2-32:だけどぼくは騎馬じゃない。騎士なんだ。

 大量の土砂を巻きあげて、尋常でない規模の衝撃波が押し寄せてくる。沼地エリアの巨大な植物は枯れ葉のごとく夜空を舞い、密林の迷宮はまるで絨毯をめくられたように荒野へと姿を変えていく。

 ソニックブラストの範囲に巻きこまれるまで――およそ数秒。

 今さら逃げられるわけがなかった。


 赤ずきんちゃんはもう一度ティンカーベルをぶちかまそうとしているのか、背中ごしに弾丸を装填する彼女の動きが伝わってくる。

 隣の親指姫さんはドロッセルマイヤーを振りかぶって、巻きあがる土砂の先にいる〈青髭〉めがけて投げつけようとしている。

 逃げる余裕があるときは「終わった……」とかすぐ言うくせに、本当に危機が訪れたときは、どんなに絶望的な状況だろうと諦めたりしない。

 すごいなあと思う。意気地も根性もないぼくには絶対に無理だ。


 いや、それでいいの? 自分だけなにもしなくて、本当にいいの?

 決死の覚悟で、赤ずきんちゃんを助けたばかりだってのに。

 頼れる相棒としてずっとそばにいるって、伝えたばかりじゃないか。

 そう思うと、心の奥底からふつふつと力がわいてきた。

 

「――そうだ、今こそ限界を超えなくちゃっ!!」 

「……マ、マロック!?」


 暴れ馬みたいに身を躍らせると、背中に乗った彼女の驚いた声が聞こえてくる。

 だけどぼくは騎馬じゃない。

 騎士なんだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 夜空に向かって遠吠えした次の瞬間――バチバチバチッ!! と弾ける音が響き、見えない壁がソニックブラストを弾き飛ばす。大量の土砂が通りすぎていく中、全身がしぼんでいくみたいに、ぼくの中からどっと魔力が抜けていった。

 あまりにも突然のことだったから、赤ずきんちゃんはなにが起こったのかわからなかったらしい。

 大地を割るような衝撃波が過ぎさったあと、珍しく動揺した声で、


「ええっ!? なになになに!? いったいなにをしたのですかマロック!?」

「ふへへ。銀狼も成長すればSランク上位の魔物になるって言ったのは、君じゃないか。それなら追い込まれて潜在能力が開花すれば、ぼくにだってできるんじゃないかって」

「まさか……物理遮断を使ったのか、お前!!」


 答えを言い当てたのは、魔法が専門の親指姫さんのほうだった。 

 そう、ぼくは生まれてはじめて魔法を使った。

 己が己であろうとする力。

 それが魔力の源なら、願うべき奇跡は決まっている。

 頼れる騎士として、大切な君を守るための――絶対防御の力だ。


「驚いている暇はないよ、赤ずきんちゃん!! 攻撃を防いだ今がチャンス!!」 

「そうでした!! あ、マズいですね……また逃げられてしまいます!!」 

「デュフフフ。そうはいくまいよ、なあ!」


 ソニックブラストが防がれたことを察知して、夜空に浮かぶ〈青髭〉が再び空間転移しようと身構えていた。だけど衝撃波がせまる最中にドロッセルマイヤーを大きく振りかぶっていた親指姫さんが、わずかな隙を逃さず必殺の一撃をぶちかます。


「どおおおりゃあああああっ!!」


 豪快にぶん投げられた大剣は、一筋の光となって〈青髭〉の翼に突き刺さる。

 向こうもとっさに物理遮断の結界を使ったみたいだけど、古代遺物の前では意味をなさない。地上に落下していく青いシルエットを追って、ぼくらはすぐさま大地を駆ける。


「あっ!! またソニックブラストを使ってこようとしています!! マロックもう一回アレできますか?」

「むりむりむりっ!! 一回やったら魔力がすっからかんになっちゃ――うげえ!」


 赤ずきんちゃんてばいきなり背中から手を伸ばして、ぼくの口にマジックポーションの瓶をねじこんでくる。こういうときのために用意しておいたのだろうけど、走ってる途中に飲ませるのは強引すぎるでしょ。

 だけどゲホゲホむせている間にも〈青髭〉が衝撃波をぶっ放してきて、またもや物理遮断の結界を使わされるハメになった。二回めが成功するかどうかなんてわからないのに、防げる前提で戦おうとするの、いくらなんでも無謀じゃないの。


「ぬううううう……おおおおっ! できた!! でも次はもう無理っ!!」


 衝撃波を完全に遮断した直後、ぼくはがくっと体勢を崩してしまう。背中に乗っていた赤ずきんちゃんは振り落とされる直前でくるくると宙を舞い、そのまま地面に着地する。


「上出来です!! この位置からなら確実に仕留められますから!!」

「あとは我らに任せろ!! 魔法で援護するぞ、クソずきん」

 

 身体の限界がくる直前、地べたに這いつくばりながら咆哮をあげる青いドラゴンと、それに立ち向かっていく最強の冒険者たちの姿を見る。

 ああ、もう休んでも大丈夫そうだ。

 だってあとは赤ずきんちゃんが、あいつの顔面に鉛玉をぶちこむだけなのだから。


 ティンカーベルの銃声を子守歌にして――ぼくはそのまま意識を失った。

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