ほんのわずかな意識の差
「つ、つ、疲れたぁ……」
7階層は思っていたよりも広く、途中で休憩を挟むことにした。苦戦しているから広く感じるっていうのもあるかもしれないけど、やっぱりこれまでよりもかなり広いフロアだと思う。
だから少し開けた場所に出たところで周囲の魔物を倒し、結界魔道具を使ってやっと一息ついたところなのだ。すぐに飲み物と軽食を準備して体力の回復をーっ!
「思っていたよりもずっと厳しいな……。今日中にこのフロアの攻略するのは難しいかもしれない」
「そうだねぇ。私も先頭に立って戦うのって慣れてないから、思うように進めなくてごめんね。うぅ、修行不足だぁ。グートに頼り切ってたもんなぁ」
休憩しながらも反省会。いつもと違う動きをしているんだもん。それでも怪我もなく進めているんだから2人とも十分すごいと思うよ。
足を引っ張っているのはむしろ私の方だ。私はただ、みんなの防御を魔術でしているだけだから。魔物を一緒に倒すくらいの余力はあるんだよね。
それが出来ないのは、私の覚悟の問題。どうしても魔物に攻撃魔術を放てないのだ。うあああああ! 役立たず! 私、すごく役立たずぅっ!
「メーグー? 今、自分は何も出来てないとか考えてるでしょ」
「うっ、あいたっ!?」
俯いていると頭上からルーンの声とデコピンが降ってきた。地味に痛いっ! でも、なんでわかっちゃったんだろう? また顔に出ていたのかなぁ?
「わかるぞ、メグ。俺にもわかる。ほんっと、わかりやすいよなぁ」
「グートまで!? なんでぇ?」
おでこを抑えながら涙目になっているとグートにまで笑いながら言われてしまった。くーっ!
思考がバレてるのはさておいて、2人からは私のこの考え方も気に入らないっていうオーラが漂っている。だ、だって実際、まだ出来ることがあるのに出来ていないんだもん!
「いい? まずメグが保護魔術を使ってくれているから怪我もなくここまで来たんだってことを忘れないでよ?」
「そうだぞ。こればかりは本当。保護してくれていなかったら俺たち、すでにワイアットさんに手助けされてスタートに戻ってるからな?」
え、そこまでかなぁ? いや、うん。そうかも。危ない場面は何度かあったし、このフロア自体が熱いからスタミナももっと消費していたよね。
「というか、今も保護してくれているよね? あんまりのんびり休憩していたらメグが大変なんじゃ……!」
「あ、それは大丈夫だよ。休憩中はそこまで維持するのに注意しなくていいから」
「いや、魔力はガンガン減っていくだろ」
それはそうだけど。魔力だけは人よりたくさんあるからそこは問題ないんだよね。万が一少なくなっても、魔力回復薬も少し持ってきているし。
でもまぁ、使うことはないと思う。だって、魔力が減っている感覚さえまだないくらいだもん。
だからそれはいいのだ。この保護魔術だって、こうしてかけ続けていることで慣れてきたしね。魔力の消費もかなり抑えられるようになってきたみたいだし。
だから本当に頑張っている自覚がないのだ。私は自分で自分にガッカリしているんだよ! いつまで魔物の対応を2人に頼っているのかって! 馬鹿っ、私の馬鹿ぁ!
そんな思いを割と包み隠さず告げると、軽く引かれつつも2人は一緒になって考えてくれた。ご迷惑をおかけします……。
「ねぇ、意識を変えてみるのはどうかな? メグは魔物を倒さなきゃって考えているよね? そこから考え方を改めてみるのはどう?」
ふと、思いついたようにルーンが口を開く。
聞いてみると、私は魔物に魔術をぶつけるイコール倒すという頭になっているから、それを変えてみないか、ということだった。魔物を倒すというよりは、攻撃を当てるという意識に、って。
「ほら、闘技大会ではメグもちゃんと攻撃魔術を使えたじゃない? 模擬戦でだって出来るわけでしょ? 魔物を消滅させるって考えるから動けなくなるのよ。対人戦だと思えば、致命傷を与えずに魔物の動きを止めたり追い払ったりは出来るんじゃない?」
「……! 確かに!」
それは盲点だった。魔物は倒すものって思い込んでいたから、その思考が余計に自分を縛っていたんだ。
考えてみれば、変質者を撃退するのだって怪我をさせない程度に攻撃魔術を使っているじゃないか。なんでそこに思い至らなかったんだろう!
「思うんだけどさ、メグは無理に魔物の討伐をする必要はないよ。ルーンの言った方法で危険を感じた場合に撃退出来ればそれで充分だ。将来、討伐依頼をわざわざ受けることもないし、メグは自分に出来ることをやればいいだろ?」
それも確かに。でも、いいのかな? この世界で生きていくのに、魔物の殺生を人任せにしたままだなんて。
……そんなこと言ったら、前世含めて生きるために食べているお肉とかも、解体なんかは全て人任せなわけだけど。なんというか、魔王の娘だしそんな軟弱な姿勢でいいのかなって思わなくもない。
「魔物を倒すのが全てじゃないもの。倒さずとも無力化出来るなら、私はそっちの方がすごいと思うけどなぁ」
再び本音を漏らすと、ルーンからもそんな風に言ってもらえた。そ、そうかな? 本当にいいのかな? いいような気がしてきた!
「私、やってみる! 私なりの方法で、魔物の撃退が出来るようになってみせる!」
スッと立ち上がって拳を握りしめると、ルーンとグートから拍手をされる。ありがとう、ありがとう、頑張る!
なんだろう、魔物を倒さなくてもいいんだ、って思ったらかなり視界が開けたっていうか、どれだけ視野が狭くなっていたんだろうって気付いたっていうか。
ちょっと考えればわかることだったのに、私もまだまだ未熟だってことだね。
今ならなんでも出来る気がする。というわけで、これからの攻略は私もルーンと一緒に前に立ちます!
反射神経が2人よりも鈍いから先頭には立てないけど、出来る範囲ですぐに対応出来るように! そして今回はグートがサポートをする係。私やルーンが慣れないことを頑張ってくれるのだから、自分もやると意気込んでいる。
「普段はむしろサポートが得意なのに、戦闘になると前に立つんだもんねー」
「それを言ったらお前だっていつもと逆じゃねーかよっ」
確かに、戦闘スタイルは普段の得意分野と逆のことをしているよね。なんだか面白いなぁ。
「でもそれって、戦闘にも活かせるってことじゃない? 絶対にうまくやれると思う!」
「言われてみれば……」
「そうかも! うん、出来るよグート! 私たちだって!」
3人で目を合わせ、互いに頷く。休憩はもういいよね? って無言で確認し合っているのがなんだかおかしかった。
勢いよく立ち上がると、ワイアットさんが驚いたように目を見開く。
「ん? もう休憩おしまいなのか。大丈夫かぁ? ついにオレが仕事しちゃうんじゃねーの?」
どこかからかうようにそう言われたけど、私たちは揃ってニヤッと笑って見せた。さすがのワイアットさんもちょっと不気味な光景だったのか一歩下がってたじろぐ。
「おあいにく様。ワイアットはこのダンジョンを出るまで仕事はありませぇん!」
「そーそー。これまで通り黙ってついて来てくれよ」
「ここからが本領発揮だもん! 見ていて、ワイアットさん!」
三者三様の反応を見せた私たちに、一瞬呆気にとられていたワイアットさんだったけど、すぐに面白ぇと言って笑ってくれた。
「じゃ、安心して見させてもらうかな」
頭の後ろで手を組みながらワイアットさんも立ち上がった。さっきまでの自信のない私とは違うんだから! 手早く荷物を片付け、簡易結界を解除し、私たちは再び攻略に踏み出した。
先頭に立つのはさっき言ったようにルーンと私。魔物の対応を私がするので、ルーンのメインの役割は道案内となる。もちろん、先頭に立っているので目の前に来た魔物は倒して行くけどね!
再び歩き出した私たちの前に、早速魔物たちが集まってくる。全身に火を纏った猿のような魔物が群れで私たちを囲むようにじりじりと迫ってきた。
ホムラくんもお猿さんの姿で火の精霊だから、なんとなく親近感を覚えるなぁ。……ううん、ここで弱気になっちゃダメだ。怪我をさせずに追い返すことくらい、なんてことないんだから!
ただ、ホムラくんは私たちを覆う水の温度調整でちょっと忙しく、シズクちゃんも同じく忙しい。そうなると私のカードは風、雷、蔦、そして声の魔術だけ。
ライちゃんなら攻撃が出来るけど、こちらも怪我を負うリスクがある。リョクくんは燃えちゃうから今回はお休み。そうなるとここは……。
「フウちゃん! 力技で行くよ!」
『キャーッ、そういうの、アタシ結構好きよっ』
意外と喧嘩っ早いというか、ごり押しが好きだよね、フウちゃんって。可愛らしい小鳥姿なのに性格は男前である。
そう、本来なら火を大きくしてしまう風だけど、魔物たちを上回る威力でその火を消してしまいます!
そうなったらもはやただの魔物と変わらない。一瞬でまた火を纏ってしまうかもしれないけど、それだけの時間があればきっとグートが倒してくれる。
『えーいっ! うふふふ、魔力をたくさん使っちゃうよーっ! きっもちーい!』
フウちゃんによる突風により、私たちを取り囲む魔物たちが纏う火を一斉に消し飛ばす。わぁ、フウちゃんがノリノリだぁ。
「マジかよ! ははっ、規格外すぎんだろ、メグ!」
グートもこれを見てちょっとテンションが上がってくれたっぽい。いやぁ、パフォーマンスにしてはただの力技ってところが申し訳ないけど。
意図を察したグートはすぐさま攻撃態勢に入る。そしてあっという間に全部倒してしまった。さすがである!
「や、やったぁ!」
「えぐいわねー、メグ。でも、喜んでばかりもいられないからね! さ、どんどん進むわよー!」
そうでした。いくらゴリ押しが出来るといっても、ここで立ち止まっていたらまた魔物に取り囲まれちゃう。今みたいに魔物を退けつつ、逃げながら7階層を突っ切るぞー!
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