記念小話

【発売記念小話】オルトゥス緊急会議(sideギルナンディオ)

※特級ギルドへようこそ!発売記念小話です。まだオルトゥスに来たばかりの幼女時代のお話。

お楽しみいただけますように……!


────────────────────



「オルトゥス緊急会議を始めるわ」


 オルトゥスにメグがやってきたことは、街でちょっとした噂になっていた。出来るだけ目に触れぬようにと気を使ったのだが……メグは目立つ上に見た目もいい。一目見たら忘れられないだろう可愛らしさに、人々が黙っていられるわけもなかった。口止めしていたわけでもないため、噂が噂を呼ぶ事態となってしまったわけだ。


「あ、えっと、いえね? 特に依頼はないんですけど人を探していて」

「えーっと、あ、そうそう! 肩こりの貼り薬を貰いに来たんだ」

「こっ、ここのランチが美味しくてさ! ついつい来ちまうのさ」


 それらしい理由をこじつけて、町中のヤツらがメグを見に来る。

 探し人? どうせメグのことだろう。

 貼り薬? お前は昨日も貰いに来ていたな。

 ランチ? そう言う人だらけでギルド内の飲食スペースは連日満員御礼。


 これはまずいと頭を抱えたサウラが、ついに緊急会議を開いた、というわけだ。


「ここのところ、ギルドメンバーたちの間で日帰り依頼の争奪戦が繰り広げられているわ」


 会議室の中央で、サウラが神妙な面持ちで告げる。うちはギルド敷地内では訓練場以外で仲間同士暴れるのは禁止となっているため、大騒動は起こらないが、それゆえに毎朝張り出された依頼の前で、激しくも静かな心理戦が繰り広げられているのだ。心の弱い者なら卒倒するレベルのオーラが撒き散らされているのは、変に暴れられるのと同じくらい迷惑極まりない。何より、メグも怯えていた。いっそ俺が一掃してやろうかと何度も思ったほどだ。


「少しでもメグちゃんに会いたいからよ! メンバーの冷戦も迷惑だけど、遠方の依頼が残って誰も受けないから困ってるのよ。前までは稼ぎが良いからってすぐに受けてくれてたのに! このままじゃ処理しきれないわ。依頼は気分で決める、っていううちの特色は有名だから、かなり見逃されているけれど……由々しき事態よ」

「街の人たちが押しかけてくる上にこれでは、いくらオルトゥスでもいずれ建物が破裂するのではないかと思ってしまいますよ」

「がはは、シュリエの言い方は大げさだが、人が多すぎるのは小さなメグやサウラにとっちゃ危険だよなぁ」


 そう、とにかく危険だ。やはり薙ぎ払うべきなのでは、と思わず考えてしまう。外にいるのと変わらない顔触れのため、俺もマスクを外さない日が増えたしな。メグがなぜか悲しがるのでそれも合わせて今回の件は俺自身苛立っていた。


「ほんとよ! 私は慣れてるからいいけど、メグちゃんはトテトテと歩くから心配で気が気じゃないわ!」

「んー、メグちゃんは本当に可愛いから、すぐにいろんな人に抱き上げられているしね」

「みんな、メグが心配だからこその行為だからまだいいものの……その内抱き上げるのを目的とした奴らが出てきますよ」

「もう出てきてるかもしれないわ……」

「がはは……極刑だなぁ?」


 苛立っているのは俺だけではないようだ。だんだん漂う空気が剣呑なものに変わってきた。無論、俺も隠す気はない。


「まぁ、落ち着いて。そういう輩がいたら潰せばいいだけの話だろう? 今は解決策を考えよう。話が逸れている」


 そんな俺たちをルドが宥めた。が、サラッと潰す発言をしているから気持ち的には同じなのだろうな。

 だが、ルドの言うことはもっともだ。俺たちは話を元に戻して考え始めた。




「んー、逆転の発想をしたらどうかな?」


 基本的に物騒な考えしか出て来ず、行き詰まって黙り込み始めた時、ケイが口を開いた。こいつはこういう時に、良案を出してくれることが多いから助かる。重鎮メンバーが一斉にケイに注目した。


「この際、街のみんなに紹介しちゃうんだよ。今後、メグちゃんが一人でも安心してお散歩くらいは出来るように」


 ケイの案にシュリエが納得したように言葉を引き継ぐ。


「オルトゥスから街の皆さんに頼むのですね? 街全体でメグを見守ってもらうってことですか……いいかもしれません。隠そうとされたら見たくなるのが人の心理。1度きちんと紹介さえすれば、この騒動も落ち着くのでは?」

「一理あるわね……」


 なるほど。こちらが躍起になって隠そうとすればするほど、ムキになって見に来ようとするのか。


「……わざわざオルトゥスに見に来られるよりいいわよね。それでも来るって人には睨みを利かせられるし。しつこいとどうなっても知らない、とこれを機に圧力もかけられるわ」

「オルトゥス内でも改めて紹介したらどうだろう? メグと話したことがないメンバーもいるだろうしね。そういうヤツらも話せたら落ち着くかもしれない」


 サウラやルドも話に乗ってきた。俺は、この事態が収まるというなら協力は惜しまないつもりだ。


「歓迎会かぁ? それなら準備をしなきゃなぁ!」

「歓迎会、か。なるほど、ニカ。いい案だ。メグの歓迎会を開く、ということにすれば無理なく人も呼べるだろう」

「メグちゃんに内緒で準備を進めようよ。サプライズパーティーにしてさ。きっとすごく驚くけど、メグちゃんの喜ぶ顔が見たいから」


 おそらく思いつきで発したニカの言葉を拾い、ルドとケイも乗り気になったようだ。歓迎会か……オルトゥスに新メンバーがきた時は、部署ごとに小さな歓迎会を開くことはあったが……ギルド全体、ましてや街の人たちも呼ぶほどの規模はオルトゥス始まって以来の異例の出来事だ。


「うん……うん、いいわね! それ採用! 日時を決めて、その日は思い切ってみんなお休みしちゃいましょう。その為には死ぬ気で働いてもらうことになる人がいると思うけど……メグちゃんのためだもの。みんな1回くらい死んでも大丈夫よね!」


 サウラの宣言にみんなが苦笑を浮かべる。うちの統括は有能だが、それゆえに決めたとこはどこまでも完璧に遂行しようとする。サウラが言うなら、少なくともここにいるメンバーは1度は死ぬレベルで働かされるのだろう。決定事項だ。仕方ない。


 つまり、抵抗はするだけ無駄だ。それをわかっている重鎮メンバーは思考を切り替え、今度は歓迎会について話を詰めていく。


「街の人、全員は呼べねぇよなぁ?」

「抽選にしたらどうです?」

「うわぁ、受付の子たち、ご愁傷様だね……」


 ニカ、シュリエ、ケイは歓迎会に呼ぶ人について話を進めているようだ。


「当日は朝からメグちゃんをどうするかが問題ね……」

「おつかいを頼んでみるのは? あの子の性格上、張り切ると思うけど」


 サウラとルドが当日のメグをどうするかについて考えている。おつかいか……それはひとりで、だろうか。


「それいいわね! ならいっそのことメグちゃんには……」

「でも1人はさすがに心配だから……」

「それなら……」


 俺も会話に参加し、次々に歓迎会について話を進めていく。ふむ、これなら問題なくメグにおつかいをさせられる。当日、歓迎会の準備を進める間、オルオゥスにいられてはバレてしまうからな。あとは、予想通りにメグが動くか。……まぁ、動くだろう。メグは色々とわかりやすい。


「よぉし! 大体の目処が立ったわね! 今日中に計画書を作成するわ! シュリエはそっちで話したことをまとめて頂戴。みんな、夜にまた集まって分担を決めていくわよ!」

「「「了解」」」


 こうして、歓迎会を30日後と決めた俺たちは、メグにはバレないように水面下で様々な準備に取り掛かった。……口の軽い者たちには注意が必要だな。その辺りはこのメンバーで睨んでおけばいいだろうが、メグのためならばと結束しそうだ。どのみち問題はない。


 その甲斐あってか、メグは歓迎会のことには全く気付くことなく日々を過ごし、そして当日を迎えた。

 いつものようにまだ眠そうな様子のメグ。偶然出会った風を装うために廊下で待機するケイ、受付で目を光らせるサウラ。


 さあ、作戦開始だ。メグ、今日がお前にとって特別な日となることを祈る。


────────────────────


※この続きが、1巻の書き下ろし短編2本に収録されております。

ぜひ、当日のメグやギルドメンバーの行動を見てやってください!


発売日は7月10日です。詳しくは活動報告をご覧ください!


いつもたくさんの♡やコメント、ありがとうございます!癒されております!


来週は第3部の2章(全12話)を毎日更新いたします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る