大きくなったウルバノ


 アスカを連れてやってきたのは子ども園だ。ウルバノもここにいることが多いし、子ども園も案内出来て一石二鳥である。

 魔王城の敷地内にあると教えると、アスカは目を丸くして驚いてくれた。案内のし甲斐があるね。なんでも興味津々で聞いてくれるから本当に聞き上手だ。


「へー、ここがこども園なんだ。いいなぁ、同年代で集まって遊べる場所っていうのー。憧れるー」

「その気持ち、わかる。私たちは環境的にも種族的にも歳の近い子が周囲に少なかったもんね……」


 そして気持ちがすごくわかる。周囲の大人たちが飽きないようにとあれこれ工夫してくれたり、時々同年代の子と会うことはあっても、一度にたくさんの同年代が集まるような場所はないもんね。

 前世では普通に通っていた学校が恋しくなるんて思ってもみなかったなぁ。どんな風に過ごしていたかも今ではあまり思い出せないけど。


 子ども園に一歩足を踏み入れると、庭で遊んでいた子どもたちが私たちに気付いてわぁっと駆け寄ってきた。か、可愛いっ!

 取り囲まれながらこの人誰? と注目を集めるのはアスカである。初めて見る人は気になるよねー。特にこれだけキラキラした美少年なら余計に。

 もちろん、仲には人見知りをして私の後ろに隠れる子もいるけど。いずれにせよ可愛い。


 子どもたちに取り囲まれて質問攻撃が続いたけれど、そこはさすがのアスカである。持ち前の気さくさと明るい口調であっという間に子どもたちと仲良くなってしまった。

 わかってたけどすごい。というか、もはや友達といってもいいくらいの打ち解けっぷりだ。ぐぬぬっ!


「いいなぁ、アスカはあっという間に友達になれて」

「え? メグだってみんなと仲がいいんでしょ?」

「仲はいいけど……」


 私が悔しがるのにはちゃんと理由がある。だって、だって!


「メグ様っ! こんにちは! ど、どうぞゆっくりしていってくださいね!」

「め、メグ様だぁ! 今日いらっしゃる予定でしたもんね! うぅ、相変わらず麗しいです……!」


 慕ってはくれる。それはもう熱烈に。すごく嬉しいし、可愛いし、ありがたいけど……! どう頑張っても友達という仲にはなかなかなれないのだ。くっ!


「あー……なんとなく察した。友達というよりも憧れになっちゃうんだね」

「ここで友達作りをしようと頑張ったこともありました……」


 もちろん、嫌じゃないよ! みんなが思ってくれる気持ちは本物だってわかっているもん。

 ただ、友達という気軽な仲にはなれそうにないのだ。魔族は力に惹かれるのだからそれも仕方ないけど。

 いいの、諦めているから。ちゃんと次期魔王として振舞うくらいの覚悟は出来ている。魔王になる覚悟までは出来ていないけど。ダメダメである。


「め、メグ様! それに、アスカも……!」

「わー! えっ、ウルバノ!? すっごい、予想以上に大きくなってるしー!」


 ほんのわずかに落ち込んだ時、建物の方からウルバノがやってきた。確かにすごく大きくなってる! 私はアスカよりも頻繁に会っているけど、それでもビックリするからアスカはもっと驚いただろうな。


「久しぶりだねー、ウルバノ!」

「うん。手紙ではやり取りしているけど、会うのはすごく久しぶり」

「なんだよぉ、めちゃくちゃ筋肉ついてるじゃん。羨ましいなー、ぼくはいくら鍛えてもそんな風にはつかないんだよねぇ」


 アスカがなかなかの勢いで体当たりしにいき、それを難なく受け止めて普通に会話を続けるウルバノ。

 アスカだってそこそこパワータイプなのに微動だにしなかったことに私は驚いたんだけど、アスカは気にしていないみたい。


 まぁ、確かにウルバノはかなりガタイが良くなったし、その程度じゃ揺るがなそうっていうのは見てすぐわかるけど。


「でも、実力はまだまだだよ。技術力もおいついてないから……」

「そうかなぁ? あ、そうだ。滞在中に手合わせしよ! 訓練になるでしょ?」

「いいの? 嬉しい。じゃあ頼むね」


 しばし、男子たちのじゃれ合いをニコニコと見させてもらう。ひ弱に見えて好戦的なキラキラエルフ男子と、強そうに見えて保守的で優男な巨人族の友情……。どちらも訓練大好きな努力家ってところが共通点である。


 さて、このままだと今すぐに訓練を始めそうな勢いなのでそろそろ声をかけさせてもらいます。


「二人ともちょっと待って。訓練はまた後でっ! これからアスカに城下町を案内するって話だったでしょ?」

「あ、そうだった!」


 やっぱり今から訓練を始めるつもりだったらしいアスカは、頭を掻きながら誤魔化して笑う。まったくもー。ま、いいけどね!


「それで、ウルバノも一緒にどうかなって誘いに来たの。もちろん、父様の許可はもらってます!」

「根回し済み、ですか? メグ様には敵いませんね。へへ、じゃあご一緒させてください」


 真面目なウルバノのことだから、子ども園のお手伝いがあるとか魔王様に聞いてから、とかで遠慮しそうだと思ったからね! 根回し大成功だったようだ。ふふふん。


 というわけで、早速ウルバノとアスカと私の三人で城下町へと繰り出しましたー!

 覚悟を決めていた通り、街の人たちには何度も囲まれちゃったけどね。でも、その度に美味しいご飯やおやつ、お花や食材なんかももらっちゃったので、アスカは終始ご機嫌でした。この子には食べ物を与えておけばいい、みたいなところあるからね……!


 それに、最近の街の様子や流行、子どもたちの様子や父様の評判も聞けて私としても充実した時間を過ごせたよ。ウルバノも、逞しくなったねーって色んな人に背中を叩かれて照れていたな。

 もう大人と言ってもいいくらいの成長をしたウルバノだけど、そうして恥ずかしそうにする様子が年相応な子どもって感じでちょっとだけ安心した。

 べ、別に置いて行かれそうで寂しいとか思ってないもん。ちょっとだけだもん……。


「はー、城下町の人たち、みんな親切だったなー!」

「アスカ、すっごく色んな物をもらってたね……? メグ様よりたくさんだったかも」


 街を抜けて、丘の上にある公園へと向かいながら談笑を続ける私たち。

 アスカって贈り物のしがいがあるからねー。私もついあげたくなっちゃうもん。


「それにさ、ぼく、ちょっと誤解してたんだよね」

「誤解?」


 アスカが少し罰の悪そうな顔を浮かべて言うのは珍しい。ウルバノと目を合わせてから二人してアスカの顔を覗き込む。


「魔族ってさ、もっと近寄りがたいかと思ってたんだー。魔王様が唯一! 魔王様万歳! ってイメージがあったっていうか……」

「あ、それは間違ってないと思う」


 事実、城下町に住む人たちは魔王至上主義だから。ひとたび魔王の悪口なんか口にしたらすごい勢いで冷たい視線を向けられるだろうし、下手したら攻撃されると思う。実は過激派なのである。

 でもまぁ、アスカの言いたいこともちょっとわかるよ。たぶん、もっと近寄りがたいと思ってたんじゃないかな?


「なんとなく自分とは違う人たち、みたいに思っていたところがあってさ。人間たちが魔大陸の者たちのことを誤解していたのはこういう気持ちだったのかなって思ったっていうかー」


 ああ、なるほど。確かに同じような感覚かもしれない。そういう誤解はやっぱり実際に会って接してみないとわからないよね。人間の大陸を旅して本当に実感した。


「ここに来てよかったって思ったのとー、まだ知らないことだらけだなって」

「そうだね。私も知らないことだらけだよ」

「ぼ、僕なんか、もっとかも……!」


 そう、私たちはまだ知らないことが多い。色んなことを知っていかなきゃっていうのもあるけど、知らないことをイメージだけで決め付けないようにしたいよね。

 気を付けていても、無意識に思い込んでいることって多いから。


「これから知っていこうよ。私たち、同期でしょ?」

「同期……?」

「おー! 同期ー! いいね、良い響きだねー」


 私の言葉にウルバノが首を傾げ、アスカが嬉しそうに同意した。よくわかっていないウルバノには私からそうだよ、と声をかける。


「だって、私たちって同年代でしょ? 一緒に成長していける仲間ってことだよ」

「一緒に成長していける……えっ、仲間、ですかっ!?」


 ウルバノは予想通り慌てたように手を横に振っている。自分はまだまだだからって。

 言うと思ってたよー。アスカも予想がついていたのか肩をすくめている。それから軽くウルバノの肩をパンチした。


「実力差なんかどーだっていーのっ! そんなこと言ったらぼく、魔力ではメグに勝てないし、力じゃウルバノに勝てない中途半端なヤツじゃん」

「えっ、そんなこと……」

「そんなことあるでしょ。事実だもん。けど、ぼくはそれで自分が弱いヤツだとかダメなヤツだとか思ったことないよ。ぼくにしか出来ないことがあるし、役に立てるって自信があるから」


 アスカは両手を腰に当てて胸を張って言い切った。そういうとこだよ。アスカのすごいところはそういうところだ。

 自分のことをちゃんと知っていて、絶対に自信を失わない。それってそう簡単に出来ることじゃないもん。


「ウルバノにはないの? 自信。そんなんでメグに仕えるだなんてよく言えるよねー」

「なっ、ぼ、僕だって、自分に出来ること、あるっ!」

「おっ、その調子ー! ね? だからぼくたちはライバルで、仲間なんだよー。わかった?」

「うっ、わ、わかった」


 そして、あっという間に自信のないウルバノを説得しちゃった。こういうところは真似しようと思っても無理だ。アスカにしか出来ないことである。


「カッコいいなぁ、アスカ」

「へっ!?」


 あ、声に出てたみたい。アスカがものすごくビックリしながら振り向いた。


「うん、かっこいいよ、アスカ」

「う、ウルバノまでぇ!? ちょっとー、やめてよー! ぼくは確かにかっこいいけど急にそんなこと言われたら恥ずかしいーっ!」


 おや? 珍しい。アスカが顔を真っ赤にするなんて。貴重な姿が見られたかも!



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※出版社からファンレターを転送してもらいました。送ってくださった方、本当にありがとうございます!

住所が記載してありましたので、個人的に作成したSSペーパー(非売品)とともにお返事をお送りします。しばしお待ちくださいー!

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