いざ自然魔術をば


 朝食を終え、やる気も十分なところで私たちは訓練場へとやってきた。すでに朝の訓練をしている人たちで賑わっている。わ、あの人身体柔らかいなぁ……うわ! あの人あんな大きな武器を軽々振り回してる! あ、あっちでは魔術の的当てをしてる人もいる。す、すごいー! 全部中心に当たってる!

 こうしてマジマジと他の人の訓練を見る事はなかったから、思わず辺りをキョロキョロ見渡してしまった。


「メグ、こっちだ」


 あまりにも余所見をしていたので心配になったのか、ギルさんに手を繋がれ、引っ張られた。あーれー。


「? ここでやるんじゃないんでしゅか?」

「ここは人が多い。事が事だからあまり人に見られない方がいいんだ」


 以前の精霊契約の時は、人数の少ない時間帯だったのと、精霊がその場所を選んだから仕方なく人払いをしたのだそう。知らない間にまたご迷惑をお掛けしていたらしい。す、すみません。


 そうして連れてこられたのは訓練場の端にある小さな部屋だった。小さな、といっても小学校なんかの教室より少し狭いかな? というくらいの広さはある。

 なんでも訓練場はまれに闘技場として使われるらしい。頭領ドンの思い付きでギルドメンバー同士が競い合う催しがあるのだとか。ちなみに頭領ドンの仕事の都合でここ数10年は開かれていないみたいだけど。でもそれちょっと楽しそうだ。ぜひ観戦したい!


 とまぁ、その時用の控え室として作られ、普段は数人で連携について話し合うとか、集中したい時などに使われる部屋なんだって。そこを今回使わせてもらうのだ。


「では、声の精霊を呼び出してくれるか?」

「わかりまちた。ショーちゃん」


 どこか緊張感を漂わせながらショーちゃんを呼ぶと、フワリと私の目の前にピンクのオカッパ姿の精霊が現れた。


『お仕事なのよー!』

「ふふ、うん。とっても大事なお仕事。お願いしてもいいかな?」

『もちろんなのよー!』


 ショーちゃんは緊張感とは無縁のようだ。嬉しそうにやる気満々といった様子でクルクル飛び回っている。


「今回声の精霊に調査してもらいたいのは、ネーモが何故……メグを狙っているのか。メグを狙っているというのは事実か、だ」

「……ショーちゃん、聞いてこれるかなぁ?」

『んーと、誰かがご主人様の事を話してたら、それを聞いてくる、でいいのー?』


 どうやら、ショーちゃんにはあまり難しい事はお願い出来ないっぽい。でも何となくやらなきゃいけない事はわかるらしく、ショーちゃんなりにそんな風に聞き返して来た。ギルさんに確認すると軽く頷いてくれた。


「うん、それでいいよ」

『わかったのよー! ご主人様を狙うなんて、許さないのよ!』

「ショーちゃん……!」


 ひしっとショーちゃんに抱きつく。ああ、なんて可愛いのっ!


「でも、気をちゅけてね? ショーちゃんが見える人もいるかもちれないから」

『私たちは、私たちが見える人が何となくわかるのよ! だから大丈夫なのよー!』


 そうなんだね。それなら少し安心かな。でも、でも、可愛いうちの子が危ない目にあったらと思うとお母さんは心配なのです!


「それでも! 元気に帰ってきてね!」

『ご主人様ー! ありがとうなのよー!』


 またしてもひしっと抱き合う私たち。ギルさんにはどう見えているのかちょっと気になるけど、黙って待っていてくれてる。空気の読めるイケメン……!


『じゃあ早速、先に半分魔力ちょーだいなのよっ』


 あっ、そうですよね! そうして笑顔のショーちゃんに魔力をごっそり吸い取られた私であった。アッー!




『ご主人様の魔力はとっても綺麗でおいしーのよー!』


 そんな風に叫びながら部屋をぐるっと一周飛ぶと、ショーちゃんは行ってくるのよ! と残して一瞬で姿を消した。今頃は外を音速で飛んでいるだろう。

 え? 室内にいたよ? でもね、精霊は完全密封された空間でもない限り閉じ込めることが出来ないんだって。だから空調とかのほんの少しの隙間さえあればすり抜けられるらしい。まぁ、例え閉じ込められたとしても、主人に呼ばれたら簡単に脱出出来るんだけどね!


「……大丈夫か」

「あいぃ……」


 そして私は魔力がごっそり持っていかれてヘロヘロに。最初の契約ほどじゃないけど結構辛い。これで今回の任務に必要な魔力の半分だっていうんだから、帰ってきたらまたこの状態になるのね。うぅ、でもショーちゃんが頑張ってくれてるんだから、ご主人様は頑張るよ! 魔力をあげることしか出来ないんだからさ! とほほ。


 でも自主練でフウちゃんやホムラくんと魔術の特訓も出来ないっていうのが悲しいところ。限られた魔力でどうにか練習したいけど、ギルさんにはダメだって言われた。まぁそうですよねー。こんなヘロヘロな状態で何言ってんだ、ですよねー。でも、せめて夕方に少しくらいはやりたいなぁ。子どもの回復力に期待したい!


「あとは、声の精霊の報告を待つだけだな」


 そう。こうしてあっさりと私がやるべき事は終わってしまったのでした。……なんか私が頑張ってるって感じが微塵もないよ!! ギルさんに抱っこされたまま、ガックリと頭を垂れるのでした。ぐすっ。




 それからヘロヘロな私はギルさんに抱っこされたままホールへと向かっていた。今日はもうやる事ないのかな、とショボくれていたら、ギルさんからこんなお話が。


「看板娘の件、サウラの許可が下りた。その状態でも説明くらいは聞けるとは思うが、もし辛いなら今日はゆっくり……」

「聞きましゅ!!」


 思わずギルさんの言葉を遮って、食い気味に答えてしまったよ。だって、私にもお仕事がついに! 任務? あれは魔力を渡しただけだよ……


「そうか。なら話を聞きに行こう。ただし、無理は禁物だ。少しでも辛くなったらすぐに言え」

「わかりまちた!」

「仕事内容は簡単なものだから、今日も出来なくはないが……まぁ様子を見ながらだな。なんならルドに魔力回復薬を出してもらおう」


 魔力回復薬! そんな薬もあるのね。異世界特有のお薬だから飲んでみたい!

 それにしてもギルさんには本当に心配症だなぁ。いや、私が倒れてしまうという前科持ちだもんね……! どうも自分の限界がいまいち掴めてないんだよね。必要以上に気を付けなきゃいけないな。そんな風に自分に言い聞かせつつ、仕事内容はどんなものだろう、と胸を踊らせる私。

 そりゃあ大した事はしないだろうってわかってるよ。こんな姿だし、何と言っても幼女だし。でも出来ればただ座ってるだけとかはちょっと……いやいや! どんな仕事だったとしても文句を言わずに頑張ろう! 社畜根性見せてやるー! ……あ、頑張りすぎはダメなんだった。むむむ、難しい。


 うーん、頑張りすぎないように頑張ります? なんかおかしいなぁ? 

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