩くたびに魅惑の脚線美がそのシルエットをちらつかせる。


 何とも言えない表情でそれに釘付けになっていた男性陣に気付いたのか、女神は振り返ると、


『やぁだ、そんなに見つめても……いいケド♪』


 などとウインクをした。


「いや、見つめるというか見ちまうというか……」


 訂正したくてカカオが口を開いた、その時。


「きゃあぁぁ!」


 村の入り口付近で尋常でない悲鳴が聴こえ、場の空気が一気に張り詰めた。


「なんだ!?」

「話は後にした方が良さそうですね……行きましょう!」


 互いに見合わせるとすぐさま駆けつけた彼らが見たものは……


「あの黒い化物……“総てに餓えし者”の眷属!」


 空間にぽっかりといくつかの穴が口を開け、そこからぼとぼと落ちて来た黒い歪な塊が里の者達を襲っている。


『本当に、俺の力と関係なく現れるようになったね。いよいよ時空の壁が不安定になってきたのか……』

『けどこのパスティヤージュに来るなんていい度胸じゃん?』


 チラ、と月光の女神がフィノに目配せすると彼女は既に杖を構えていた。

 ワッフルも地に手をかざし、引き上げるように何かを生み出す。

 その“何か”はみるみる山のように盛り上がり、ブオルの巨躯よりも一回りも二回りも巨大な土人形となった。


「す、すげぇ……」

「ゴーレム、皆を守れ!」


 逃げ惑う人々の前に太い腕を差し出し、自ら壁となるゴーレム。

 時間稼ぎと皆の避難を済ませると、ワッフルはフィノに向けて「やれ!」と言い放つ。


 シャラン、と大振りな杖の鳴子が音色を奏でた。


「七色の煌めき纏いし者、美しき調べに乗せ、清らかなる光を!」

『オッケー、任せなさい!』


 先程まではただ姿を見せていた、という感覚が近かった月光の女神が、フィノの声に応えて色とりどりの光を纏い、はっきりとそこに存在する。


『無粋な化物には消えて貰うよっ! さぁ、覚悟しな!』


 女神の高く掲げた手から強力な光が四方八方に放たれる。

 その光は邪悪なモノだけを貫き、悲鳴をあげる間もなく消し去った。


「うわぁ、ボク達の出番なさそうだね……」

「だ、だな……」


 カカオ達もぽかんとするほどあっという間に魔物は消え、里はもとの静けさを取り戻した。


『向かうところ敵なし。夫婦揃ってパスティヤージュの守り神、って感じ?』

『当然。このアタシが見込んだ娘とそのダーリンなんだからね!』


 女神は誇らしげに胸を張り、どん、と己の胸板を叩いて見せた。

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