2-5【少しの進歩 2:~現況報告~】
その日の授業が全て終わり、普段ならピカ研に向かう時間になった頃、俺達は中央講堂内の職員エリアへとやって来ていた。
用があるのはこの中の校長用の執務室。
正体の掴めない謎の人物に校長室に来いと伝えられた俺達は、取り敢えず一番先に思いついたこの場所にやってきていた。
てか調べてわかったが、この街”校長室”が多すぎるだろ。
大きな施設にはほぼ必ずと行っていいほど”校長室”があり、校長はそのどれかで執務を行っているらしい。
時期によってはかなり忙しいらしく、いちいち特定の場所に戻っていては仕事が成り立たないからとのことだ。
では俺達がいくべき校長室ってどれだよ?
って話だが、多くの場合校長は中央講堂内の執務室か、ルーベンとの喧嘩の後に呼ばれた校長自身が持っている学舎の中の執務室にいることが多いので、その辺を周ってみようと思って取り敢えず近かった中央講堂の方にやって来ていたのだ。
それに中央講堂の方ならば他の職員が校長の居場所を知っているか、なんらかの伝達手段を持っていると考えられるので問題はないだろうという考えもある。
なんでハッキリと場所を示してくれなかったのか不思議だが、なんとなく伝えてきた相手の風貌からして、そもそもこれが本当に校長の伝言なのかも怪しい。
まあ、校長以外がこんな伝言を残す理由は思いつかないので、そんなことはないとは思うが・・・
そして職員エリアの奥、ここの”校長室”に繋がる廊下に出たところで、そこにあった受付に座る男性に向かってモニカが声を掛けた。
「すいません・・・」
「ん? どうしました?」
その男性は特に強そうでも優秀そうでもなかったが、優しそうな声でそう聞いてきた。
「えっと、校長先生に・・・呼ばれたみたいで・・・」
「呼ばれたみたいとは?」
「ええっと・・これを渡されました・・・」
モニカがそう言って鞄から午前中に謎の人物からもらった紙片を取り出し、そのままその人に差し出した。
するとその人は丁寧ではあるけれど、不思議そうな表情を浮かべながらその紙片を受け取りその内容を確認し始める。
「うーん・・・ちょっと、ここで待っててね」
「・・・はい」
男性はそう言い残すと、席を立って奥の部屋に歩いていった。
その様子をモニカが恐る恐る見つめる。
「・・・やっぱり、普通じゃない?」
『この反応から結論をだすのはまだ早いが、なんとなくおかしな反応だな』
校長が呼んだと言うなら受付に何らかの連絡が行っているのが普通だ。
なのにこの男性のこの反応。
渡された時の異常性を加味すれば、やはり偽物とするのが妥当だろう。
何かのいたずらか?
それにしては無駄に高難度な魔法を必要とする手法に対して、内容が全く釣り合ってないのが・・・
だがそんな俺達の考えを余所に、受付の男性はすぐに戻ってきた。
「あ、入っていいよ、校長が待ってるから」
と何でもないようにそう言う。
あれ? やっぱり本物だったの?
と俺達が2人してそんな感じに一瞬固まっていると、男性が若干不思議そうな顔で手招きした。
「あ すいません・・・」
それに気づいたモニカが慌てて受付の向こう側に小走りで入り、男性と入れ替わるように奥側に移動すると、そのまま奥に続いていた廊下を進んでいく。
「・・・校長先生ここにいるみたいだね」
『みたいだな』
その道中で俺達がその事実を確認し合う。
だが依然として狐につままれた様な気分なのは変わりない。
廊下はそれほど長いものではなく、すぐに校長室の物と思われる扉が見えてきた。
コンコンコン
モニカが扉をノックする。
すると中からすぐに聞き覚えのある年老いた女性の声が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
それを聞いたモニカが扉のノブに手をかける。
だがその動きは途中で止まった。
「・・・?」
モニカから何か不思議そうな感覚が流れてくる。
『どうした?』
「・・あ、いや、なんでもない・・・たぶん気のせい」
『・・? ならいいけど』
俺がそう答えると、モニカが再び動きを再開させてガチャリと扉を開いた。
扉の向こうには結構な広さの部屋が広がっていた。
だが殆どの家具などが壁際に寄せられていて、中央が不自然に広い。
さらに棚などにもそれほど物は入っておらず、なんとも不可解な点が多い部屋という印象が強かった。
天井はこの街では一般的な5mほどだが、こういう違和感の中だとこの街の天井って高いもんだと久々に感じる。
だが、ここが間違いなく校長室である証拠として、窓際に置かれた重厚な執務机には校長その人が座っていた。
「よく来ましたね」
「重要な伝言ってなんですか?」
ここは他に人はいないうえ、一応校長は俺のことも知っている相手ということもあるし、さっさと要件を済ませたいので、俺は髪留めのスピーカーをオンにしてそう聞いた。
すると校長の顔に、わずかに苦笑が浮かぶ。
「それよりも、これを持ってきたのはどんな人でしたか?」
そう言いながら校長が先程受付で渡した紙片を掲げる。
「どんな人って・・・覚えてなくて・・・」
「やけに意識に残りづらい女の人です、校長先生の伝言役ですよね?」
そこで俺はあえて確認するように聞く。
すると校長はため息を一つ付いた。
「はあ・・・いいえ、私はそんな伝言を頼んではいません」
「え!?」
「じゃ、誰!? あれ!?」
薄々そうじゃないかと思ってはいたが、いざ校長の口からそう聞くと俺達は大きく驚く。
「誰かまでは分かりません・・・が、私にモニカさんへの伝言があることを知っている者でしょうね」
「え? 伝言はあるの!?」
内容までデタラメかと思ったが、そうではないらしい。
「今週末にガブリエラさんと会う機会があるのでしょ? 今回は私も立ち会うことになったのでその時に伝えるつもりでした」
「あ、校長先生も一緒なんだ・・・」
モニカが安心と羞恥の入り混じった複雑な感情の篭った声を出す。
どうやら”2人っきり”での特訓を考えていたようだ。
「でもそんな事、知っている人がいるんですか?」
大丈夫なのか!? 主にセキュリティ的に。
俺達が視線にそんな思惑を込めて見つめる。
「これは・・・アクリラの結界の”弱点”を突かれた形になりますね」
「弱点?」
「魔力系の保護の特徴として、悪意も害意も持ち合わせていない・・・いわば”本当の味方”に関しては、どうしても守りが緩くなってしまうんですよ・・・」
校長がそう言って珍しく無力感を漂わせる。
「だけど”本当の味方”なら大丈夫なんじゃないですか?」
疑問に思った俺がそう問う。
「そうだと良いんですけどね・・・」
だが校長の反応は苦いまま。
どういうことだろうか?
そもそも”あれ”が俺達の味方ということなのか?
俺達の中であの”謎の人物”の謎がさらに深まる。
というか、つい流してましたが、
「校長先生もガブリエラとの話は把握してるんですね」
「当然です。 最終的に組んだのは私ですから」
「「え!?」」
突然のその告白に俺達が呆気にとられる。
だが校長はまったく悪びれた様子はない。
「彼女の立場とモニカさんの現状、それぞれを慎重に調査した結果、問題ないと判断しました。
なので当然安全確保や根回しもこちらで行っています、ただルシエラの”呪い”は予想外でしたが」
そんなことしてるなら言ってくれてもいいのに・・・
だがなるほど、これでガブリエラが”幽霊生徒”の貴族院の制服を用意できた理由が分かった。
システム内部の人間が関与しているのだ、用意できて当たり前と言える。
「言いたいことはありますが、取り敢えずその時まで待とうと思ってたってことは、そんなに緊急性は無いってことですか?」
「重要性はかなり高いのですが、緊急性はそれほど高くありません。 まだ不確定情報も多いので、もう少し事実確認を進めるつもりでした」
「じゅうようせい・・・ってことは大事な話ってことですよね?」
モニカが若干緊張気味に問いかける。
かなり重要な情報と聞いて気負っているようだ。
「そうなりますね。 まず、あなた達がどの様にマグヌスから特定されているのかについての情報が確定しました」
「どうやって特定しているか?」
「ええ、そうです。 まず、あなた達の王位スキルは微弱な魔力波を周囲に放っています」
校長が言ったのはそんな情報。
それは以前から分かっていたことではあるが、改めて確定情報として言われると、妙な新鮮味があった。
「少なくともマグヌス内の623箇所、アルバレス471箇所、トルバ186箇所、その他84箇所で、王位スキルを示す魔力反応を検知しているのが確認できています」
全部合わせて1364箇所!
「そ・・・そんなに!?」
予想外に大量の検知箇所にモニカが慄いた。
「いえ、これはこちらで確認が取れた数なので、実際はこれよりかなり多いでしょう」
「ええ!?」
「この結果からして、各国とも確定情報として”王位スキル”もしくは、それに匹敵する魔力的存在が存在することを認識しているようですね」
「そこまで行ってるんですか・・・・」
そりゃ隠すのに躍起になるはずだ・・・
どうやら俺達の存在は、思ったよりも大事だったらしい。
「ただしこれは、あなた達がアクリラに
「入る前?」
「ええ・・・そうです」
校長はそう言うと姿勢を正して改まった雰囲気を作る。
そこから俺達は、現在は状況が大きく異なることを悟った。
「先程行った観測地点ですが・・・その全てが、あなた達がアクリラに入ったのと時期をほぼ同じくして、その反応を検知しなくなったそうなのです」
「検知しなくなった?」
「どういうこと?」
校長の伝えた内容に俺たちの心の中に”?”が並ぶ。
「分かりません。 そしてそれは我々だけでなく各国がその様な状況にあり、情報が錯綜しているというのが現状ですね」
校長はそう言うと、どうしようかと言わんばかりに肩を落とした。
「ただ、あなた達の生存の確定情報を持っている我々とマグヌス以外の各国では、原因となる”現象”が収まったか排除されたと見る動きが強いようです」
「つまり・・・何かの突発的な”自然現象”だと思っているということですか?」
「そうですね。 でもまあ、もし我々がモニカさんのことを知らずにデータだけ渡されれば、おそらく同じ結論に到達すると思います」
「はあ・・・」
なんというか・・・つくづく俺達って”自然災害”扱いが多い気がしてしまう。
「ですがそのおかげで、各国間の緊張状態はほぼ解消したと言っていいでしょう、まだいくつか調査が動いているようですが、それはあくまで学術調査の意味合いが強いようです」
「マグヌスは?」
「それに便乗して事態を収めようと、各国と同じ様な反応を意図的に内部に作り出しているようですね」
それはまた、ちゃっかりした連中だこと・・・
まあ、国なんてそんなもんか。
「でも、なんで急に検知できなくなったの?」
「もちろん完全に検知できなくなったわけではありません。 この前のルーベンさんとの”喧嘩”の時を含め、およそ10回ほど発動が検知できているとの情報もあります」
「10回?」
あれ、そんなに全力で動いたことって有ったっけ?
「多くないですか?」
「それも含め関係者の間でも、もはやこの観測方法があなた達の観測に適していない方法である、という認識が深まっています。
検知できなくなった理由に関しては不明ですが、時期的に見てアクリラという特殊な街に入ったからという見方もできなくはないですかね」
「校長先生はそう考えてないんですか?」
俺は、校長の奥歯に物が挟まったような言い方が気になった。
「研究者という立場から言わせてもらえば、あなた達のアクリラ入りと時期は近くとも完全に同期はしていません。ですので現段階で検知不能の原因をアクリラの街に求めるのは暴論と言わざるを得ません。
ですが政治的に見れば、マグヌスにアクリラにいる限りは情報は秘匿されるという印象を与える事ができるでしょう」
そう言いながら校長の顔が悪そうにニヤリと笑う。
あ、これはなにか悪巧みをしている顔だ・・・・
不確定情報や”ほぼ誤認”であっても利用できるなら、利用してしまえといった思考がありありと見えるようだった。
だが、俺もこの度胸と腹黒さを少しは見習いたいものである。
しかし、それにしてもずっと反応が検知できたり、かと思えば急にできなくなったり、俺達って一体何なんだろうか?
校長の話を聞いて何かを知るどころか、俺の中のその謎が一層深まってしまった。
※※※※※※※※※※※※※
その後・・・
モニカとロンが去った後の校長室で、校長は静かに手元の資料を眺めていた。
その様子は特に何かをするわけではない。
ただ漠然と・・・まるで誰かを待っているかのような雰囲気さえ漂っている。
そして、ちょうどモニカとロンが中央講堂の建物を出た時だった。
まるでその瞬間を見ていたかのように、校長の目が資料からまっすぐ目の前の空間に向けられる。
「そろそろ、出てきてはいかがですか?」
校長は静かにそう言った。
だが部屋の中には他に誰の気配も存在しない。
それでも校長の言葉と目線は、ハッキリと誰かに向けられたかのように指向性を持ったものだった。
するとそれから少しして、その視線の先に有った部屋の壁際の影が、ゆっくりと形を変え始め、それが次第に人の形に収束してく・・・
「やはり、バレてましたか」
影の中から現れたその人物がそう呟く。
「バレていたもないでしょう、あんな物をよこして・・・モニカさんの影に潜んでいたんですか?」
校長のその声は若干の呆れが混じっていた。
「ええ、おかげで久々に”主人”の元気な姿が見れて面白かったです。
ですがあなたのその反応は少々つまらないですね、てっきりもう少し驚いてくれるかと・・・」
それに対し、影から現れた人物はそんな軽口を叩く。
「もちろん、以前・・・カシウスの全盛期に初めて”あなた”を見た時は腰を抜かしましたとも。
ですがそれは昔の話、かなり前とはいえ以前に見たものに驚くことはありません」
「なるほど、昔の”わたし”をご存知なのですか」
それを聞いた影の人物は、少しバツの悪そうな顔をした。
「”隠者”、”間者”、”工作員”・・・実態を持たない、”影の人形達”、お名前は”ローマン”でよろしかったでしょうか?」
すると校長はなんでもないように、影の人物の正体を暴露する。
だが影の人物はそれに答える事はなく、ただ軽薄な笑みを浮かべたまま。
その様子に校長の顔が若干不機嫌になる。
「それで・・・何のためにこんな真似を?」
「いえ、特に理由は。 強いて言うなら公に面会を申請できない立場であることが理由ですかね。
”我々”の主人がお世話になっているので、ご挨拶を兼ねて近況の報告でもと」
「でしたら場所を指定すべきでしたね、モニカさんに渡した内容では、今回の様に本人ではなく”幻影虚像”を当てられますよ?」
校長がそう言ってニコリと笑う。
非常に巧妙に隠されてはいるが、よく見ればその姿は”重み”を持っていない。
それはどの校長室でもいつでも応対が可能なように作られた、魔力による”偽物”の校長の姿なのだ。
だがそれを告げられても影の人物の表情は明るいまま。
「ええ、それも織り込み済みです。 というか”本人”なら会ってくれないでしょう? 私も会いたくないですし」
と、そんな事を言ってのける。
その様子から、校長は何を言っても無駄だと諦めて話を進めることにした。
「それで、近況報告でしたね、最近はどの様にお過ごしで?」
「おかげさまで大変上手く行っております、失った仲間たちも集まり始め”我が家”はかつてないほどの盛況で、毎日大変ですね」
そう語る影の人物の様子はとても楽しそうなものだった。
「これまで隠れていらしたのに、随分と積極的に動くのですね」
それに対し校長は皮肉で返す。
「もちろん
ただ、もう数年しか猶予はないとも言えるので、今からできる事はしておかないと」
「その様子だと、
「その節はお世話になりました」
影の人物がそう言って、頭を下げる。
だが校長の表情は芳しくない。
「こちらが、協力したつもりはありませんよ?」
「いえ、”王女様”が暴れてくれたおかげでどれだけ動きやすかったか」
「あれは彼女が勝手にしたことです。
それにいいんですか? あなたの”お仲間”を壊したことになりますが」
「それは必要な犠牲です、気にはしていません」
影の人物はそう言うと、手を軽く振って何でもないことをアピールする。
だがそれに対し校長の表情は険しくなる。
「気にしているのはこちらです、ガブリエラをダシに使うのはやめていただきたい」
「ダシに使うなんてとんでもない、逆立ちしても勝てませんよ」
”今はね”
校長は影の人物の言葉の後ろに、はっきりとそう聞こえたような錯覚を起こした。
「ガブリエラはその出生から、旧アイギスよりの立場と見られることが多い。
あなた方が動けば動くほど、彼女の立場は微妙になることを理解してください」
「その辺は・・・・申し訳ないとしか言えませんね」
と思ってもない謝罪を述べ、その様子に校長はそれ以上の追及を諦める。
するとそれを見た影の人物が話を変えた。
「そうだ、隣町の”あれ”はどうします? こちらで”処理”しましょうか?」
その言葉に校長は片方の眉を釣り上げる。
「可能なのですか?」
「王女様のおかげで今の”あれ”は無敵ではありません、その辺はそちらの方がお詳しいでしょう?」
校長はそこで報告にあった、ヴェレスの街の
あれが暴れるようならばいつでも排除に動く必要はあるが、現在は大人しくしている上、少々興味深い報告が上がっている。
「いいえ、その処理の必要はありません。 仮に必要ならばこちらで対処します」
「分かりました」
影の人物がそう言ってすぐに納得する。
だがその様子からして、相手もこの件に関してある程度の情報を持っていることが伺えた。
「ところで”主人”の様子はどうですか?」
「様子?」
校長はその問いに対して、不思議そうな声を出す。
「アクリラでの生活や成長において、なにか変わったところはないかと」
「その辺りも様子見の段階です。 今は本当に普通の生活を送れるか、それすら確証がない」
校長は顎に手を当てながらそう答える。
だが、それに対し影の人物が少々驚きの問を発する。
「いえ、てっきりもっと”実験動物”のように色々するのかと思っていたので、案外普通に接していて驚いたというか・・・」
色々とは一体、どういったことを指すのか。
その意味は予想がつくが、校長はふと、それを承知で彼女を送り込んだのかを聞いてみたくなった。
「それがお望みですか?」
「私が望めば可能ですか?」
「保護者の希望として参考にはします」
校長がそう答えると影の人物が大きく驚いた表情を作る。
「我々を彼女の”保護者”と認めると?」
「立場を考えるなら保護責任者とするのが一番近いですね。
ですが”人”としてそれにふさわしいか、我々がそう認めてどう対応するかは別問題です」
校長がそう言うと影の人物は頭を振り、
「これは手厳しい」
そう言っておどけた。
だがそれを無視して校長は説明を続ける。
「モニカさんに今必要なのは”環境”です。 人と一緒に暮らし、学び、喜び、悲しみ、憤り、ぶつかり、賞罰を受け己の存在を得る。 それが我々の考える今のモニカさんの”カリキュラム”になります」
それは校長だけでなくアクリラの長い歴史が出した答えだ。
「ええ、それで構いません。 それが得られるから彼女がここに来るように手を回した」
「おや? ”お人形さん”はもっと”直接的”な手段を望むのかと思ってました」
校長は若干皮肉を込めてそう聞き返す。
だが、返ってきたのは不思議な言葉だった。
「
「?」
影の人物が語ったその言葉を校長は理解する事はできなかった。
どこの言葉だろうか?
「我々を誤解しないでいただきたい。 そんな単純な手段が適切でないことくらい、0と1しか認識できない機械でも理解しています。
なので今後とも。あなた達には適切な教育を続けてていただけることを望んでいますよ」
影の人物はそう言うと頭を下げ、くるりと向きを変えてゆっくりと影の中に潜り込んでいった。
もう話す用事は無いということだろう。
だが、校長にはどうしても確認しなければならないことが1つ残されていた。
「あなた方が求めているのはモニカさんですか? それとも
校長が険しい顔でそう問いかける。
その表情と声色に混じる強烈な覇気は、それまでの老婆の物ではなかった。
だが影の人物はそれを何でもないように流すと、振り返りながらニコリと笑う。
「それは聞かないのが、お互いのためですよ」
そしてその言葉と同時に、影の人物は闇の中へと完全に消えてしまった。
あとには何も残っていない。
そこに誰かがいた痕跡すら残っていなかった。
校長は
彼女の中では様々な葛藤が渦巻いていた。
だがしばらくその状態を続けた後、徐に姿勢を正すと。
フッと、まるで霧が晴れるようにその姿が消える。
そして後には、”本当の密室”だけが残された。
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