2-20【先史の記憶 9:~先史の光~】
「『 ”対象者”の接近を確認 』」
暴力的な爆音が頭の中に木霊し、その音に俺達が悶絶する。
それは聞く限りは完全に知らない言葉だが、何故か理解できた。
だがその、まるで”意味”だけを頭に叩きつけられているような不快感に、吐き気が胃液を押し上げようとする。
『どうなって・・・』
「モニカちゃん!!!!!」
アイリスが叫ぶ、その顔は恐怖と驚愕に染まっていた。
だが、それよりも”黒色”に染まっている。
『モニカ!!! 魔力が漏れてる!!!』
それに気づいた俺が叫ぶと、モニカが自分の体を見下ろした。
恐ろしいことに、そこに見える俺達の体は、全身から漏れ出した魔力の光で真っ黒に塗り潰されていた。
どういう原理か、俺達の魔力が吸い出されていたのだ。
そしてその魔力は周囲の石碑へと吸い込まれていき、俺達の魔力を吸った”石碑の原典達”が黒く輝き始め、その文字が更に強力な光で浮かび上がる。
バキバキッ っという不気味な音に顔を向ければ、魔力を吸いに吸った石碑が僅かに膨らみ、固定していた台座に圧力でヒビを入れるところが見えた。
「『 ”対象者”へ警告、ただちに保有する”魔力”を放棄せよ。 それは※※※が規定する違法エネルギー源です 』」
『うるっせええええええなあああああ!!!!』
その言葉に俺が反抗するように、制御の指示を叫び声に乗せて全身に飛ばす。
すぐに大量の【魔力制御】が発動し、その強力な力で漏れ出ていた魔力を押さえつけて、引きずり戻す。
一瞬にして、俺達の体から漏れていた魔力が収まり、その奔流が繋がっていた近くの石碑の原典を台座から俺達の方向に向かって引きずり倒した。
と、同時に頭に鳴り響く声が一旦止まる。
っしゃああ、見たか!! ”制御スキル”なめんじゃねええ!
俺は自分にそう叱咤して頭のコントロールを取り戻すと、すぐに現況の把握に走った。
『大丈夫かモニカ!?』
『うう・・・あたまいたい』
モニカが呻く。
『・・・大丈夫そうだな・・・ヴィオ!?』
『・・・お父様・・・なんですか? この痛い声は』
ヴィオの返答は、いつもよりかなり弱々しい通信だった。
『お前にも聞こえてたか、そっちの状況は?』
『これです』
ヴィオが自分達のデータを送ってよこす。
それによれば、どうやらエリクにも”今の声”はダメージを与えていたらしい。
部屋を超えて効果が及んでいたということか。
その事と、それに全く気づけなかったことに、俺は大きく肝を冷やした。
少なくともこっちの観測体制は万全だった、ということは、今のこの事態は俺達の対応能力の外の現象かもしれない。
なんとか、これで収まってくれればいいが。
だが、その”静寂”も束の間。
「『 ”警告” こちらは※※※※の※※※※局です。 あなたのその行為は※※法、第319条並びに、その付帯する条項に違反するものです。 直ちに違法エネルギー源を放棄しなさい 』」
またもその猛烈な爆音が脳の中に響き、その痛みに俺達が呻く。
『どっからなってるの!?』
『今、逆探知中だ!!』
とにかく、何の種も仕掛けもなく、不特定多数の頭の中に音を鳴らすなんてことは不可能だ。
実際、その”仕組み”は掴んでいた。
見たこともない形式の魔法が、俺達の頭の中に差し込まれて作動していたのだ。
俺は躊躇なくその魔法を隔離すると、それを動かしていた魔力の尻尾を掴む。
”先史文明”の遺物だかなんだか知らないが、脳にプリインストールされた”インテリジェントスキル様”に手を出したんだ。
ただで済むとは思うなよ。
そのまま俺は、その魔力のつながりに被せるように自分の魔力を逆流させると、その声がどこから流れたものかがすぐに分かった。
今俺達と繋がりがあるのは、周囲の4つの石碑、天井の模様と・・・
『下か!!』
俺がそう叫ぶとモニカが拳を握りしめ、そのまま地面に叩きつけた。
床を構成していた部材が周囲に飛び散る。
そして、その破片を見た俺は”確信”を強めた。
やっぱりか。
『階段と同じだ・・・この部屋全体が魔力回路なんだ! そこを俺達の魔力で動いてやがる』
やっぱり、ただの階段に魔力回路は贅沢すぎるって事か。
俺は即座に魔力を集めながら、【透視】を使って周囲を探る。
すると部屋全体を取り囲む土中に、大量の魔力の流れを検知した。
先程までは見えなかったが、俺達の魔力を吸った事で見える様になったのだろう。
俺はそこに向かって、流れを断ち切るように大量の魔力を薄く伸ばして叩きつける。
すると魔力の流れが目に見えて滞り、散り散りになって停止した。
”
だがそんな風に俺が安心した刹那、魔力の流れが急に繋がり再開した。
『なに!?』
それは俺が見たことのない魔力の動きだった。
慌てて、さらなるジャミングをかけるも、まるで何かに無理やり補正されてるかのごとく、魔力の流れは途切れずに流れ続ける。
「『 ”対象者”による妨害行為を検知しました。 直ちにそれを停止し、違法エネルギー源の放棄に従いなさい。 これは警告です。 』」
再び頭の中に鳴り響く謎の声。
だが、ジャミングの影響か痛くはない。
『警告って?』
『さあ?』
正直、何を言っているのかさっぱりである。
「どうした!? 何があった!?」
そう叫びながら、階段の入り口からエリクが頭を抱えて現れる。
「分かんない! とにかく一旦ここをはなれよう! 先生をお願い!」
モニカがそう叫び返しながら、クレストール先生の方を指差した。
それを見たエリクが頷きながら走り出す。
クレストール先生は頭を抱えた状態で、その場に蹲っていた。
意識はあるみたいだが、頭の痛みに動けないらしい。
近くのロメオも顔を顰めている。
『ヴィオ! 相手の魔力データを送る。
エリクの頭の中のその魔力を止めろ!』
俺はその指示を出しながら、ロメオのユニットを弄って、彼の頭の中にジャマーを流す。
すると痛みの収まったロメオが何かを振り払うように頭を振った。
ヴィオも対応できたようで、エリクの動きが急に良くなる。
あとは・・・
『モニカ、これ』
「エリク! 受け取って!」
すぐにやる事を理解したモニカが、次元収納から、俺の作った即席の魔道具を2つ取り出し、その片方をクレストール先生に近づくエリクに向かって投げた。
と、同時に自分は傍らで蹲るアイリスに駆け寄り、その頭に魔道具を被せる。
すると無骨なヘルメット状の魔道具に付けられた魔道具が、一斉に俺との通信を確立させた。
作りかけの”ユニバーサルシステム”のプロトモデルだが、これでも簡易なジャミングくらいは発動できる。
すぐにアイリスはこちらを見上げて、驚きに目をパチクリさせた。
よし、動作は問題ないな。
「これ被ってるあいだは、いたくないから」
そう言いながら、モニカがアイリスのヘルメットのあご紐を引っ張って締める。
そして状況を把握するために、視線を周囲に向けていく。
『クレストール先生は?』
『エリクがヘルメットを付けた』
ちょうど、モニカの視線がクレストール先生をロメオの背中に押し上げるエリクの姿を捉えた。
先生も頭痛の対処が上手く行ったのか、不格好に両手でヘルメットを抑えながら驚いた表情でこちらを見つめる様子が見える。
「先生!!! これなんですか!!!!???」
モニカがクレストール先生に向かって叫ぶ。
だがクレストール先生は首を横に振るだけ。
「わからん!!! こんな現象は見たことも、聞いたこともない!!!」
どうやら、この事態は俺達の”歴史的知識不足”が原因ではなさそうだ。
じゃあ、なんだ?
その時、俺のコンソールに新たな魔力反応が表示された。
『くるぞ!』
モニカとヴィオ(とついでにロメオ)に向かって叫ぶ。
次の瞬間、頭の中に外からの魔力とジャミングがぶつかり合う、”ゴリゴリ”という嫌な音が木霊した。
幸い抜かれることはなかったが、アイリスとクレストール先生の顔が恐怖に歪む。
「『 ”対象者”に最終警告、こちらの警告に従わない意思を検知しました。 直ちに保有している”違法性エネルギー源”を破棄しなさい。 これは最終警告です。 従わない場合、実力で対処します。 その場合の生命の保証はありません。 これは最終警告です 』」
「モニカちゃん、こわいよ!」
圧倒的音量の声に恐怖を感じたアイリスが、涙を浮かべながら俺達に抱きついてきた。
その頭を、モニカが宥めるように抑える。
『なにかわかんないけど、”たいしょうしゃ”ってのは、たぶん”わたし”だよね』
モニカが苦々しげに呟く。
それに対する俺の返答も苦い。
『ああ・・・たぶんな・・・』
クレストール先生が以前来た時は平気だったことからして、間違いなく今回のこの事態は俺達の中の”なにか”が悪さをしたに違いない。
”なにか”なんて一つしか無いけどな。
『”大呪”か、それともそれで出来てる”王位スキル”か。 とにかく”王の因子”とやらに反応してる可能性が高い。 だが捨てらんねえよな』
『すてられても、すてる気はない』
モニカはそう言うと、グラディエーターを展開しながら立ち上がる。
そのまま、挑むように周囲の石碑を睨みつけた。
”最終警告”というからには、次は実力行使で来るのだろう。
中心付近の石碑と、さらに地面と天井が俺達から吸ったと思われる黒い魔力で光り輝いていた。
時折、僅かに見える濁った灰色の魔力はアイリスのものだろうか?
彼女の魔力も吸われたということは、この中心部付近に何かあるに違いない。
その時、これまでとすこし毛色の異なる、荘厳な声が頭の中に鳴り響いた。
「『 ” 起動せよ ” 』」
まるで、この世が始まった時からそうだったかのように、その”聞き取ることのできない言葉”の意味はハッキリと感じ取れた。
まるで”天の宣告”のような荘厳さと絶対さだ。
そしてその瞬間、部屋に充満した魔力が一斉に動きを変えた。
身も凍るような不気味な破断音が響き渡り、部屋全体が地震のように揺さぶられる。
「・・・なっ!?」
クレストール先生のその叫びはアイリスの姿共々、俺達の目の前で吹き上がった噴煙でかき消された。
物凄い圧力で破断した床の破片が、その圧力で噴き上がったのだ。
「きゃああ!!」
アイリスの悲鳴が聞こえ、モニカが咄嗟に手を伸ばして噴煙を突き破ると、その向こうからアイリスを引っ張り込んだ。
アイリスが正面から抱きつく形で俺達に縋る。
その向こうを、噴煙の壁がどんどん広がりながら進んでいくのが見えた。
『部屋が割れてる!!』
俺は叫んだ。
視界からだと土煙に塗れてよく分からないが、”強化情報システム”の情報にはハッキリと、部屋の東西に大きな亀裂が走り、それが中央から崩壊しながら裂けるように広がっていくのが見える。
うん? 中央?
『モニカ! あしもと!!』
「っ!!??」
間一髪、足元の崩落をモニカが後ろ向きにジャンプしながら回避する。
この部屋は、俺達のいる場所から崩れていたのだ。
ガラガラと床が砕けながら大きな破片が下へと飲み込まれていくのを逃れるように、モニカが足を動かす。
あっという間に、一番内側の石碑もろとも中央の空間が下に落ち込んだ。
それだけじゃない。
「何が起こっている!? どうなっている!?」
目の前の光景にクレストール先生が叫んだ。
無理もない。
完全に崩落したのは中央の5m四方だけだが、その周囲も大きく落ち込んでいたのだ。
雑然とだが計算され尽くした配置をされていた石碑達も、今は見る影もなく殆どが倒れたり逆に振動で盛り上がったりしている。
東西に走った”亀裂”は今や、部屋を完全に南北に分断していた。
そして、その亀裂はかなり深く中は真っ暗で見えない。
するとその時、部屋を照らしていた魔力灯が刺さった瓦礫の山が音を立てて崩れ落ち始めた。
とうぜんその上に挿してあった魔力灯も瓦礫と同じく転がり落ち、強力な明かりが目まぐるしく動いて、部屋全体を明と暗で何度も塗りつぶした。
その光景に、腕の中のアイリスが震える。
やがて、ようやく下まで滑り落ちた魔力灯は、亀裂の縁に引っかかってその内部を照らした。
浮かび上がる亀裂の内部。
破断しながら広がって発生した”壁”には、まるで血管のように無数の魔力の流れが不気味に蠢いていた。
その魔力の流れは、亀裂に沿うように中心部へと集中し、その真中に顕になった謎の”突起”へ繋がっている。
『地面の下にこんな物があったなんて』
魔力が流れてない内は、ただの鉱物か何かと誤認していたか。
その事実に俺は
亀裂の中の突起は、まるで脈動するように周囲の魔力と、俺が上手く検知できない謎のエネルギーを溜め込んでいく。
その生々しさは、まるで”生き物”みたいだ。
こんな魔道具の作りは知らない。
だが、その”考え方”は、現代とさほど変わらなかった。
「これって・・・!? ”分割魔法陣”!?」
モニカがそう叫びながら上を見上げる。
正確には、中心の直上にあった、あの下向きに付いた天井の”謎の突起”だ。
予想通り、その姿は先程とは似ても似つかないほど魔力を吸って膨れ上がり、大きく下向きに突き出す形でそそり立っていた。
その突起の”巨大化”で、周囲の天井から繋がっていた魔力回路がブチブチと引きちぎれる。
だがそれは”そういう設計”らしい。
最後に繋がっていた魔力回路が引きちぎられると、天井からぶら下がっていた巨大な”突起”は重力に引かれて、真下へと落下を始めた。
するとそれと同時に、落下する突起の周りの千切れた魔力回路が、亀裂の壁で剥き出しになった魔力回路にパスを繋ぎ始めた。
やはり、魔力回路を分割して、打ち合わせて完成させることで発動する”分割魔法陣”の一種だ。
その魔法陣が完成した時にどんな動作をするのか、考えただけでも怖気が走る。
俺はそうさせてなるものかと、空中に魔力を放って回路の完成を妨害しにかかった。
高速で撃ち出された高密度の魔力が、突起と亀裂の魔力パスを切断する。
だがそれは、すぐに先程と同様”謎の力”でもって無理やりつなぎ直されると、より強い力で突起を引き寄せた。
数十mの空中を、突起が加速しながら落下する。
その目標は、亀裂の中心に上向きでそそり立つもう一つの”突起”。
すると”強化情報システム”の観測スキルが、その先端に他と違う”奇異な反応”を検知した。
その部分だけ・・・異様に物質の密度が高いのだ。
そして同様の反応が、落下する突起の先端部分にも・・・
『・・・!!!』
2つの突起の麓から黒い魔力の触手が空中にのびて絡み合い引き合う。
まるで、”突起の先端”同士の高密度の物質を高速でぶつけようとしているかのようだ。
まずい・・・
『まずい!!!』
俺は思わず叫んだ。
『モニカ!! アイリスを抱えて床に伏せろ!!』
『ヴィオ!! ハスカールを”完全防御”で展開!!』
『ロメオ!! クレストール先生を下ろして腹の下に隠せ!!』
俺が一瞬で思考を分割して3人に指示を飛ばす。
と同時に、モニカの返答を聞く前に”飛行ユニット”を起動し、その羽根を未完成のところで展開しながら背中を覆う。
ちょうど亀裂の中心部に向かって傘のような”盾”が発生した。
同様のものがロメオのユニットからも展開され、クレストール先生とエリクをその下に埋める。
『どうしたの!?』
『アイリスを放すなよ!』
悪いがモニカに返答している暇がない。
俺はさらに、次元収納から大量の魔力素材を取り出して、驚くアイリスをその中に沈め、同様の処理をロメオの方でクレストール先生とエリクに施す。
と、同時に全身の魔力を一斉に背中に集めて傘の先端から噴き出し、さらなる”壁”をつくっていく。
間に合ってくれよ・・・
俺のその願いは間一髪で叶えられた。
ちょうどロメオ達が完全に魔力素材と魔力壁で出来たドームに覆われたその瞬間、俺達の目の前を天井から落下した巨大な突起が通過したのだ。
そしてその突起は、寸分違うことなく亀裂中心の突起に、吸い込まれるように衝突した。
ものすごい速度と圧力で突起同士の先端が衝突し、変形しながら絡み合う。
俺のスキルが観測できたのは”そこ”までだった。
次の瞬間、先端にあった超高密度の物質が物凄い光を放ち、どこから湧き出したともしれない膨大なエネルギーを周囲に放ったのだ。
青白い光が部屋を塗りつぶす。
その光は一瞬にして、感知することが出来ないほどの量に達した。
これを形容する色は、俺の辞書にはない。
ただひたすら、恐ろしいエネルギーを内包した光が、部屋の全てを塗りつぶしたのだ。
『なにこれ!?』
モニカが
部屋を塗りつぶした圧倒的な光のエネルギーは、直撃した全ての物体の表面を焦がし、その内部までをも焼き尽くそうと染み込んできたのだ。
『くううっっっ・・・・』
俺が唸りながら、背中に送る魔力を増加させる。
ロメオのところは足りてるみたいだが、近くで直撃を受けてる俺達の背中はとんでもない温度になり、染み込んだ光が内部をゆっくりと加熱していた。
少しでも魔力の供給が弱まれば、たちまち大量の放射線が俺達の体を突き抜けるだろう。
そう、
『かげが・・・焼き付いていく』
膨大な光で部屋の表面が変色して明るくなり、石碑の影になった部分の素の色が、まるで影が張り付いたかのように残っていく。
あの謎の石、この異常な光・・・・・間違いない。
物凄く進んでる文明だと聞いていたが、
『
俺はそう叫びながら、コンソールに浮かぶ巨大な”放射体”の表示を睨む。
それを見ながら、俺は”先史時代”の認識を・・・特に危険度を大きく引き上げた。
それは間違いなく、魔力で制御された・・・
”核兵器”だったのだ。
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