2-9:待って。普通に死ぬやつじゃんそれ。

「実はここ、猟師さんに教えてもらった秘密のスポットでして。これだけ多彩なマンドラゴラが一ヶ所に集まっているのはとても珍しいとのこと。だから『誰にも教えるなよ!! 絶対にだぞ!!』ときつく言い聞かされていたりします」


 赤ずきんちゃんはそう言ったあと、手前に生えている花を指さして、


「一度に多く摂取すると身体に悪影響が出ますので、今回は紫色の魔力増強タイプだけ採取します。当初の予定では左端に生えている黄色いの、筋力増強タイプにするつもりでしたけど、あなたは早く魔法が使いたいみたいですし、クライアントのご要望にお応えするとしましょう。ちなみに奥の黒いやつは猟師さん秘蔵のやつで、知らずに採取するとぶっ殺されます。なんでも乾燥させてから燃やすと、ご機嫌になれる煙が吸えるとかなんとか」

「最後にさらっと、ロクでもない情報が含まれていたような……」


 とまあそんなわけで、彼女にうながされたぼくはゆっくりと花園に近づいていく。

 てっきりマンドラゴラとの戦闘になると思っていたのだけど、


「襲ってやきませんから、そんなにビクビクしなくて大丈夫ですよ。こいつらはほとんど植物そのものの生態をしているので、自分から攻撃することはできないのです」

「そういうことは最初に言ってほしいなあ。じゃあ普通に採ってくるだけでいいのかな」

「子どものお使いみたいに簡単でしょう? ただし地面から引っこ抜いたときに叫び声をあげますからそこだけご注意を。耳にしただけで魂を抜かれてしまう、ヤバめの攻撃なので」

「待って。普通に死ぬやつじゃんそれ」

「だーいじょうぶ。だーいじょうぶです。安全に採取する方法を今から教えますってば」


 赤ずきんちゃんがヘラヘラ笑いながらそう言うので、ひとまず説明を聞くことにする。

 彼女は背負っていたザックをおろすと、中をゴソゴソと漁りながら、


「マンドラゴラが放つ特殊能力は、簡単に言うなら超強力な呪詛魔法です。根の中に蓄えていた魔力を一気に消費して大音量の叫び声をあげ、相手をショック状態に陥れて死のみちづれとする。玉砕上等、という感じで好感が持てませんか?」

「いや、全然」

「あらら、残念。叫び声とはいえ魔法は魔法なので耳を塞いだところで突き抜いてきやがりますし、知らずに引っこ抜くとひどいめにあいます。ただし距離が離れていればいるほど威力が減衰する性質があり、その弱点を突けば安全に採取することが可能です」


 そう言って赤ずきんちゃんが取りだしたのは、丈夫そうな荒縄だった。

 彼女はマンドラゴラに縄を縛りつけたあと、


「遠くから合図を出しますので、そしたらわたしのところまで走ってきてください」

「オッケー。で、どうやって叫び声を防ぐわけ」

「今からあなたの身体にも縄を縛りつけます。するとどうなると思いますか?」

「ぼくとマンドラゴラがひとつの縄で繋がる……かな」

「その状態で走ったら、自然とマンドラゴラが地面から引っこ抜けるでしょう。これは古来より伝わる採取法でして、本来であれば犬を使うところなのですけど――ご主人さまが叫び声の範囲外にいればいいのですから、マロックで代用したところで問題はないはず」

「なるほど。でもそれだと飼い主はともかく、ワンちゃんのほうはばっちり叫び声を聞くことになるよね?」 

「……昔の人は残酷ですよねえ。ワンちゃんカワイソウ」

「待って。やっぱり死ぬやつじゃんそれ」


 ぼくが必死に抵抗すると、赤ずきんちゃんは顔をぐいっと近づけてきて、


「大丈夫ですって。銀狼は生命力の高い魔物ですから、犬のように即死する危険はありません。マロックならせいぜい口から泡を吹いてビックンビックン痙攣してのたうちまわるくらいです」

「まったく大丈夫じゃないよっ!! そんなに言うなら赤ずきんちゃんがやればいいじゃん!! 君だって相当タフでしょ!!」

「マロックのために料理を作るのですから、自分でやるのが筋ってものでしょうに。それともわたしが口から泡を吹いて痙攣するところが見たいのですか? このド変態」

「相変わらずめちゃくちゃなことばかり言うよね、君は……」


 すると彼女、急に遠い目をしてこう呟いた。


「こうしていると思いだしますわあ。猟師さんのところで修行していたころ、毎朝の日課としてマンドラゴラ採りをやらされたことがありました。おかげで呪詛攻撃の耐性がつきましたけど、当時は朝を迎えるのがとにかく憂鬱でしたっけ……」

「だからぼくにも同じことを? 悪しき教えはどこかで断ち切らないと、負の連鎖は止まらないよ?」

「ごたくはいいからやりなさい。ウダウダ言っていると頭をたたき割りますわよ」


 赤ずきんちゃんがメイスをぶんぶん振ってきたので、ぼくは覚悟を決めることにした。

 たぶんこのマンドラゴラ採りも修行の一部なのだろうし。

 呪詛攻撃に耐性がつくとか言っているわけだから。

 でも、おかしいよなあ。

 ご褒美だったはずなのに、これじゃ完全に罰ゲームだよ……。

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