【5巻発売記念小話】ジュマの護衛任務

【まえがき】


※昨日(19日)の21時に本編最新話も更新されておりますのでご注意ください。


おかげさまで特級ギルドへようこそ!も5巻の発売となりました。

今回の小話は、5巻に収録されている書き下ろし「紅葉採集」の5日前のお話になっています。ジュマ視点です。


少しでもお楽しみいただけますように。


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 魔王ってヤツは、魔物や亜人を惹きつける。それはオレたち鬼族も例外じゃない。


 理性のある魔物である亜人は無条件に畏怖するし、その力に惹かれる。だから魔王は魔大陸の王なんだ。

 魔力を持つ生き物全てが魔王の前にひれ伏す。もちろん、力のあるヤツなんかはそう簡単にはひれ伏したりしないし、反発することだって出来るけど、それでも魔王の絶対的な力はすげーって思うし、ひれ伏す気持ちもわかる。


 メグは、そんな魔王の血を引く子どもだ。まだ小せぇし、力もそこまでないから誰も畏怖なんてしねぇし、脅威とも思わねぇ。ただなんとなく近くにいて居心地がいい、って気持ちになる程度。

 だから色んなヤツからめちゃくちゃ可愛がられてんだろうな。ま、実力者揃いのうちのギルド連中が、それだけの理由であいつを可愛がるなんてことはしねーけどな!


 魔王の血によって、メグの側にいると確かに居心地がいい。でもメグが人を惹きつけるのは、本人の人柄によるものだって思う。それは、みんなもわかってるはずだ。


 でもさ、それって……すげぇことだよな。戦う力なんかなくても、それがあいつの強さなんだ。ずっと腕っぷしの強さだけが強さだと思ってたけど、そうじゃないんだって気付いたのは、オレがオルトゥスに来てから。鬼族は、力で全てが決まるから、強さにも種類があるなんて知らなかったんだ。


 でも知った今ならわかるぞ! メグは、まだ小さいが強い! 心が強いんだ。ろくに魔術も使えない人間の大陸に飛ばされても生き延びたし、いろいろと大変だっただろうに今はニコニコ笑ってる。

 これからはきっと、戦う力もつくし、魔力量も増えるってんだから、間違いなく最強クラスの強さになってくと思うんだ。


 オレは、それが楽しみで仕方ない。いつか、めちゃくちゃ強くなったメグと戦いてぇ!


「お、ちょうどいいところにいたな、ジュマ」

「あん? 頭領じゃねぇか。なんか用か?」


 仕事から帰ってきて、自分用の受付でちょこまか働くメグを見ながらいろいろと考えてると、ふいに頭領から声をかけられた。

 頭領は強い。間違いなく世界最強だ。魔王と同じくらい強いらしいけど、魔王とは戦ったことがねぇから細かいことはわかんねぇ。でもオレが生涯、歯向かわないって決めてる、オレの中の絶対的リーダーが頭領だ。


「5日後に仕事を頼みたい。メグとサウラの護衛任務だ」

「えっ、メグの護衛? オレが? いいのかよ」


 そんな頭領の頼みとあらば、どんなことでも拒否はしない。そう決めてるからな! でもその依頼内容を聞いてさすがに驚く。だってよー、いつもはオレになんか任せられねぇって言ってメグの護衛は他のヤツらに頼んでんだもん。


「炎葉が少なくなってきたから採ってきてもらおうと思ってな。メグには一度、紅黄こうおうの森を見せてやりたかったし」


 紅黄の森か。あそこはいつでも木々の葉が赤や黄色で、普通の森とは違うから面白ぇんだよな。そこで採れる魔道具作り用の材料の採集をメグにやらせるらしい。メグも最近ではちゃんとした依頼をこなしたりしてきてるもんな。でも街を出てやらせるなんて珍しいじゃん。


「紅黄の森はなんつーか、俺らの故郷の国で見た景色に似てる部分があるんだよ。本来なら俺がいつか連れてこうと思ってたんだが、なかなか手が空かなくてなー。仕方なく他のヤツに任せることにしたってわけ。仕方なく」


 あー、本当は頭領が連れて行きたかったんだな。それもそうか。でも、それなら余計、オレじゃなくて他のヤツに頼みそうなもんだけど。そう思ってるのがわかったのか、頭領はニヤッと笑って俺の肩に腕を回す。


「メグは人間の大陸でもしっかりやってこれた。だから森に行くことに関しては問題ないと判断したんだ。あとは寄ってくる魔物から守ってくれりゃそれでいい。お前ならそのくらい、出来るよな?」


 ゾクゾクッとした。頭領が、オレを信頼してくれてるってわかったから。この人の下で働く者として、これ以上ないほど嬉しい言葉だ。


「当然だ! メグには魔物の姿さえ見せねぇよ!」

「頼もしいな。期待してるぞ」


 メグは魔王の娘。まだ威圧もろくに使えないあいつは、亜人だけでなく魔物も惹きつける。理性のない魔物はわけもわからずメグに引き寄せられて、本能のままに襲い掛かるだろう。

 つまり、メグは魔物に狙われやすいんだ。


 自ら撃退出来るほどの強さを身に着けていたり、魔王の威圧を使いこなせるようになってるなら問題はないけどな。でも、そうじゃない。まだまだ弱っちいメグには、魔物が生息する街の外、近くの森でさえ絶対に1人で行かせるわけにはいかねぇんだ。


「今回うまく依頼がこなせたら、今後メグが森に行く時にはまたお前に任せてもいい。その判断はサウラに任せるつもりだ」

「うげっ、そのためにサウラが一緒なのかぁ」

「それだけじゃねぇぞ? サウラがいなきゃ他の素材ならまだしも、炎葉の採集が出来ねぇだろ。お前は特に採集の仕事が苦手なんだしよ」


 それはそうだ。チマチマした作業なんてオレには無理。破らないようにとか丁寧にとか言われても力加減が面倒だし、集められればいーじゃんって思っちまうから。何度もお前はやるなって言われてもいるし。


「ってことで、お前に採集の腕は求めてねぇ。ただ安全に、メグやサウラを魔物やその他脅威から守れ。それがお前の仕事だ」

「わかりやすくていいな! 任せとけ!」


 せっかく頭領からの直々の依頼だ。絶対にうまくこなしてみせる。そんで、もっともっとオレを信頼してもらうんだ。


 だってさ、そうしたらさ。もしかしたら、メグが大人になった時に、戦わせてくれるかもしんねぇじゃん?

 過保護なヤツらばっかりだからほぼ無理だろうなってのはわかってるんだけど、オレは諦めねぇ。強いヤツと戦うのはオレの生き甲斐なんだからな!


 よーし、そうと決まれば準備しないとな! 話は終わった、と立ち去っていく頭領の背を見送りながら、早速あれこれ考える。

 移動は……オレが2人を運べばいいな。サウラはオレが背負うリュックにしがみついてもらうとして、メグは? あいつ、絶対振り落とされるよな? サウラを運ぶ時と同じような感覚で空を翔けまくってたら、間違いなく落ちる。


 やべぇな? 紅黄の森に行く前に命の危機じゃねぇか。本当に弱いんだな、メグって。

 うーん、紐で括り付けるか? 抱きかかえていくってのもひとつの手ではあるけど、それじゃあ何かあった時に手が使えない分、対応が鈍りそうだし。それはそれで完璧に仕事をこなしたとは言えねぇだろうし、何よりサウラから小言が飛んでくる。それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。


「んー、ダメだ。どうせオレは馬鹿なんだから、無理に頭使おうとしたっていい考えが浮かぶわけねぇ!」


 早々に自分で考えるのを諦めたオレは、すぐにギルドの地下に向かった。紐で括り付けるにしろメグを運ぶ籠を調達するにしろ、道具が必要になりそうだし。そうなると、物作りのプロに話を聞くのが手っ取り早いからな! 


 あーでもマイユかー。あいつ、自分のことを話し出したら止まらねぇから面倒なんだよなぁ。長ぇし。けど、仕方ねぇ。腹を括って頼みにいくかぁ。




 その後、案の定マイユからは長ったらしい自分語りを聞かされる羽目になったが、カーターやたまたま通りがかったミコラーシュの意見も取り入れることでめちゃくちゃいい案が生まれ、無事にメグを運ぶ道具が完成した。

 材料費もあんまりかかってねぇし、すげぇ簡単な作りなのにこんなに便利なものが作れるなんて。やっぱ職人すげー。何がすごいって、こういうのはどうだってすぐに案が出せるとこが。自分で考えてないで聞きにきて正解だったぜ! 話は長かったけど。


 よし、これで準備万端! あとは当日を迎えるだけ。絶対にこの依頼、完璧に遂行してみせるからな!


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この続きはぜひ、本日(10/20)発売の特級ギルドへようこそ!5巻に収録されている書き下ろし「紅葉採集」にてお楽しみください!2万字くらいありますので読み応えも十分ですよ!

メグが張り切ってお仕事します!


書店様でお見かけの際はぜひお迎えしてやってください(*´∀`*)

お見かけしない場合は取り寄せ又は通販でぜひに……!

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