第2話:突然の結婚宣言!

あたしの姉である白木美月みつきと女の子のキスシーンを目撃した姫乃ひめのは、刺激的な光景を前に思わずあの場から逃げ出してしまった。


「はぁ……」


何度目のため息だろうか。 そのまま二年一組のクラスへと引き返して来ると、ノロノロ…とした足取りで自分の席へと着いて顔を伏せた。


「……どうして、お姉ちゃん!

知らない女の子とキスをしていたのだろう………」


机へと顔を伏せて、うなだれている姫乃の肩へと手を触れて、一人の女子生徒がそう声を掛けて来た。 何と言うかお嬢様学園には相応しくない服装と髪型をした女の子である。 その女の子の瞳が、あたしを見据える。


『おっす。 どうした転校初日から浮かない顔をして……』

「えっと……誰?」


反応に困っているあたしを見て、茶髪の女の子が微笑む。 そのまま姫乃はその女の子の背中を追うようにして、教室を抜け出し廊下へと出た。


『あたしの名前は鏡原三咲かがみはらみさき。 えっと転校生の白木姫乃しらきひめのちゃんだよね。 あれ、生徒会長の名前も……』


女子便所の辺りで、あたしは廊下の壁へともたれ掛かり、鏡原三咲かがみはらみさきと名乗る女子生徒の詰問を受けていた。 生徒会長と同じ苗字である白木と言う転校生のあたしへと疑念を抱いている様子だった。


どう説明すれば納得して貰えるのだろうか……。


「信じて貰えないかも知れないけど、鏡原かがみはらさんが思っている通り、生徒会長の白木美月はあたしのお姉ちゃんなの!」


『う、えええっ…マジでか!!』


あたしが、そう言うと鏡原かがみはらさんは驚いた様子で『――仰天動地だわ!』と声を張り上げながらあたしへと向き合う。


何故なぜか、鏡原かがみはらさんに物凄く驚かれてしまった。 そんなにあたしの姉である白木美月って有名人なのだろうか――。


窓枠へと寄り掛かるようにして鏡原さんが外の光景を眺めている。 そこには生徒会長であるあたしの姉、白木美月の立ち姿が目に止まった。


『――白木さんを脅すつもりはないけど、基本、この学院の生徒は小さい頃からここの怖い校長と恋愛禁止の校則に縛られて育っているから……』


鏡原さんは『……はぁ』とため息をついた。


『そう言えば、姫乃は知っているかもしれないけど、……生徒会長は将来、御曹司の社長の息子と結婚も決まっているらしいって言う噂があるほどだ!』


「う、えええっ……!

お、お姉ちゃん、け…結婚するのぉおおお!」


『バカ!! 声がでけえって……』


親友の鏡原さんにとがめられて、あたしは思わず両手で口を覆った。 本当に知らなかったのかよ! と言いたげな視線がこちらへと向けられる。


(本当に、何も知らなかった……)


大好きなお姉ちゃんが、結婚してしまう…そう思った途端、涙がボロボロ…と溢れ出ていた。 同時にお姉ちゃんに会いたいと言う欲求に駆られた。


☆☆☆☆


放課後。 鏡原かがみはらさんと一緒に帰ろうと思ったのだけど、鏡原さんは用事があるとか言って先に帰ってしまった。


掃除の時間、今まで話した事がないクラスメイトの由美ゆみちゃんが近づいて来て、恋愛相談に乗って欲しいと言ってきた。


――「私に?」と言う感じはあったけど、結局放課後、「私立姫河学園」から近くの喫茶店で彼女たちの話を聞く事になってしまった。


何と言うか……

もはや少女漫画の展開に脱帽してしまう。 とにかく恋愛に対する姿勢がまるで私とはまるで違っていた。 価値観の相違である。


由美ちゃんが語る恋愛思想は、とにかく学力重視である点だった。その上で将来性を重視し、彼の務める企業で判断をすると言う……。


あたしが正しいと主張するつもりはないけど、由美ちゃんの恋愛には全くと言っていいほどに共感出来る点が見出せなかった。


姫乃は、由美ちゃんと渋谷駅近くで分かれると、そのまま渋谷駅のほうへと向かって歩き出した。もうすっかりと辺りは暗く、街灯だけが夜道を照らしていた。


「……やばい、もうこんな時間じゃん!」


スマホへと視線を辿らせ、その時刻に焦りを抱く。 時間は午後九時を回っていた。 児童公園の辺りの歩道橋を通過し、そのまま自宅のあるマンションへと向かう。 マンションへと到着した頃には、辺りは完全に暗闇で夜を迎えていた。


エントランスを通過し、エレベータのボタンを押す。 そのまま靴を揃えて家の中へと入ると、寝室のベッドの上へとダイブした姫乃。


「…………」


すると待ち構えていたように、スマホが鋭く振動音を鳴り響いた。おもむろにスマホを取り出し、続けてLINE画面を開く。


一言『ベランダ…』の文字。

ベッドから足を下ろして、ゆっくりとベランダへと出る。すると隣人である姫乃の姉である美月がひと足先にベランダへと出ていた。


するとつやある姫乃の黒髪が夜風に揺れる。


『……


自分の名前を呼ばれて、思わずドキリとした!


高層ビルの頂上で点滅する赤い光。 すれ違う騒がしい人々の集団。 路肩へと並んだタクシーの列。そんな夜の街並みの風景を、多方面から見る事が出来る場所。


(やば……顔が見られない!)


自分の名前を呼ばれて、思春期の小僧のように心拍数を上げる姫乃。 その感情を隠すようにあたしは口にする。


「……何よ?」


『……姫乃ひめのちゃん、と変わらないなぁ…って思ってさ。 ほら、あの時も今みたいに棘のある口調でそう言ったじゃない?』


「そ……それは」


うぅうううっ! 今日、7年振りに再会出来た姉である美月みつきと話が出来たと言うのにやっぱり緊張する。…まともに彼女の顔を見る事が出来ない。


『……姫乃ひめのちゃん、どうしたの? 顔が真っ赤ですわよ!』

「……そ、そんな事ない、と思う」

『ふーん』


今の美月みつきお姉さまは、学園にいる美月みつきお姉さまとは別人だった。 美月みつきお姉さまは何でも完璧にやり遂げる印象があって、だから今の生徒会長と言う地位に居るんだと改めて思い知らされる。 欠点がないからこその所以かも――。


「あのさ……、一つ聞きたい事があるんだよね」

『………なに?』


あたしの言葉に反応を示すように、美月お姉さまがこちらへと振り向く。 夜風に美月お姉さまの黒髪が吹かれて、シャンプーの甘い匂いに包まれる。


「……あのねっ!

今日、友達から聞いたのだけど、お姉ちゃん結婚するって……」


「………」

『………』


会話が途絶えて、気まずい沈黙が訪れる。 美月お姉さまは言われたくない事を言われたような顔をしていた。 あたしは間を埋めるように夜景を眺める。


すると美月お姉さまが言った。


『……、しちゃおうかなあ……!』


美月お姉さまが、そう口へとした時、あたしの鼓膜こまくを強く震わせた。同時に色々な事が頭の中へと駆け抜けたが全てを呑み込んだ。


『……あら、姫乃なら反対すると思っていた』

「………」


反対なんかしない。

お姉ちゃんが選んだ道だから………


「あと、女の子とキスしてなかった?

……いや、見るつもりはなかったのだけど、今日…美月お姉さまが…その……知らない女の子とキスを…………」


姫乃はそう口すると、途中で言葉を切った。 最後まで言葉を続ける事が苦しくなって最後まで言い切る事が出来なかった。


……顔が火照って、心臓の音がうるさい。


姫乃はどうにかして心を落ち着かせようと、途中で言葉を切って美月お姉さまの出方を伺う事を決めた。 だけど再び会話が途切れ、沈黙が訪れる。


「………」

『…………』


だけど彼女を意識するほど、火照りも心臓の高鳴りも、治まるどころか逆に激しさが増す一方である。


「……女の子同士で、そんなの恋愛って言わないよ」


そう、涙目でそう訴えると、彼女はおもむろに口を開いた。 夜風に吹かれた彼女の黒髪が揺れて、小悪魔みたいな瞳で、こちらへと見据える。


『……どうして?


なんだよ! 姫乃ちゃん!』


「……ゲ、ゲーム?」


あたしは意味が分からず、思わず聞き返してしまう。 そのまま姫乃の普段着の襟を乱暴に引き寄せると、あたしの唇へと自分の唇を押しつけた。


夢にまで見た初めてのキスは、乱暴で粗暴なキスである事に愕然してしまう。でもその行為を前にドキドキしている自分が居る。


「――やめてよ!!」


あたしは思わず、美月を振り払う。

でも息が荒く、呼吸が乱れて――


「キスなんてこんな物よ!」


美月お姉さまとの接吻キスは、柔らかくて甘くてゾクゾクした。


⇒つづく。

次回、最終回です。

最終回は3月11日(日)を予定しております。

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