2-11【対決! 勇者戦 7:~試合終了~】
『火が付いた!!』
俺が叫ぶ。
と同時に、凄まじい圧力がデバステーターの頭部で発生したことを告げるアラームが、そこら中に鳴り響いている。
そして打ち合わせどおりレオノアに飛び掛かったデバステーターは、その圧力をレオノアのすぐ近くで開放した。
その爆発がどれほどのものだったか、全ての感覚器が瞬間的に破壊されたために記録することは終ぞ叶わなかった。
ただ分かっているのは、レオノアの”魔力の破壊”の力で俺達がこのために予め用意してい魔力が残らず破壊され、それが純粋な”エネルギー”に変わってしまったということ。
いや、すでに”エネルギーの塊”と化していた物の、魔力的な構造を断ち切ってしまったというべきか。
そしてその爆発は、俺達だけでもレオノアだけでも再現できないほど凄まじく、その衝撃でデバステーターの上半身が跡形もなく消失した程。
これを見越して、モニカのいる”鳥籠”部分を下半身に移していなければ、俺達も巻き込まれてしまっただろう。
そして当然ながら、この爆発でレオノアの”青い太陽”は大きく萎んでいた。
『まだまだ!』
モニカがそう叫ぶと同時に、”巨獣”の残骸の中から針金人形のようなデバステーターの骨格が飛び出す。
もう既に、その巨体の殆どを維持する魔力は残ってない。
だが、それも計算の内。
外は悲惨な状態だった。
発生した黒煙で周囲の様子は見えず、未だ燃え盛る”魔力破壊”の炎が、生き残った魔力を求めて暴れまわっている。
そして魔力は、この周囲に潤沢に存在している。
巨大化したデバステータの”魔獣の体”、その残骸がレオノアの周りに散らばり、そこに内包されていた魔力がどんどん抜け落ちてそこに火が付いているのだ。
まるで爆発の海のような状況に俺達は針金のようなデバステーターのフレームを操作して、なんとかそこから這い出した。
一方、中心部にいたレオノアは未だ逃げることが出来ずにいる。
それは”魔力感覚”を通じて知っていた。
だがその”青い太陽”は、元の大きさに戻ることなくゴリゴリと削れている。
やっぱりだ。
その反応に俺は確信を持つ。
”勇者の力”の供給は殆ど無尽蔵と言ってもいいが、その供給には一定の”リスク”が伴う。
容量不足か、システム的な欠陥か、
少なくとも、あの無敵とも思える”防御力”が発動している間は、”勇者の魔力”の補給が行えないのだ。
だから俺達はレオノアの防御が発動する状況がひたすら連続する環境を作り、その魔力を確実に減らすことにした。
”補給”がなければ、”勇者の魔力”は大して在庫がない。
そして在庫が尽きれば、勇者とて只の人である。
これが無敵であるはずの”勇者”が、何度も討ち取られていたことの”答え”だ。
更にレオノアは俺達の捨て身の連続攻撃に対処するため、勇者の力をより大量に使う愚を犯した。
これによって魔力を大きく減らしたレオノアは、その上、手を増やしダメージを受ける範囲を増やしてしまったことで、続く”大爆発地獄”により大ダメージを受けてしまう。
感覚に浮かぶ”青の太陽”は、もはやモニカと同学年の普通の生徒と同じくらいの大きさしか無いだろう。
それでも俺達は、燃え盛る大量の”巨獣”の残骸の下から、凄まじい力が上がってくるのを感知していた。
そしてその感覚通り、直後に目の前の残骸の一部が持ち上がり吹き飛ばされると、その中から無傷の青い剣身が現れる。
再び立ち上がったレオノアは、やはり見た目的には全くの無傷のまま。
だがそうではないことは、俺達の感覚が教えてくれていた。
依然として周囲の魔力が爆ぜた衝撃波がレオノアの体を打ち据え、その魔力を減らし続けている。
それでも、レオノアにはまだ”余裕”があった。
魔力の補給が来ないとはいえ、その状態はこの地獄のような空間を抜ければ一瞬で終わるし、まだ体は無傷。
そして彼の魔力による”絶対防御”は、まだ少しの余力を残している。
それに対して俺達はどうか?
この地獄を用意するために魔力を使い倒したせいで、デバステーターの体型を維持することすら出来ず、当然ながらレオノアにダメージを与える余力も、次に飛んでくるであろう攻撃を受ける余力も残されていない。
そしてその事を、レオノアは何らかの方法で察知したのだろう。
努めて冷静で真面目を装ってはいるが、その顔に”勝利の確信”が浮かんだ。
レオノアが剣を構え、こちらに向かって一気に駆け出す。
爆発の海を泳ぐように進むその姿は、勇者ならではの力強さと、敵ながらあっぱれといった頼もしさが同居していた。
その剣を受ければデバステーターのフレームは破壊され、魔力の尽きた俺達の負けは確定する。
そして俺達にその一撃を回避する手段は・・・・
1つだけ残されていた。
『制御魔力炉・・・”停止”!!!』
『了解! 停止!』
モニカのその掛け声と同時に、俺が予め引っ張り出していたコンソールのスイッチを乱暴に切っていく。
もう既に、燃料となる魔力は殆ど使い尽くしているので未練はない。
するとそれまでにデバステーターを風船のように膨らませていた内側からの圧力が一気に消え去り、魔力不足でコントロール不能となった回路達の反応が一気に消えていく。
レオノアも、瞬間的に魔力が消え去ったことを感じ取ったのだろう、その顔に僅かに安堵の色が・・・
だが彼にとって本当の”地獄”はこれからだった。
『スキルの正常停止を確認、
『うん、やって!』
モニカの確認が取れた俺は、デバステーターの僅かに残されていた前部装甲の一部をめくりあげ、そこに向かって感覚のすべてを使って”それ”を流し込んだ。
”制御魔力炉”はとんでもないスキルだ。
魔力を燃料に、より高次の魔力を生み出し、その圧倒的な力で全てを薙ぎ払う。
だがその代償・・・というか欠点というか・・・
止めても、炉の中にまだ大量の
そして、その不完全燃焼魔力は、変質後であるためもう使えないばかりか、そのままでは俺達の体を内側から破壊しかねない。
実際、以前死にかけたし。
特に今回は、今までにないほどの量の魔力を燃やしたせいで、俺達の内側には凄まじい量の”燃えカス”が残っている。
なので俺は、それを外に向かって”排出”することにした。
レオノアの正面の、俺達の前部装甲の隙間から。
その瞬間、デバステーターの胸から膨大な量の真っ黒な魔力が流れ出した。
あまりの勢いにデバステーターが巨大な足を付いてつんのめる。
正面から突っ込む形だったレオノアは、当然その流れから逃げることが出来ず飲み込まれてしまう。
おそらくこんな量の魔力の流れに飲み込まれたことなど無いのだろう、レオノアの小さな体は膨大な魔力流の中、木の葉のように無力に押し流された。
そしてその流れによって巻き上げられた残骸たちが、その内部の魔力を吐き出し、そこに魔力の破壊”の火が回ってさらなる大爆発が連続的に発生する。
もはや地獄だって、こんなにひどい場所ではないだろうというくらい、悲惨な状況がレオノアの体を襲い、残されていた僅かな魔力を削り続けた。
だが俺達にそれを感知する方法はもうない。
制御魔力炉を止めたので、周囲の魔力からの感覚を掴むことができなくなってしまったからだ。
それに今はそれどころではない。
体中から抜け落ちる魔力の感覚に、俺達は右も左も分からなくっていた。
”特大”とはよく言ったものだ。
燃えカスの魔力が体から抜ける感覚は、本当に放尿や排便に近い。
それを増幅したものが、全身で起こっていると考えてほしい。
気を抜くと本当に出してしまいそうなくらいである。
それでも俺は僅かな意思を込めて、レオノアのいる方に向かって魔力の排出を続けた。
膨大な魔力の流れが追い打ちをかけるようにレオノアを襲い続ける。
もう殆ど、本能的だったと言っていいかもしれない。
だが、その流れもすぐに終息に向かう。
燃えカスは無限ではないし、連続で出せるほど量もない。
徐々に光は細くなり、その勢いも弱まっていった。
それでも周囲の瓦礫を引っ掻き回すように動かしたため、気がつけばフィールドの端に大量に集まり魔力を噴き出して燃えさかり、かき回されたことで、その炎の勢いは再び増していた。
これならばあと数分は”地獄”が続くだろう。
あの中に居続ければだが。
『まだ立つか』
真っ黒に燃えながら爆ぜる瓦礫を、風呂の湯の様に浴びながらレオノアが立ち上がる。
地獄の様な背景のせいで、その姿は魔王の様におどろおどろしい。
だが、それを見た俺達は心の中に笑みを浮かべる。
依然としてレオノアの”防御”は有効だ。
だがその力は大きく目減りしているのが一目で分る。
近くで爆ぜた火に焼かれた制服がすぐにもとに戻り始めるが、それは一瞬ではなくゆっくりと、しかもガス欠寸前のエンジンの様に不安定なものだった。
そのせいでレオノアは無事な部分と修復待ちな部分でまだら模様になっている。
『やっぱり”修復”だったか』
分かってちゃいたけど、実際にゆっくりと元通りになっていくのを見るのは不思議な気分だった。
いったい、どういう仕組みなんだろうか?
いや今はそれどころではない。
モニカが即座に攻撃の指示を出し、デバステーターのフレームだけの体が砲弾のように飛び出す。
そしてそれをレオノアの剣がガッチリと受け止めた。
2つの武器がぶつかり合いながら火花を散らす。
だが、
”破壊”は発動しない!
それを見たモニカが嵐のようにもう一方のデバステーターの拳を叩きつけ、レオノアが必死の様子で受け続けた。
だが俺達も似たような物、魔力を使い果たし、今はフレーム内に残留した僅かな魔力を使って動いてるに過ぎない。
遠距離攻撃はおろか、自壊上等の高速打撃も封印され、レオノアの素の力と比べても互角がやっと。
お互いに満身創痍、頼みの”修復”はどっちも機能していない。
2人の体を地獄の炎と破片がパチパチと打ち付ける。
この環境から逃すわけにはいかない。
その瞬間、レオノアは”勇者システム”から補給を受け、俺達の負けが確定する。
最初と比べれば、なんて鈍重で弱々しい攻防だろうか。
それでも、どちらも最後まで勝ちを譲る気はないらしい。
デバステーターの拳が、レオノアの10本の剣の内、機能不全に陥っていた数本を吹き飛ばす。
反対にレオノアの剣がデバステーターの指先を切り飛ばした。
フレームから魔力が失われ、足はもうまともに動かない。
どんどんと少なくなっていく感覚を、その部分ごと切り捨てながら腕を動かす。
避けきれなかった剣が胸部の装甲に突き刺さりコックピットの中に火花が散る。
そしてその瞬間、これまで怪力無双を続けてきたデバステーターが遂に力尽き、その原動力だった回路基板に大きな亀裂が走った。
それでも最後に反動だけで放たれた拳がレオノアの体を打ち据え、何かガラスの様なものを砕く。
レオノアの体が力を失った様によろめいている。
すると目が眩むような光が、インターフェイスユニットの画面を照らした。
見れば、魔力を失い回路を維持できなくなった9枚の基盤が固定を外れて横にずれ、”
「
モニカがそう叫ぶなり、俺はモニカの体を固定していた機器類を一斉に取り外した。
ブチブチと音を立てて千切れる配線、飛び散る固定具。
その中にはグラディエーターの装甲や、インターフェイスユニットも含まれていたが、魔力が尽きた今、持っていても使いみちはない。
そしてハーネスから外れ自由になったモニカの身体は、その動きを確認する間もなく近くにあったフロウを握りしめると、そのまま力任せにデバステーターの装甲を破壊しながら飛び出した。
すぐに外の猛烈な熱気と衝撃が俺達の肌を焼き、制服を焦がす。
それでも俺達は、本当に僅かに残っていた魔力で背中に魔力ロケットを展開しその勢いで加速すると、フロウを槍のように尖らせ、僅か数mのところに立っているレオノア目掛けて最後の突進を敢行した。
それを見たレオノアも食らってなるものかと沢山の剣で受けようと動かすが、これまでの攻防ですっかりボロボロになり維持できなくなった剣たちは、その途中でも次々に魔力を失い消失していく。
最後にはレオノアに残っている剣は、”本来の”彼の身体が持っている2本にまで減ってしまった。
そしてその一瞬の”体型の変化”は、彼に重大な隙を与えてしまう。
慌てて腕を動かすも、既に眼前に迫っているモニカの攻撃のほうが早かった。
超高速に加速したフロウの切っ先は、これまでのデバステータのどの攻撃と比べても弱い。
だが計算ではあと、一撃のはず!
これが決まれば!!
俺達はその情報を感覚だけで共有し、”最後の一撃”に文字通り全ての力を動員した。
吸い込まれるようにレオノアの懐に入っていく、俺達のフロウの槍。
だがその一撃が命中することはなかった。
「・・・それ以上はいけないよ」
その瞬間、俺達の腕を太くて真っ赤な腕がガシっと掴んだ。
突然、俺達の体に強烈な負荷がかかり、視界がガクンと下がる。
更にそこら中に杭のようなものが出現し、更に重ねて色とりどりの魔法陣が周囲に散らばり、その効果でそこら中で暴れていた爆炎が潰されていく。
見れば俺達の最後の一撃はレオノアに届く直前で止まり、触れることなく止まっていた。
もう俺達が必死で用意した地獄のような環境は何処にもない。
するとその隙にレオノアの”力”が発動し、ボロボロになっていた彼の格好が、再び何処にも傷がなく服に皺1つない綺麗な状態に戻ってしまう。
「・・・ああ・・・」
それを見たモニカが小さく呻き、その心に反応するかのようにフロウの槍が力なくポトリと下に落ちる。
それに続くように、僅かに残っていたデバステーターの残骸が魔力を失いガラガラと音を立てて崩れ落ち、過負荷で焼ききれた基盤が陶器のように割れながら転がっていく。
魔力を使い果たした俺達の体は鉛のように重く、対するレオノアはどこにも問題がない。
「・・・まけ・・・た・・・」
「いや、ちがうよ」
突然、耳元に声がかかり、驚いたモニカが後ろを振り向くと、そこにあった女性の顔と目が合う。
あれ? なんでこの人が?
もはやモニカに語りかける気力すら失った俺が、重たい思考の中でそんな疑問を発する。
「スリード・・・せんせい?」
モニカが問うと、スリード先生が答えるように優しく微笑んだ。
どうやら俺達の攻撃を止めたのは彼女らしい、腕がしっかりとモニカの体に巻き付いている。
でも、なんで?
「勝者!! モニカ・シリバ!!!」
その時、荒々しい獣のよう叫び声が近くから発せられ、その音量にモニカが顔を顰めながら振り向くと、モニカの腕を握って止める獅子のようなグリフィス先生の威容が見えた。
力尽きたせいか、その大柄な体がいつも以上に巨大に見える。
よく見れば、他にも沢山の関係者がフィールドに出現し、そこら中で溶けたり燃えたりしている残骸の処理を行っているではないか。
ということは試合は終わったということになる・・・
しかも・・・なんだって?
「君の勝ちだ、モニカ」
「え?」
予想外のスリード先生の言葉に、理解できなかったモニカがそう聞き返す。
するとその瞬間、割れんばかりの歓声が四方から巻き起こり、その迫力に心臓が縮み上がるかと思った。
「勝った・・・の!?」
俺達はその状況がまだ理解できなていなかった。
だって・・・
「だって・・・まだ、無傷・・・」
「僕の負けだよ。 本当に死ぬところだった」
相変わらず何処にも傷のないレオノアが、ものすごく苦い顔で俯きながらそう答え、それでも尚しっかりとした足取りでこちらに近づき、握手のために手を伸ばしてきた。
対する俺達は、指一本動かす余力も残ってない。
「あ・・・えっと・・・あの・・・なんで?」
それどころか、一気に襲ってきた眠気を必死に脇に避けながら、言葉にならない声でそう答えるのが精一杯。
「最後の一撃が直撃していたら、レオノア・メレフの命が危なかった。
既にそれまでの攻撃で、彼の保護結界を含め全ての防御策が無効化されていたからな、故に決着として試合を止めさせてもらった。
異存はないな? レオノア・メレフ」
「・・・・ありません・・・」
グリフィス先生の説明に、レオノアが暗い顔で同意する。
口の中いっぱいの苦虫を咀嚼し続けても、こんな顔は出ないだろうというくらい悔しさを必死に押し殺していた。
どうやら本当にあのとき、俺達の攻撃はレオノアの魔力が供給される前に届くところだったらしい。
眼の前の光景を見た俺達は、ようやくそこで状況をうっすら理解することが出来たのだ。
「・・・かったぁ・・・」
モニカが漏らすように小さくそう呟くと、まるで力尽きたようにスリード先生の腕の中で崩れ落ちる。
「おやおや、これじゃまるで”あべこべ”だね」
勝者が力尽きて倒れ込み、敗者が無傷でピンピンしているこの不思議な状況に、スリード先生が軽く笑いながら、俺達の頭を優しく撫でてくれた。
その手の感触が心地よくて・・・
『・・おわったね』
『・・おわったらしい』
もう勝敗なんてどうでもいいとばかりに、ただ試合が終わった事による安堵が急に湧き出して、俺達はお互いにそのことだけを確認し合ったのだ。
こうして、
あとは医務室で怖い顔で待っているであろうロザリア先生に、なんて謝ればいいかを考えればそれでいい。
あ・・・それよりどうやって医務室まで行こう・・・って、それはスリード先生あたりがなんとかしてくれるか・・・
そんな風に俺達は遠くなる意識の中で、今後のことを薄っすらと考えていた。
もう、しばらくはどうやって戦おうか悩む必要はないとばかりに・・・・
・・・あれ? でも、なんか忘れてない?
パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!
その時、俺達の静寂な思考と歓声の大音響を引き裂く、
そのあからさまな違和感に、不審に思ったモニカが閉じかかった目を押し上げ、音のする方を見つめる。
するとちょうどその時、視界の上の方から本当に”ヌルゥッ”という擬音が適切な感じで、金ピカの人物が拍手をしながら空中を滑り降りてきた。
そんな奇っ怪な人物はできれば無視したい心境だが、残念ながら心当たりが大いにある。
「『2人共、よく戦ってくれた! この試合の”主催者”として、大変嬉しく思うぞ!』」
ガブリエラが表情参考集の見本のような笑顔を浮かべながら高らかにそう宣言すると、俺達含め会場中が”そういやこれ御前試合だっけ”といった感じのざわめきに包まれる。
そうだ・・・そうだった。
俺達がなんでこんなになるまで苦労してこの戦いに勝ったのかは、ひとえにこの王女様の”絶対勝て”という言葉があったからだ。
そして、それはこれから彼女がすることに必要なんだという・・・
なにすんだろう・・・
そんな俺達の不安を尻目に、他の関係者のポカンとした顔を置き去りにしつつガブリエラは、2つの観客席に向けて高らかに演説を続けている。
当たり障りのない形式的な内容だが、そこには場を盛り上げるような演説の上手さがあった。
「『それでは皆で勝者を讃えようではないか!』」
突然ガブリエラはそう言うと片手で俺達を指し示し、観客達がそれに呼応するように大きな歓声を上げる。
そして、その直後に出た”言葉”が・・・・その後の俺達の人生を・・・文字通り一瞬にしてひっくり返してしまったのだ。
「『皆のもの! ”モニカ・シリバ・
その瞬間、スリード先生の俺達を抱える腕が僅かに強ばるのを感じると、間髪入れずにグリフィス先生の眉が大きく歪み、その身体から凄まじい”殺気”のようなものが溢れ出す。
正面にいたレオノアに至っては、それまでの苦い表情が一気に吹っ飛んで驚きに目を見開いている。
一方俺達は、一体何が起こったのか理解できずにオロオロとするばかり。
ガブリエラの言葉にしても、僅かな”違和感”を覚える以上のことはなかった。
ただ・・・
「なんか・・・なまえ多くない?」
とモニカが指摘するにとどまったのだ。
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