2-20【先史の記憶 21:~帰途の空~】
翌朝、
俺の制御を乗り越えた寝相で占拠したエリクのベッドから、のそりと起きたモニカが足元のエリクを引っ張り起こして、朝の連れションとばかりに連れ出し、二人揃ってアクビと伸びを連発しながら医務室の扉を開けたところで、
謎の髭モジャの大男に出くわした。
「おはようございます、”モニカ・ヴァロア伯爵子位”殿! 私はアルバレス連邦勇者、アントン・レプキンです!」
その寝起きにはきつい大声にエリクが後ろ向きに倒れ、モニカがそっと扉を閉める。
『・・・へんなゆめ』
モニカが目元をこすりながら俺にそう言ってきた。
俺もそう思いたいが、残念ながら今の髭モジャの姿は夢でも幻覚でも、未来と重なったわけでもなさそうだ。
すぐにガチャリと扉が開かれると、先程と同じ髭モジャに同じことを叫ばれたのだ。
◇
「それで、何が起こったのかお話願いますかな?」
対面に座る座高が俺達の身長よりも高い髭モジャの大男が、席につくなり開口一番俺達にそう聞いてきた。
まだ落ち着くポジションの選定の為にお尻を動かしていた俺達は、その急な問いかけに横で同席するクラヴィス先輩へ顔を向けた。
先輩も、この髭モジャ勇者の勢いにどうしていいかわかんない感じだが、その質問自体は問題ないようで、困った顔で微笑みながら頷いて、俺達に答えを促す。
ここは中央事務所の2階に設けられた応接室・・・の筈なのだが、テーブルを挟んで座る俺達の雰囲気は完全に取調室の尋問だ。
一晩休んで回復したことで、早速詳細な事情聴取が始まったらしい。
『このひとも”勇者”なんだよね?』
『自己紹介どおりならな。 違和感があるか?』
この”懐槌の勇者”は、俺でも分かるくらい強そうだし、観測されるデータもそれを示している。
モニカくらい感覚が鋭ければ、気づいていると思ったが。
『うーん、勇者なのに、あんまりかっこよくないんだなって』
何だそんなことか。
そういや”超絶イケメン”のレオノアに、まあまあ美人なイリーナと、俺達の知ってる勇者はみんな顔が良かったからな。
アントンの強烈な顔はちょっと新鮮である。
『中にはこんなやつもいるさ。 というかモニカは、筋肉が沢山ついてるのがいいんじゃないのか? 髭も問題ないんだろ?』
俺の”モニカの好き嫌い情報”にはそんな事が書いてあった筈だ。
ただ、モニカの反応は鈍い。
『うーん、きらいじゃないんだけど。 ”お!”って思わないというか。 びみょう?』
俺は同時にモニカから流れてきた、”萎えた感情”を脇に避ける。
こんなんでも性欲だ。
直撃したのを放っておくと後に響く。
『まったく、贅沢になったもんだな』
俺はそう言いながら、意識を事情聴取へと戻した。
俺達がくだらない会話をしている間にも、アントンとクラヴィス先輩との聞き取りは進んでいた。
内容は単純に俺達が把握している事を聞く感じだ。
もう既に、クレストール先生とアイリスからは聞いてるらしいが、その内容は教えてくれない。
なんでも、他人の情報に汚染される前の、”俺達の認識”が欲しいらしい。
まあ、仕方がないことなので、俺達は俺達の見たままを話す事にした。
目的地の”先史の記憶”の部屋までは、本当になんの問題も無かったこと。
部屋の中に入っても、しばらくは問題は起きなかったこと。
「最初から、あの怪物が寝ていたわけではないんですね?」
アントンが確認し、モニカが頷く。
「わたし達がくるまで、どこにもいなかった。 わたしとアイリスの魔力を吸って、地面のしたと天井の回路がぶつかって、くっついて
「なるほど、他の2人の証言どおりですね。 ですが・・・」
アントンとクラヴィスはそこで困ったような顔になった。
「なにか変なの?」
「どうも過去に例がないそうです。 ”国喰らい”自体は、いくつか発見例があり、動いたという記録もあるのですが、その様に新たに製造されたというのは、ないみたいですね。
昨夜調べたところによると、あの個体の構造は非常に新しい物だったようですし、異例ずくめなんです。
ただし、”国喰らい”自体が珍しいですが」
「うーん」
モニカが興味なさげに頷く。
あの怪物の情報は、門外漢の俺たちに言われても価値がわからない。
興味はあるが、それがどれくらい珍しいのかは分からないのだ。
今はそれよりも。
「わたしの魔力が原因?」
「おそらくは」
その躊躇のない返答にモニカが落胆したよう肩を落とす。
「やっぱり。 じゃあ、”いせき”には入らない方がいいよね」
「残念ながら、近づかぬ方が賢明ですな。 我々としても、こうなってしまった以上は、その方が気が休まります。
なにせ、あなたは”勇者”とは勝手が違うので」
懐槌の勇者はそう言って苦笑いを浮かべる。
その反応にモニカが不思議そうに首を傾げた。
「わたしの事、聞いてるの?」
「ええもちろん。 ”表の話”も、”裏の話”も。
ただ、あなたが我が国の最高戦力と位置づけられるのなら、我々はそれに従うまでです」
屈託のないアントンのその言葉を、俺達はただ無言で見つめていた。
さて、聞き取りが戦闘に関する話へと移り、それが佳境を迎えたところで問題になったのは、あの”バカ息子”をどうやって説明するかだ。
あまりに荒唐無稽だし、そもそも話して良い内容なのかも判断に困る。
歴史干渉は終わったので、どう答えようが問題はないはずだが、それはそれで癪だしな。
結局、この件は俺達が考えてるほど問題にはならなかった。
モニカが正直に「自分の子供に滅多切りにされる夢を見た」と話したところ、2人から「とても怖い思いをしたんだね」的な憐れみを向けられたのだ。
【予知夢】を説明するために”夢”という単語を使ったせいだろうが、おかげで2人の視線が「あなた疲れてるのよモニカ」といった具合で、それ以上突き回されることはなかった。
◇
一通り事情聴取を終えて部屋を出ると、廊下の向こうの広場で、エリクが誰かと話しているのが見えた。
『あ、あのひと』
『そういや、昨日の現場にも最前線にいたな』
それは昨日遺跡に入る前に、モニカが気にしていた”剣士”の男だった。
”あの空間”に飛んだとき、つけてたマーキングが外れてるので気づかなかったのだろう。
モニカが”自分より強い”と評した男だが、あの場の最前線にいたところや、このエリクの態度を見るに、それはあながち間違いでは無さそうだ。
エリクの目は、すっかりこの剣士に心酔するように熱い。
「エリク!」
モニカが声を上げ手を振り上げる。
するとこちらに気づいたエリクが、男に会釈した。
これから俺達の次にエリクの聞き取りが行われるのだ。
「じゃあ、私もこれで。 早く戻らないと、団長にドヤされるんで」
そう言って男が、不思議な柄の帽子を被り直すと、雰囲気はすっかり弱そうな剣士になっていた。
それでも流石に今なら分かる、これは弱く見せるための”仮面”だ。
男はそのままくるりと踵を返すと、軽い足取りで広場の方へと歩き始めた。
だが3歩ほど進んだところで、その動きが止まる。
「そうだエリク君、
くるりとこちらを向き治り、ウインクしながらそう言う。
するとエリクの体が僅かに緊張するのが見えた。
モニカがそんなエリクに歩み寄る。
「しりあい? ”さっきの話”って、どんな話?」
「喋るなよエリク君、”剣士の約束”だ」
興味を引かれたモニカの問いかけに、男は人差し指を立てて口元に当てる。
どうやら秘密の会話があったらしい。
エリクが口を噤むのを見届けた男は、そのまま建物から広場に出ていった。
『ヴィオは何か聞いてるのか?』
一応、ヴィオに確認しておこうと思い、俺は通信を飛ばす。
だがその返事も、なんとも端切れの悪い物だった。
『ええっと、ご自身で自己紹介したいとの事なので・・・』
なるほど。
その反応に俺はちょっとだけホッとする。
ヴィオがそういうからには、悪い話ではないのだろう。
ただ、
『ということは、また会う予定があるんだな?』
『おそらくは・・・たぶん』
『なるほどね』
俺は再び観測スキル上にマークされた男の情報欄に、”再会の可能性あり”と記入した。
『あ、悪い人じゃないんで、警戒しないでください』
ヴィオが慌てたように男を庇う。
この反応・・・何をしたのか、相当ヴィオに気に入られたな。
『わかってるよ』
俺の記録にも、俺達が外に飛び出したときあの男が最前線にいた事は残っている。
クラヴィス先輩も距離は置きつつも、それ程警戒はしていないようなので、俺達に直接害がある可能性は少ないだろう。
まあ、それでも完全に警戒は解かないけどね。
俺は男の動きをじっと見つめながら、俺には分からず、モニカやエリクが反応する”強さ”とやらを見抜こうとした。
だが、昨日殴られていた”上司”と思われるパーティメンバーにペコペコ頭を下げる姿のどこにも、強さは感じられないから困る。
ただ、そのパーティメンバーの方は、男のその反応に心底薄気味悪い表情をしていたので、何かがあるのは確実だ。
男が戦うところを見たのだろうか。
気になるので、その内ヴィオに残ってるエリクの戦闘データをサルベージしてみよう。
ただ、今すぐにではない。
どうもヴィオは今回の戦闘について思うところがあったらしく、昨日からずっと考え込んでいるのだ。
おそらく、彼女の中で自分達の戦闘を分析し必要な強化プランを練っているのだろう。
それが固まるまで、横から茶々を入れたくはない。
ヴィオがどんなプランを練るのか気になるし、俺は娘の成長は”影から見守るタイプ”だからな。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
その日の夕方には、俺達の姿はメルツィル平原ではなく、トルアルム平野の上空に戻っていた。
眼下にはもうすっかり旅の拠点となったヴェレスの街が見え、そこに向かって”ワイバーン”がゆっくり高度を落としていく。
結局、昼過ぎに俺達はメルツィル平原からの退去が決まった。
各人の話を総合するに、俺達の魔力が直接の引き金になったことは間違いなく、そんな存在を遺跡の近くに置いておくこと自体が現状ではリスクと判断されたのだ。
そしてその決定に、俺達含め全員が賛同したのは語るまでもない。
むしろ、いくつかのパーティが早朝の段階から解散し、重症者の移動開始も午前中には完了していた事を考えると、遅いくらいかもしれない。
逆にアイリスは残ることになった。
”
むしろそれよりも、クレストール先生共々、事後調査に駆り出されているんだと。
「それじゃ、ここで」
依頼の報告を終えたモニカが、ヴェレスの冒険者協会の前でエリクにそう言って、いつもの様に別れの挨拶をする。
想定外の事だらけだった依頼だが、もうすっかりお馴染みの光景の登場に、ようやく心がホッと落ち着きを取り戻した。
「ひょっとすると、来週は来れそうにないかも」
「検査だっけ?」
「うん」
魔力で耐性があったとはいえ、放射線に晒されたわけだし、たぶん帰ったら、そのまま”モニカ班”にサイロにブチこまれて何日も精密検査だ。
異常があるわけではないが、状況が状況だけに今回はどれくらいかかるか。
俺達がそうやって指を折って今後を相談していると、不意にエリクが話しかけてきた。
「・・・なあ、モニカ」
「ん? どうしたの?」
モニカが手を止め、不思議そうにエリクを見つめる。
死線からかえってきたところだというのに、今の彼の顔が何だかまた戦地へ赴くように緊張しているのだ。
「今度時間作ってくれないか。 ・・・君に”診てほしい人”がいるんだ」
その言葉に、モニカが首を傾げる。
「わたしより、”おいしゃさん”の方がよくない?」
確かに俺達はその辺の野良魔法士よりよっぽど高度な医療魔法を使えるが、それはあくまでパッケージされた出来合いの魔法に過ぎない。
長期的に考えれば、まともな医者に見てもらう方が良いに決まってる。
「わたしが紹介しようか?」
だがモニカがそう提案すると、エリクは即座に首を横に振った。
「モニカがいい」
エリクの表情はいつになく真剣な物だ。
腹が決まってるというか。
まあ、昨日の夜からずっとこんな表情だけど。
「・・・わかった。 じゃあまた」
「うん。 待ってる」
モニカがそう答えエリクが頷くと、俺達はまた茜色の空へと飛び立った。
『わたし達の方がいいって、どうしてだろう?』
ヴェレスの街を飛び越え、進路をアクリラに向けたところで、モニカが俺に聞いてきた。
『さあな、腕とかってことはないはずだから・・・きっと人見知りが激しいんじゃないか?』
俺はなんとなくそんな見立てを言ってみる。
この世界、案外医者の信用は無いもんで、知らない奴に体をイジられるのは嫌って話はそれなりに聞く。
辺境とかだとむしろ、街の野良魔法士がかなり強力な医療魔法を使えるし、それで事足りるからな。
エリクと一緒に住んでる孤児たちは、たぶんそういうのに敏感だろう。
『ヴィオからなにか聞いてる?』
『いや、さっき聞いたときもはぐらかされてな』
『エリクに止められてるのかな?』
モニカがなんとも寂しげに後ろのヴェレスを振り返った。
『そんな感じじゃなかったが・・・たぶんヴィオなりに気を利かせてるんだろう』
ヴィオは”お父様お父様”と俺に甘えてくるが、ああ見えて主従意識がしっかりしてやがる。
今回の戦闘で何やら思うところがあったらしいし、エリクが駄目といえば、それが気楽なノリであっても従うだろう。
元が剣だったから、意外と考え方が厳格なのかもしれない。
俺達は、アクリラまでの空の道をゆっくりと進んでいく。
特に急ぐことはないので、馬車と同じくらいまで速度を落とし、風貌を開いて外の風を入れ込む。
そうやっていると、随分とさっぱりした気分になった。
想像以上にドタバタの依頼だったからな。
”ハスカール”の初起動が昨日の朝だなんて、もう信じられない。
あ、そうだ、”ハスカール”のデータを検証しないと・・・
俺は簡易的にヴィオから抜き出した自分の手元のデータから、エリクの強化装甲が、どのように戦闘したのかチェックをし始めた。
ただ、すぐに魔力が尽きて補助は殆ど使えなかったらしいが、この辺は要改善だな。
後半のエリクの攻撃の威力密度みたいに、”∞”になってる変なデータも混じってるし。
この未完成の”技スキル”が大量に書き込まれてるのは、ヴィオの作りかけか?
『・・・ねえロン』
『ん?』
『【望遠視】』
『あ、はいはい』
モニカの要望に俺が即座に応えると、視界が一気にクリアになり、さらに細かいところがはっきりと見えるようになった。
小さな点にしか見えなかった地上の人影が、今では肌のキメまではっきり見える。
するとお肌年齢20代の男が、こちらに手を振っているのが確認できた。
『ん? あれって・・・』
『やっぱり・・』
意外なことに、それは今朝方見たばかりの顔だった。
◯
「気づいてくれてよかった。 空を見たら偶然君を見つけてね。 探す手間が省けた」
地上に降りると、剣士の男が気さくな感じで俺達にそう言った。
見間違いじゃない。
あのモニカが警戒し、エリクとやたら親しげにしていた謎の男である。
『なんでここにいるんだ?』
この男は、今朝は確かにメルツィル平原にいた。
あの後、すぐにメルツィル平原を去った筈だが、それがどうしてアクリラの近くにいるのか。
理由もそうだし、単純に距離の問題がある。
メルツィル平原からここまで、直線的に飛んでも800㌔はある。
高速馬車の直行便でも間に合わない。
飛行機や高速鉄道のないこの世界において、その距離を半日で移動する手段は限られており、そのどれもが”普通の人間”が利用できる物ではない。
「それ以上、近づかないで」
モニカが鋭い声でそう言いながら、護身用に腰に挿していたフロウの棒を抜く。
「おや、流石に警戒させたかな。
安心しろ、私は君の敵じゃない」
「でも味方なの?」
モニカが問い返すと、剣士の男は一本取られたといった表情を作った。
「あなたは誰?」
改めてモニカが問う。
すると剣士の男が突然ビシッと姿勢を正し、南部風の敬礼を示す。
「僭越ながら
この度は、貴殿に”トルバ連合国会”からの”親書”を届ける任を任された」
魔導騎士団長を名乗る男がそう言って、厳重に封された一通の封筒を差し出した。
派手さはないが高級感のあるデザインに、大量の名前と”首都国首脳クリント・ミューロック”の名前が刻まれている。
『どう思う?』
モニカが鋭い声で聞いてきた。
『モニカは?』
『罠の臭いがする』
そう言って警戒感を顕にするモニカ。
『だが見た感じ、ブツに問題はないみたいだが・・・』
『うん、断れそうにないよねこれ・・・』
唐突だが、トルバの名前を出されては無下にはできない。
その封筒は偽造するにはあまりにも高度で、直接見たわけではないが、男の能力もその肩書で不思議ではない程のものである判断材料が揃っていた。
となれば、モニカの言うように受け取らない選択肢はない。
大きく発展してはいるものの、まだまだ通信には事欠くこの世界で会う機会は貴重。
例え道でバッタリ会っただけであっても、魔力認証さえあれば公文書のやり取りは成立する。
なので下手に拒否ると、どんな面倒に巻き込まれるか分かったものではないからだ。
俺達が、そう諦めて手を伸ばそうとしたその刹那。
「モニカ! それ受け取っちゃだめ!!」
唐突に、真上から大きな声が振り下ろされ、そこに顔を向けると真っ青な巨竜が急降下してくるところが見えた。
「え!?」
その姿にモニカが素っ頓狂な声を出す。
降りてきたのが誰かはすぐに分かった。
あんな真っ青な竜を使うのはルシエラ以外にいない。
「モニカ!」
ルシエラがそう言って、声で俺達の動きを制圧し、すぐ横に降り立ち素早い動きでグリソムの胸に腕を置いて俺達との間を空ける。
ルシエラの目が戦場の様に鋭い。
若干青ざめて、パッと見で分かるくらい余裕がなかった。
ルシエラにこんな表情を作らせるなんて、この男はそれ程強いのか。
実際、グリソムの表情はルシエラとは対照的に余裕に満ちていた。
それもその筈。
「残念ながら、もう遅い」
その言葉通り、俺達の手には既に封筒が握られ、更に俺達の魔力を吸って魔法陣が浮かび上がっていたのだ。
「もっとも、この
そう言って、不敵にルシエラを見つめるグリソム。
驚いた事に、いつの間にか彼の体内を流れる魔力の量が急激に増え始めた。
これは、”スキル保有者”の魔力? いやそれにしては制御が甘く野生的な魔力だ。
となると・・・
『”上位種”』
モニカが呟く。
見た感じ、”竜人”の様な特殊なやつではなく、単純に魔獣化しているようだ。
ということは安定しているので”鬼”ではなく”仙人”か。
一つ言えるのは、確かに最初のモニカの見立て通り、こいつは只者ではなかったということだ。
そしてグリソムが渡した封筒も。
封筒だったそれは、起動した魔法によりすっかり溶けて消え去り、中から分厚い魔法紙が1枚現れた。
恐ろしい作り込みの魔法陣が輝き、書かれた暗号文字が復号されて内容が読める様になる。
トルバ公用語の一つ”アムゼン語”で書かれたそれは、俺達にはすぐには読めないが、その必要はない。
なにせ手の中の魔法陣が、その内容を俺たちに分かる言葉で読み上げたのだから。
『”モニカ・シリバ・ヴァロア伯爵子位”殿、列国の憂である貴殿を見定めるため、我、現アムゼン魔国魔王”アイヴァー・オルセン・ルイーセ4世が貴殿を次の”
少女の様にも、少年の様にも聞こえ、その若々しさとは逆に壮年の様にも聞こえる不思議な声が当たりに響いた。
内容を信じるならば、これが”魔王”とやらの声だろうか?
と同時にルシエラの顔が悔しげに歪み、男が物凄く恭しげに俺達に一礼した。
何かが起こった。
俺達に分かったのはそれだけだが、ルシエラの表情を見る限り、それはあまり良いことではなさそうだ。
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