第5話【新しい出会い】
アーバンテレス国、コルセア領、都市ストラマ。付近にある農村を除けば、事実上領土の端にある大型都市である。とは言えその立地から王都とは比ぶべくもなく、また、先には農村と森しかないこともあり景気が良いとはけして言えない都市である。
今俺達は、シトナ村からの馬車にゆられ、ストラマの目と鼻の先まで来ていた。あの後村を出た俺達だけど、正直もう少し遠かったらヤバかっただろう……。なんせ食糧問題を抱えた村だ。今後は恐らく大丈夫だろうけど、今必要な物は足りていない。事件の原因となったあの家から多少のお金が出てきたらしく、それを持って食料を買いに行く村人に乗せてもらったという訳だ。
ちなみに俺達もここまでロクに食べていない。買えばいいからと、なけなしの食料を分けてくれたアロンゾさんだが、育ち盛り食べ盛りの俺達としては少々物足りない……いや、貰えただけマシというものだろう。
「見えてきたねー、お兄ぃ!」
「あぁ、身体は大丈夫か?痛くなったりしてないか?」
「へーきへーき!馬車も楽しかったよ!」
用意された馬車を見たときは、少しガッカリしていたようだが、馬が気に入ったのか出発してしまえばご機嫌続きな紗綾だった。
紗綾と言えば、あれから説明書を改めて読んでみたが、特に変わったページは無かった。ページ自体はまだまだあるんだが、白紙の部分が殆どだ。説明してない説明書って本当何なんだろうな。とりあえず今は紗綾のエネルギー……いや、MP(満腹ポイント)を満たすことが先決だな。
「坊主たち、そろそろ都市に着くぞ!」
こちら側から来る人はほとんど居ないのか、門の前に人だかりとかは出来てなかった。良かった、ここで長々と待たされるとか嫌だもんな……
「そう言えば都市に入るのに身分証とか必要無いんですか?」
「あぁ、そうだったそうだった。その件も含めて村長から預かりもんがあるんだった。ほれ」
そう言って渡されたのは小さな巾着袋。けして重くはないが中に何か入っているのかジャラッと音がした。中にはコインが何枚かと、2枚の紙が入っている。
「これは?」
「今回の礼と、坊主たちの身分を証明する書付だな」
「貰えませんよ、コレは!身分証はありがたいですけど、お金はあの村に必要でしょう!」
確かにお金があれば助かるけど、あの村にだって余力があるわけじゃない。
「いいから貰っておけ。確かに俺達にも余力はないが恩人に何もしない訳にもいかん。少なくて悪いが取っておいてくれ。なぁに、俺達は大丈夫だ。土地さえ何とかなれば後はどうにでもなる」
「……わかりました。ありがとうございます。この恩はけして忘れません」
「よせよせ、恩を感じてるのはコッチなんだ。これじゃアベコベだ」
こうしていくらかのお金と身分証を手に入れた俺達はストラマへ足を踏み入れた。
「じゃあまたな坊主たち、何かあったら村に来い。その時は歓迎してやる!」
「色々ありがとうございました!」
「ありがとーございました!お馬さんまたねー!」
「さて、これからどうしたものかな……」
「お兄ぃ、新しい街だよ!こういう時は観光だよ!はい、手!」
さもありなん。見て回らないことには何があるかもわからないしな。よし、飯屋と宿、後は何か仕事になるような事が無いか見て回ろう。
紗綾と手を繋ぎながら、俺達はストラマを見て回ることにした。
ストラマは区画整理されているのか分かりやすい作りになっており、俺達が入ってきた門から一直線に道が続いている大通り、丁度中央付近で交差する形で別の大通りがあった。つまり、十字の形だ。そして外周部をぐるっと壁が囲んでいる。丸の中に十字が入っている感じだな。
「あ、お兄ぃ!屋台だよ!美味しそうな匂いがするねぇー」
「お、本当だ。何を売ってるんだろう?ちょっと覗いてみるか」
その屋台はどうやらパンを売っているようで、焼きたてのいい匂いが漂ってくる。
「お姉さん、こんにちは!」
「あら、可愛い女の子ね。いらっしゃい」
屋台の店番をしているのは綺麗なお姉さんだった。流れるような金髪を後ろで1つに結び、肩から流している。歳は予想しづらく、若いようにもそれなりに取っているようにも見える。そして何より……胸が凄い……なんだろう見ちゃいけないのについ見てしまう。そんなサイズをしていた。
「むー…お兄ぃ!胸ばっかり見すぎ!そういうのセクハラって言うんだよ!」
「いや、そんな見てないよ!」
女というのは小さくても敏感なのか、紗綾が文句いっぱいの目で見てくる。
「あらあら、お嬢ちゃんの言う通りよね。女性の胸ばかり見るのは良くないわよね。そういう事で、ハイ」
そう言ってお姉さんはパンを2つ差し出してくる。いや、なんかスイマセン……
「焼きたてで美味しいわよ?買ってくれますよね?」
まずい、ニコニコしてるが実は怒ってる?問答無用で押し売られてるんだが…
「あ、ハイ……スイマセン。おいくらですか?」
「金貨2枚よ」
はぁ!?金貨!?いやいや、物価高すぎだろう!と言うか払えないよそんなの!
ちなみに今の所持金は銅貨らしきものが8枚だ。銅貨が金貨より価値がある、と言う事でも無ければ到底払えるものじゃない……
「あ、あのすいません。いまこれだけしか手持ちが無くてですね……」
「くすっ、冗談よ。流石に私もパンで金貨は取れないわ。2つで銅貨2枚で良いわよ」
なんだ、冗談だったのか……びっくりした。
お金を払いパンを受け取る。1つをさっきから妙に静かな紗綾に渡そうと振り返ると、何やら胸のあたりをペタペタ触りつつ、小さな声で呟いていた。
「やっぱり大きい方が……うぅん、私だって大きくなればきっと……でもお母さんも小さかったし……うぅ……」
兄としてここは聞かなかったことにしよう。まぁ、目の前のアレを見ちゃうとどうしてもな……いかんいかん、またパンを押し売られる。
「あ、そう言えばこの街にどこか宿はありますか?」
「うーん、あるにはあるけどそれなりにするわよ?何泊する予定なの?」
頬に手を当てながら教えてくれるお姉さん。なんか妙に様になってるな…
「予定とかは決まってないんですが、とりあえず今日だけでも……。その後は何か仕事を探そうと思ってまして」
「んー、安いところでも銅貨20枚くらいかしら……そこから食事代とかをプラスすると……」
まずい、全然足りない。確かに日本でも1泊しようと思ったら安いところでも3000円くらいはいるか……。パン2つで銅貨2枚だし、相場から大きく外れてもなさそう……
「あなた達、2人なの?旅行か何か……では無さそうね。お金も足りないみたいだし何かワケアリみたいね」
正直に言ってもいいんだが、気が付いたら森の中にいたなんて信じられることじゃないよな……
「うん!決めた!とりあえずあなた達、私の家に来ればいいわ」
ポンと手を叩き、信じられない事を言ってくるお姉さん。
「えっ!?」
「詳しい事は別に聞かないから、しばらく家に泊まるといいわ。あ、勿論その間働いてもらうからね?その代わりちゃんとお給金はだすわよ」
寝耳に水とはこの事だ。宿どころか仕事まで決まってしまった。お姉さんは早速案内すると、店じまいを始めてしまった。
「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「どういたしまして。あ、私はマリベル。よろしくね」
そう言って、微笑んだお姉さんは、俺にとってまるで女神のように映ったんだ……。
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