メグ語り


 結局、セトくんとマキちゃんは今日からこの簡易テントで過ごすことになった。安全面からいってもその方が安心だしね。

 私たちがお墓参りに行っている午前中の間に、2人ともだいぶニカさんには慣れてきたみたいだし、この調子なら大丈夫そうだ。まだ緊張はしているみたいだけど、時間の問題だろう。


 昼食を食べ終えたら、また私たちとは別行動だ。ニカさんが2人を連れて街を歩いてくれるらしい。しばらく滞在するから、何がどこにあるかを覚えておいてもいいだろう、とのこと。ずっとテントで待っていても暇だもんね。


 私たちは何をするかと言えば、当然スカウト活動である。この街はコルティーガの中心都市でもあるのだから、声をかけないわけがないのだ。

 ここまで来る途中で出会った人たちのように、即決してくれる人がいるかはわからないけどね。興味を持ってもらうことが第一歩だから、地道にコツコツ声をかけます!


 広い街なのでまた二手に分かれて行動することに。ロニー、またよろしくね!


「ちょっとくらいメグと2人でデートしたいよー!」

「さすがに許可出来ねーなー。魔大陸ならまだしも、この大陸で子ども2人には出来ねぇよ。任務じゃなくても、な!」

「わかってるけどーっ!!」


 アスカがごねている。リヒトやロニーも、私たちなら多少は大丈夫だろうとはわかっているけど、許可は出せないよね。

 それもわかるからこそ、アスカも無理に駄々をこねることまではしていない。


「魔大陸に帰ったら出かけようよ。正式に仲間になったお祝いに、行きたいところに付き合うよ!」

「そっか。ぼく、戻ったらオルトゥスの仲間になれるんだっけ……」


 私の言葉にアスカはハッとしたように呟き、それからじわじわと笑みを浮かべ始める。

 そうだよ、そうだよ、そうなんだよ! 私もアスカが仲間になるの、ずっと楽しみにしているんだから!


「よぉし、メグ! 今の言葉聞いたからね! 約束だよぉ?」

「うん、約束。だから今は頑張ろう!」

「わかった! もう文句言わないっ」


 両拳を軽く握って決意を新たにするアスカの笑顔は眩しい。もっと大人になってもこの素直さが失われないでほしいな。


「アスカの手綱を握るのがうまくなったよな、メグ」


 リヒトの言い方はちょっとアレだけど、単純で可愛いなと思ったのは事実です。

 リヒトからソッと目を逸らすと、呻き声が聞こえてきたのでアスカに脛でも蹴られたのだろう。自業自得である。




 中央の都でスカウトをすること7日ほど。この都ではまた2人の人材を誘うことに成功した。

 今の生活や仕事などの理由でまた数年後に、という約束も数件あったし、考えてみたいって言ってくれた人ならかなりたくさんいた。大きな街とはいえすごい成果だと言えよう。頑張った! 私たち、頑張った!


 この街で増えた2人は住む場所が元々ある人たちなので簡易テントに泊まることはないけれど、セトくんやマキちゃんの紹介は済ませたよ。一緒に頑張る仲間だからね。

 4人とも緊張気味だったけど、すぐに打ち解けたみたいで私たちも安心した。すでにセトくんとマキちゃんはニカさんとは完全に打ち解けているし、マキちゃんの発作が出ることもなく穏やかに過ごせている。

 もしもの対応もニカさんに任せれば問題ないから不安要素はなくなった。


 そろそろ頃合いだろうということで、私たちは次の街へと向かうことにした。もう少しいてもよかったんだけど、噂は十分に広まっただろうから問い合わせがあればニカさんが受け付けてくれるし。


「うぅ、いってらっしゃいです。メグちゃん」

「マキちゃん……! 魔大陸に出発する時は見送りに来るから! それに、魔大陸に帰ったらいつでも会えるからね!」

「はいぃ! それまで私、頑張ります!」


 私とマキちゃんはヒシッと抱き合った。いつの間にか妹みたいな存在になったマキちゃん。お姉ちゃんも寂しいよぉ!

 そんな私たちを生温い眼差しで見守る皆さん。あ、この視線は知ってるぞ。サウラさんとハグをしている時にもこんな風に見守られた気がするもん!


「ニカさん、あとはよろしくお願いします!」

「任せとけ! お前たちも気を付けてなぁ」


 名残惜しいけど、いつまでもこうしてはいられない。ニカさんやスカウトしたみんなに見送られながら、私たちは再び旅立った。


「どんな順番で回る予定なの?」


 人が少なくなるまで普通の速度で歩く私たち。まだ細かい部分は決めてなかったんだよね。ゆる旅である。

 で、旅の予定にについてはリヒト曰く、北、西、南の順で回って最後に中央に戻ってくるという。


「北は寒い地域だから。これからどんどん寒くなるし、後回しにすると、移動が辛くなる」

「そーそー。それに真冬になるとみんな家から出なくなってくるからさ。そうなるとスカウトどころじゃなくなるだろ?」


 魔大陸と違って人間の大陸は四季のようなものがあるんだっけ。口ぶりから察するに、北は雪国みたいなものなのだろう。陽が射す時間が極端に短いっていうからかなり厳しい寒さになるのかも。


「ねーリヒト? マフユってなに?」

「え? ……あー、そっか。無意識に使ってたけど、四季については知らないんだっけ。ひょっとしてロニーも知らない?」

「季節によって気候が変わるってことなら、わかる。でも、マフユは、知らない」


 春夏秋冬は知らないってことか。いや、単語を知らないだけでこの世界には別の呼び方があるのかもしれないな。魔大陸では使わない言葉だし、この世界での言い方は私も興味がある。


「俺らが元いた世界にはさ、春夏秋冬っていう言葉があって。季節が大きく分けて4つあったんだ。春、夏、秋、冬ってさ」


 リヒトが説明を始めてくれる。久しぶりだなぁ、この感覚。あまり日本にいた頃の話って誰かに説明することがないから。


「ちょっと待って。元いた世界って? それに、俺らってどういうこと?」


 しかし、説明を遮ってアスカがさらに首を傾げた。そ、そうでした。アスカはまだ色々と知らないことが多いんだっけ。

 オルトゥスの仲間になってからゆっくり説明する予定ではあったけど、ここまで聞かされてまだ内緒です、っていうのはさすがにないよねぇ。後回しでいいかって思っていたけど、こういう普通の会話で引っかかるものなんだな。


「…………アスカ」

「何さ」

「とりあえず一度確認するんだけど。お前、俺やメグのことどこまで知ってるんだ?」

「どこまでって言われても、ぼくも意味わかんないよ?」


 リヒトの気持ちもアスカの気持ちもわかる。正直、私もアスカがどこまで知っているのかわかっていないんだよね。どこかで誰かから聞いているかもしれないし。


「もうこの際、最初から全部話しちゃおうか。長くなるからなかなか切り出せなかっただけで、別に隠しているわけでもないし。あっ、あんまり言いふらされるのは困るけど!」

「うん、そうして! なーんかぼくだけ除け者みたいで嫌だったんだよ。ただでさえ人間の大陸はぼくだけ初めてだしさー」


 口を尖らせて拗ねるアスカを見ていたら余計に申し訳なくなっちゃったな。そうだよね。自分だけ知らないことがあるのって寂しいよね。今は4人で旅をしているのに、同じ仲間なのにって。


「よし、わかった。ただ、移動しながらな? 休憩の時とか、合間に少しずつ話していく感じでいいか? 全部を話していたら時間のロスになるし」

「それでいいよ! やった! やっとメグの話が聞けるー!」


 アスカなら大丈夫だとは思うけど、私の話って突拍子もないっていうか、そんなことある? ってエピソードばっかりだから引かれないか心配だ。ちょっと気恥ずかしいし。

 それでも、ちゃんと話すって決めたもんね。まずは私がこの世界に来た時の話からしていくとしますかー!


 こうして、私は歩きでの移動時間や休憩時間を使って一つ一つアスカに話して聞かせ続けた。アスカは聞き上手で、基本は黙って聞いてくれた。

 ただ目が本当に輝いているんだよね。未知の出来ごと興奮を隠せない様子で話しているこっちがたじたじになっちゃったよ。


 時々、疑問に思ったことを質問してきたり、ロニーも一緒になって驚いていたりもした。思えば、ここまで詳しくはロニーにも話していなかったもんね。それにしても食いつきすぎだとは思うんだけど。


「だって、他でもないメグの話だもん。大好きなメグのことなら何でも知りたいって思うじゃなーい」

「アスカったら。でも、気が楽になるかも。ありがとね」

「ぜーんぜん響いてないけどメグがいいって言うならまぁ、いっかー……」


 たまに今のように不服そうな顔を見せて何かを呟くけど……。物語ではなく実際にあった出来事の話だから面白くない部分もあるよね、ごめん。

 でも、ハイエルフの郷での一件はかなり興奮したみたい。やっぱり男の子だね。戦闘の話になると食いつきが違う。


「今は定期的にハイエルフの郷に行ってるくらいなのに、そんなことがあったんだねー。不思議ー」

「あ、あはは。まぁ、シェルさんとちゃんと和解が出来たのかって言われるとちょっと微妙なんだけど……」


 有耶無耶で終わった感はあるんだよね。謝ったことも、謝られたこともないから。

 マーラさんやピピィさんには何度も謝られているんだけどね。ただ、あの人が正直に謝って来るとはとても思えない。そんな日が来たらそれはそれで怖い気もする。


 でも、遥か昔のご先祖様は神様だったとか、神に戻るための種族がハイエルフなのだとかいう話はどこまでが真実なのかちょっとだけ気になってはいる。

 ハイエルフの人たちが嘘を伝えるわけはないとは思うけど、これだけの年月が過ぎているのだからどこかで情報が間違って伝わっているってことはありそうだもん。


 実際、シェルさんは本気で神に戻ろうと頑張っていたわけでしょ? 今は興味を失っているとはいえ、本気だったことは事実だ。そして、あと一歩だったとも聞いたような気がする。


 どんな条件があればハイエルフが神になるんだろう。そもそも、この世界の神様ってどんな存在なんだろう。人間はどうかしらないけど、魔大陸の人たちはこれといって信仰はないから馴染みがないんだよね。


 自分の特殊体質である夢渡りについて調べた時、チラッとその辺りに触れたけど……。まるで神話だなぁという感想だけでスルーしていた。

 機会があれば一度、その辺りを調べてみてもいいかもなぁ。自分の種族の歴史くらい、知っておいた方がいい気もするし。


「ねー、それで? その後はどうなったのー?」

「あ、えっとね。一度私が風の中に捕まっちゃって、自力で抜け出したんだけど……」


 続きをせがむアスカに思考を引き戻される。ま、全部は魔大陸に帰ってからだね! 引き続き私は、昔を懐かしみながら続きを話してきかせた。

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