私のお姉ちゃんが結婚します!

ユウスケ

第1話:ごきげんよう。お姉さま

あたしの名前は、白木姫乃しらきひめの

本日から渋谷区にある「私立姫河学園高等学校」へと転校する事になった。火曜日の朝、シャワーを浴びて化粧台の前で薄くメイクを整える。 可愛らしい制服へと着替えると、そのまま家を飛び出し、学校へと向かった。


「私立姫河学園高等学校」は中等部と高等部を擁する名門お嬢様学校である。 創立されて十年足らずと歴史は浅いものも、並外れた進学率と実績で新入生の注目を集めているが、生徒個人の自主性に任せている、そんな学校である。


「ドアが閉まります! ご注意ください」


アナウンスが響く車内で、あたしはおもむろにスマホを取り出した。 平日の通勤時間帯は混雑しており、あたしは吊り革へとしがみ付く状況下で、電車がゆっくりと溝ノ口駅を出発した所だった。


「………辛っ!」


急行電車へと乗る事しばし、あたしが本日から通う「私立姫河学園」がある最寄駅へと辿り着く。 あたしは猛然と改札口へと駆け抜けていく。


スマホ画面へと視線を落とすと、午前九時を回った辺りだった。 正門近くまで辿り着くと、その横へと生徒会らしき数人の女子生徒が朝の登校チェックが行われていた。 時間ぎりぎりに校門をすり抜けたあたしは、そのまま校舎へと向かった。


「ちょっと待ちなさい!」


――突然、正門付近から鋭い声を掛けられ、あたしは「はい?」と言って振り返る。艶やかなロングヘアを揺らし、こちらへと近づいて来る女の子。


「そこの貴女あなた。 生徒手帳を見せて頂いてもいいかしら?」


校舎付近で、不覚にも生徒会の方々に囲まれてしまった。 あたしは思わず視線を落とした。 転校初日から暗雲が立ち込め始めているよ……


「……は? なんで?」


あたしは思わず目を丸くした。

すると生徒会の女の子に急かされて、あたしは鞄から生徒手帳を取り出す。 そのまま眼鏡女子へと取り上げられてしまった。


「……髪型も、携帯電話も、第一ボタンの止め忘れも、お化粧も……全て校則違反ですわよ! 校則は学業の一貫! 決められたルールの上で学園に通う以上、貴女もこの「私立姫河学園」の校則に従いなさい!」


そう、目の前にいる女子生徒はあたしの姉であるのと同時に、私立姫河学園高等学校の生徒会長である白木美月である。


「お姉ちゃ――」


会長は上目遣いで、あたしの事を見詰めながらそう宣言をする。 きっと姉妹の感動の再会シーンなのだけど、不覚にも言葉を詰まらせてしまった。


「お姉ちゃん、あのね――」


あたしの声を遮るように、始業を知らせる予鈴が響いた。 本日から「私立姫河学園」へと転入するのだけど、波乱の幕開けになりそうである。


☆☆☆☆


あたしは職員室へと向かい、担任の先生に挨拶した後、二年一組のクラスへと担任の先生の背中に続いて、あたしはその後を追うように続いた。


結構、綺麗な掃除の行き届いた廊下を歩いて、三階へと向かった辺りで、担任の先生が立ち止まる。 教室の扉付近に掲げられたプレートを見るあたし。


「緊張しているか?」

「………はい、勿論です!」


中学生の頃は高校と言う場所は、どんな所か想像もつかなくて外国並みの別世界に思えたけど、入って見ればそうではなかった。


自分のクラスへと到着し、担任の先生に続いて教室へと入ったあたしは、そのままクラスの生徒へと向けて自己紹介をした。


クラスメイトは皆、お嬢様と言う雰囲気がある、そんな印象を受けた。 だから結果的にあたしのような人間が一人、目立ってしまうのだ。


「………はぁ」


いちご牛乳の紙パックを片手に、女子便所から出て来た辺りで、あたしは重いため息を吐く。 自分から友達になろうと積極的に声を掛けていった所、ことごとく玉砕されてしまったのだ。………友達作り失敗である。


二時間目は体育だった。

あたしは体操着へと着替えて木陰へと移動すると、中野さんと名乗る女子生徒が陸上トラックの端で何やら準備をしていた。 あたしは本日は見学だけど、きっと走るのかな…と言う事はすぐに推測出来た。


「………」


視線を上げると、中野さんの走る姿が見たいのか、各教室の窓から多くの生徒が顔を出していた。まだ中野さんがスタートしてないのに黄色い声援が上がるほど彼女の人気が絶大なのだろうか――


「………」


その直後、ピストルの音が鳴り響く。 そして飛び交う女子の声援。 スタートラインから勢いよく走って来る中野さんは、ポニーテールを揺らしながら一瞬にして、あたしの前を通り過ぎていった。


ゴール手前まで辿り着くと徐々に減速し、そのまま立ち止まる。


「……嘘、でしょう!」


驚く事に、彼女の元へと白いタオルを持った数人の女子生徒が一斉に駆け寄ったのだ。 普通なら対応に困る所だが、彼女は爽やかに対応している。


「――何秒だったの?」


「えっと…今のタイムは十秒六です!」


十秒六。 そのタイムを聞いて、周りの生徒たちは歓声を上げる。 あたしにはそのタイムが速いのか、遅いのか…なんて区別は付かないけど!


そのまま、あたしはゆっくりと立ち上がって軽く背伸びすると、校舎裏へと回り込んで見る。 そこには二人の女子生徒の人影があった。


「―――あ?」


木陰こかげの向こう側、一人の女子生徒が校舎の壁へと一人の女子生徒を押しつけている、そんな構図だった。少女漫画でありがちな初々しい光景ではない。


「――お姉ちゃん?」


あたしがお姉ちゃんを見間違う訳がない。 お姉ちゃんが名前も知らない女の子に校舎の壁へと押しつけられていた。


お姉ちゃんの両肩へと回される女の子の手。 そのままお姉ちゃんのうなじへと腕を回し、頬を赤らめたお姉ちゃんの唇を奪う女の子。


――息も忘れるほどに濃厚なキスシーンだった。


あたしはその場を離れた。

――意味も分からず、ただ逃げ出した。


⇒つづく。

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