それぞれの動向1

sideユージン


「さてと。任務に取り掛かるにあたって1度目的を確認し合おうか」


 シュリエ、ケイと移動しながら作戦会議を始める。とは言っても盗み聞かれても問題ない範囲でしか話さないが。その辺り、調査に出ることの多いこの2人なら心得ている事だし、心配はいらねぇってのが楽だ。


「扱っている商品の確認、ですね」

「あとは出来ればその出所とかかな? 書類とかそういう確固たる証拠が掴めれば1番なんだろうけど、流石というべきかこれまで問題なく運営してきた所な訳だし、尻尾は掴めなさそうだよね」


 シュリエの言う商品とは当然「人」の事だ。人材派遣を謳っているが、実際そんなに都合良く状況にピッタリな人材を派遣出来るとも思えねぇ。日本にいた頃のようにインターネットで世界中から募集かけられるわけでもねぇのに。いや、魔術使えば出来なくもないのか? 支部があちこちにありゃ出来るだろうけどそんな話は聞かねぇもんなぁ。派遣されてきた人材の装いがちゃんとしてる割に人自身は痩せているという報告が多数上がってる事からも、かなりキナ臭いし。

 奴隷制度も、国に申請してあるちゃんとした組織ならそこまで文句は言わないんだけどな。元々の価値観があるから良い気はしねぇが、借金奴隷は期限働けば解放されるし、犯罪奴隷であっても雑な扱いはされない正当な、しかしかなりキツイ仕事を与えられる程度だ。それでこの世界が回ってんだから、感情論で叩き潰してもむしろ路頭に迷って悪事に手を染める奴が増えるだけだしな。


 そう、そこなんだよ。申請の通った奴隷商の奴隷は期限付きなんだ。期限が過ぎても同じ場所で働きたいって奴はもちろんいるが、全てではない。だから人材派遣としてそこまで大きな組織になったネーモは、次から次へと都合良く能力の高い人材を見つけ出して仕入れているって事になる。奴隷も扱っているというのは公式だしな。表向きは申請の通った奴隷商から仕入れている事になってるが、怪しいもんだ。


「半分は実際に仕事を紹介してもらうために利用している、所謂健全な客ってのが厄介なんだよな。それが上手いこと隠れ蓑になってやがるし、組織を潰したら困る奴がたくさん出てくるっていうのも上手いことやってやがる。だから公に手が出せねぇんだよ。ったく、そうして出てきた難民くらい国で保護しやがれ」

頭領ドン、言葉に気をつけてください」


 おっと口が滑ったな。日本と違って国に対しての不平不満は下手したら不敬罪になる世界だ。まぁ俺にはあんまり関係ないけど。世界を救ったとかで恩も売ったし、このくらいは軽口で済ませられる。それに。


「どーせ風で音を遮断してるんだろ?」

「そうですけど、魔力の無駄にならずに済むじゃないですか」

「んー、シュリエレツィーノの魔力回復速度をもってすれば問題ないと思うけどね?」

「確かにただの口実ですけどね。普段から頭領ドンは口を滑らせ過ぎですので、もっと注意してもらうためにも必要な指摘なんですよ」


 シュリエが小姑みたいなだな。怯えきって震えてたのを保護した時が懐かしい。最初こそ突っぱねられたが1度忠誠を誓われたらそりゃもう何でも言うことを聞く可愛らしい子犬みたいだったのに。どうしてこうなった。


「何か?」

「……何でもねぇ」


 勘も鋭い。いやぁ、頼もしい限りだよ。はっはっはっ。


「コホン。んじゃ、目的地に着いたら時が来るまでは調査だ。ケイは内部に侵入、シュリエは外だ。出来得る限り情報を集めろ。……本気を出していい」


 ただ集めるだけじゃダメだ。そんなんで集まる情報だったらすでに誰かしらがネーモの不正を暴いてるからな。危ない橋を渡らせる事になるが、そもそも俺たちがネーモの調査を本格的にする事自体今回が初めてなんだ。コイツらが本気を出して、隠せる情報があるとすれば脳内にある計画くらいだろう。実際に人を非合法で売買した経験があるのだとしたら、痕跡は決して消えねぇ。書類は処分されていたとしても、関わった人の記憶、使われた魔力なんかは残るからな。


「本気かぁ。んー、久し振りにワクワクするね」

「おや。では遠慮なく力を発揮させていただきますよ」


 おーおー、頼もしい返事だね。ついコイツらを保護した時の事を思い出して感慨深くなっちまう。随分成長したもんだ。ケイなんかこう見えて人一倍努力してきたからな。その努力は全面的に信頼する事で報いよう。確実な情報と、下手したら証拠ももって帰ってきそうだ。そこから魔力の分析、が当面の仕事だな。

 ギルがいりゃ使われた魔術をより詳しく分析出来るんだが、コイツらや俺だけでもかなり情報は読み取れる筈だ。……本当にギルは便利な奴だよ。改めて思い知るね。流石はオルトゥスの影であり、ナンバー2。そんなアイツがいるからこそ、メグの安全は保証されるってもんだ。


 メグ、か。不思議な子どもだった。恐らく魂と身体がまだ完全に同化していないのだろう。あの瞳が放つ光の強さは、年齢不相応だ。ハイエルフだからって言ってしまえばそれまでなんだろうが、それだけではない気がする。

 秘めた力は相当なものだが、それ以外はいたって普通。顔に出やすい性格なのか、俺とシュリエが帰って来た時なんかは激しく動揺していたな。何に驚いたのかはわからないが、何かがあの子の、恐らく魂の方の記憶に触れたのかもしれない。あの子のことはまだまだ謎に包まれている。それが何かを暴くのは難しいだろう。本人に聞けばわかるのかも知れないが、どう見ても不安定な状態に加えて、危険な状況が続くんだ。落ち着いてから少しずつ聞いてやろうと思っている。


『私は私に出来る事をしゅるだけ』


————だからお父さんは、私の心配して労ってくれればいいのっ!————


「……まさか、な」

「どうかしましたか? 頭領ドン

「いや、何でもない」


 夢を見るのはやめよう。現実をしっかり見ておかねぇと、いくら俺と言えども今回は危険だ。


「調査を進め、魔力の解析をする。そして時が来たら……踏み込むぞ」


 時間はあまりない。暗にそれまでに調査をしておけよ、という事だが、2人とも正確にその意図を読み取っているようだ。頼もしいね、ったく。


 時が来たら。その時とは、うちのギルドが襲撃された時だ。理由があればこちらも手が出せるからな。時差やら何やらで細かい所を考えれば意味をなさないこじつけの襲撃理由だが、恐らくはネーモもどうせこじつけの理由をわざわざこさえて来るだろうからお互い様だな。


「さ、少しでも調査に時間を使えるようにさっさと移動するか」

「一応急ぐ気はあったのですね? のんびりしていたので心配しましたよ」

「ちょっとくらいいいだろ。俺、これでもずっと働き詰めなんだぞ?」


 そういいながら俺は魔術を発動させて4人乗りの車を具現化させる。これで移動も楽チンだ。慣れ親しんだ通勤用の車だ。高級車ではなく、やはり乗り馴れたものが1番だな!


「これが終わったら少し長めの休暇をとってはいかがですか?」

「それはいいな。採用」

「んー、それにしても久しぶりに見たけどこの乗り物は不思議だよね。それにどれだけ魔力消費してるんだろ?」


 そんな会話をしながらそれぞれ車に乗り込む。俺が運転席で2人は後部座席だ。


「あ、シュリエ。俺は運転に魔力使うから隠蔽頼むな」


 別に1人でも両方魔術かけられるが、せっかくシュリエがいるんだから楽するためにも頼んでおこう。そう思って声をかけたんだが、軽くため息を吐かれた。なぜだ?


「乗り込んだ瞬間にかけていますよ。こんな物、人目に触れたら大騒ぎですからね」

「こんな物とは失礼だな。俺の愛車『カケル君』だぞ」

「はいはい。いつでもいいので出発してください」


 何だか冷たくねぇ? はぁ、このノリについて来られる日本人が恋しいぜ。ま、言っても意味ねぇな。さぁて、ネーモまでのドライブと洒落込みますかねー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る