8~英雄から、未来の英雄へ~・4

 英雄達が浄化してくれたとはいえ、魔物が暴れまわった爪痕までは消すことは出来ず、街は変わり果てた姿を晒していた。


「どこもかしこもひどい有り様だ……」

「浄化ができるカッセさん達がいなかったらと思うと……けど、これがこの王都だけの話じゃないのだとしたら、いくらなんでも手が足りないわ……」


 メリーゼのそんな呟きに手乗り毛玉の姿になったランシッドが彼女の肩でその横顔を見上げる。


『腕輪の話は前にちょっとだけしたと思うけど、カカオ……君の祖父、名工ガトーが二十年前に作った、あの化物に対抗できるものなんだ』

「じいちゃんの腕輪……」


 ガトーは自分の功績を話して聞かせるようなタイプではないのだろう。

 ランシッドの話を聞いてもピンと来ないくらいには、孫のカカオはその子細を知らなかった。


『装備者の精霊との繋がりを助けて、大精霊との契約や聖依術ほどじゃないけど簡易的に浄化の力を授けるものなんだ』

「英雄と言えども少人数だからな。二十年前の戦いで騎士団や他の者にも持たせ各地で支援が出来るようにした。ガトーが戦いの後も眷属の残党が消えるまではしばらく腕輪を作り続けてくれていたから、数はそれなりに行き渡っている」


 そうやって一度は必要にならなくなったものだったんだがな、とモラセスは目を伏せる。


「術技の補助的な役割も果たすからフレスやグラッセのように今でも身に着けている者もいるが……必須でなくなって久しい今、お前達のように若い騎士はその存在すら知らないだろうな」

「父上がいつも大事そうにしているあの腕輪……?」


 記憶と照らし合わせたクローテの独言に「ああそうだ」とモラセスが頷く。

 先王は、真面目で律儀なフレスらしいな、とも加えた。


『それでその腕輪、メリーゼ達に渡せる分はある?』

『この先のことを考えたら、彼らには必要になるでしょうね……』

「?」


 時精霊と風精霊の言葉に、カッセは疑問符を浮かべ、カカオ達を改めて見上げた。

 英雄の一人であり戦いの後も仲間達との交流が続いているカッセはカカオやメリーゼ達が何者なのかは知っているが、それがどうして揃って先代の王や大精霊……スタードと契約しているはずの清き風花と共にいるのか。


 それに、うち一人、熊を思わせる大柄な男には見覚えがあるようなないような。


「モラセス殿、ランシッド殿、彼らは一体……?」


 マンジュの民は独自の文化をもち小さな島から世界を見つめる“瞳”であり、各地に散らばって情報を集め、有事の際にはそれらを束ねる長によって下された命を遂行する。

 その一員であるカッセが知らない……知り得ない情報。


 尋ねると、先王はカカオの肩に腕を回して強く引き寄せ、


「こいつらはな……“未来の英雄”になるかもしれん奴等だ」


 そう言ってニヤリと口の端を上げるのだった。

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