1-13【お受験戦争 10:~明日への疾走 前編~】




 モニカが少し青い顔の白服の魔法士をマジマジと見つめ、それから少し先でどう見ても機械のくせに明らかに激怒に染まる勇者ブレイブゴーレムを見つめる。


 ちなみに俺の見立てでは白服の魔法士の方もゴーレムかそれに準じる存在なので、機械と機械が感情を見せながら睨み合うという奇妙な状況が展開されていた。


 するとゴーレム無線の中にアルファに従わない勇者ブレイブゴーレムに対してのものと思われる、強力な通信が飛んできた。

 

《アルファより最重要命令!! 直ちに戦闘状態を解除し撤収作業に移れ!!!》

「〈断る!! 貴様はもうアルファではない! 我はガンマエクシールの命令を持っている!!〉」


 驚くことに勇者ブレイブゴーレムはその命令を”拒否”した。

 

《アルファより全隊へ命令! B1を止めろ!!》


 すると即座に、アルファが他のゴーレム達に行動を指示し、それを受けたゴーレム達が一斉に勇者ブレイブゴーレムへと向き直った。

 だが、それに対して即座に別の方向から指示が掛かる


《ガンマより全隊へ、”コード166”、アルファの命令は全て無視しろ》


 拙い日本語ではあったが、その無線が流れた瞬間再びゴーレム達の様子が変わった。

 一部のゴーレム達がその場で震えだし、それ以外のゴーレムも首があちらこちらに動いて落ち着きがない。

 

 そして無線の方はもっと深刻だ、もはや人語を喋っている方が少なく、謎のノイズのような音がいくつも流れ、そしてわずかに残ったまともなチャンネルは、アルファへと司令を求める声と、ガンマ外にいる魔法士へと司令を求める声に二分されている。


 ゴーレム達の中で指揮系統が分かれているのか?


《どういうこと? ゴーレム達が私のいうことを聞かなくなったわ!?》


 するとアルファが何事かを問いただす無線が流れ、白服の魔法士がそれに対して答えた。


「コード166・・・アルファリセットコマンドですね・・・幸いエクシールさんの言葉が拙いせいで、正しく受け取れた個体は限定的ですが、これで事実上あなたは命令権を失いました・・・」


 ええっと、頭がこんがらがりそうなので状況を整理すると、この一見すると、いけ好かない白服の地味な魔法士服を着た謎の男は、俺達をアクリラまで連れていきたいらしい。

 信用はできないが俺達は生きたいのであれば自動的にこちら側の味方になる。

 そして総司令たる”アルファ”はこちらを応援していると。


 反対に頭から湯気が出るほどお怒りの勇者ブレイブゴーレムは、何でか知らないけれど俺達を殺したい、いや元の任務を遂行したいのか?

 そしてこちらには街の外に控えるもう一人の”エリート”である”ガンマ”が指示を出していた。

  

 周りのゴーレム達はどっち付かずが殆どで、両方に一部が従っているものの、混乱しすぎて機能していない。


 ただ両者の目的は俺達の命・・・つまり周りの状況が変わっただけで、お互いの勝利条件は全く変わっていなかった。

 と、なればアクリラにたどり着くだけで俺たちの勝利という状況は変わらない。


 なーんだ。


 問題は、モニカの足は先程の攻撃のダメージでまともに使えないこと。

 傷口は塞いだものの、骨も腱も筋肉も、おそらく神経の一部も繋がっていない。

 そんな状態で地に足をつければ激痛で立てないし、物理的に機能しないだろう。


 つまり何かに運ばれなければ、こちらの”勝利条件”は達成されない・・・・


 次の瞬間、視界が一瞬真っ白に染まり、直後に大音量の破裂音が周囲に木霊した。


 何事だ!?


 見ればいつの間にか、勇者ブレイブゴーレムが眼前に迫り、振り下ろされた細剣がすぐ上で真っ赤な5段重ねの魔法陣を4段目まで切断して止まっていた。


 どうやら今の一瞬で勇者ブレイブゴーレムが俺達を狙って攻撃し、それを白服の魔法士が魔法で防いだらしい・・・・って!?


「え!?」

『うわっ!?』


 突然、体がふわっと浮いたかと思うと、次の瞬間には天地が逆転し、視界に一瞬だけ遠ざかる白服の魔法士が勇者ブレイブゴーレムの拳を右手で防いでる光景が見え、俺達が咄嗟に放り投げられたことを理解した。


 そして空中を少し浮遊した後、何か柔らかい巨大な物体に衝突した。

 

「うわ!?」


 その巨大な物体から驚いたような声が聞こえる。

 見ればそれは、俺達の足を切り落としかけた筋肉ダルマの剣士だった。

 

「ウェイドさん! グレイさん! ”それ”持って、南に逃げてください!!!」


「「「『ええ!!?』」」」


 俺とモニカと筋肉剣士と痩せた魔法士が一斉に驚愕の声を発した。

 あ、こいつらの名前ウェイドとグレイっていうのか、どっちがどっちだかは分からないが別にわからなくても困らない、というか俺達は物扱いかよ!?


 なんてことを考えている間に、もの凄い勢いで白服の魔法士が勇者ブレイブゴーレムの猛攻に押されて膝をつく。


「はやく!!!」


 次の瞬間、ウェイドとグレイは一瞬だけお互いの顔を見渡すと、即座に行動に移った。

 まず筋肉剣士が俺達の体を小脇に抱え・・・・・て壁に向かって走り出し、次に痩せた魔法士の背中を引っ掴むと、その魔法士が即座に何かの魔法を展開する。


 その魔法のアシストだろうか? まるで重さがなくなったかのように体が軽くなると、そのまま剣士がジャンプして一気に壁の上部を飛び越えた。


 そして壁を越えて街の内部が見えなくなるその刹那、最後に俺が短くなった方のフロウを”転送”で手元に引き寄せる。

 短い方だけでもあるのとないのでは大違いだ。

 一応長い方にも試してみたが、残念ながら発動することはできなかった。


 そして俺達は謎の筋肉の剣士の脇に物のように挟まれながら、街の外の荒野最後の関門へと駆け出したのだった。







 街の壁のすぐ内側で、2人の”人外”が暴威を振るいながら戦闘を行っていた。


 片方は地味な白い魔法士服に身を纏ったローマンという男。

 もう片方は全身に鎧を纏った勇者ブレイブゴーレム。


 周囲の通常型の騎士型ナイトゴーレムではもはや立ち入ることが出来ない状況だ。


 そもそも彼等は群として初めて力を発揮し、このようなシステム事態が混乱した状態では只のゴーレム兵とさほど違いはない。


 だがその戦いは次第に一方的になっていく。


 ローマンは状況に応じて多種多様な魔法を展開し翻弄するも、勇者ブレイブゴーレムの強力な鎧の前では何も出来ていない。

 一方、勇者ブレイブゴーレムの細剣はローマンの防御魔法をたやすく切り裂いていく。


 戦闘の技術にしても段違いなほど差があり、あっという間にローマンの全ての防御手段が突破され、気がつけばローマンの胸に細剣が突き刺さっていた。


「〈・・・・?〉」


 勇者ブレイブゴーレムが怪訝な声を漏らす。

 胸を貫いたというのに手応えがまったく無かったのである。


 そして次の瞬間、ローマンの体が服を残して真っ黒な闇に消え去った。


「〈なるほど・・・〉」


 勇者ブレイブゴーレムがその光景を見て納得したような声を発する。


「〈貴様・・・”隠密スパイゴーレム”か・・・・〉」


 そしてその”行動”から即座にローマンの”正体”を看破する。

 だが次の瞬間、仕返しとばかりに今度は勇者ブレイブゴーレムの胸から真っ黒な腕が生えた。


「 だ か ら  その言葉はわからないんですって」


 そしてそれを成した、細身の金属の体に真っ黒な影を身に纏った本来の姿のローマンが勇者ブレイブゴーレムの耳元でそう呟く。

 

 勇者ブレイブゴーレムの胸を貫いたローマンの金属の腕は勇者ブレイブゴーレムのフレームやクーディの物と同型で、彼の顔もカシウスのゴーレムの標準的な物を使っていた。

 だが次の瞬間、黒い影がその機械の体に覆いかぶさり、人間の男の姿へと変貌する。


 それは先程までの”ボルド”の姿ではなく、彼個人が”己の姿”と認識していたパトリシオの小間使いとしての姿だった。

 

「〈それが今の貴様の姿か・・・・〉」


 ローマンのその姿を見た勇者ブレイブゴーレムが吐き捨てるようにそう言う。

 そしてまるでダメージを受けていないかのごとく、右腕に持った細剣でローマンの上半身を薙ぎ払い、それを受けたローマンが上半身を”闇”に消して避けた。


 これが隠密スパイゴーレムの特殊能力”影潜り”。


 時空魔法を組み込んだ特殊回路によりローマンは短時間の間、より高度な次元にその姿を隠すことが出来る。

 ローマンはカシウスが健在だったころからこの能力を使い、カシウスの”裏”を支え続けた。

 そして今の一瞬の攻防で再びローマンは勇者ブレイブゴーレムから距離を取る事に成功する。


「はあ・・・やっぱりですか・・・」


 勇者ブレイブゴーレムを見ながら、ローマンが疲れたようにそう言う。

 驚いたことに、貫かれていたはずの勇者ブレイブゴーレムの胸部装甲は、全くの無傷だったのだ。


「〈私のことを知っているならば、こんなものが無駄であること知っているだろ〉」


 勇者ブレイブゴーレムが呆れたようにその事実を伝える。


 これは、モデルとなった勇者が保持していた、勇者の権能の1つである”超速再生”。

 それを魔力機械的に再現したものだ。

 人智を超えた”世界からの保護”の一種であるその能力は、何であろうと”概念的”に修復してしまう。


「さすが”勇者”の名は伊達ではないですね・・・」


 ローマンはそう言いながらも、心の中では毒づいていた。

 さすが我が偉大なるカシウスをして”二度と作れない”と言わしめただけの事はある。

 

 問題はそれがこれほどまでに意味不明な性格になっていた事だ。


「なんで、そこまで”任務”にこだわるんですか!?」


 次の瞬間。まるでその問いに答えるかのように勇者ブレイブゴーレムの細剣がローマンの首をとらえ、そのまま”影”の中をすり抜ける。


「〈忌々しい影め! カシウスに裏切られた我らの心も知らずに!〉」


 ローマンはその言葉に眉をひそめる。

 意味はわからないものの、明らかに”カシウス”と憎しみを込めて発音していた。


「人格形成プログラムが悪影響を受けましたか・・・そんなにカシウスが憎いですか?」

「〈憎くて何が悪い!!〉」


 今のは明らかにローマンの言葉に反応した。

 やはりこちらの言葉を知らない訳ではなさそうだ。

 

 そもそも”兵隊”である他のゴーレムと違い、ローマンや勇者ブレイブゴーレムなどの”特殊”なゴーレムは”こちら”の言葉で動くようにできている。


 それでも尚”日本語”を使うというのは、このゴーレムの”こだわり”でしかない。

 つまり彼は自分の意志で”勇者”であるよりも”兵士”であることを選んでいるのだ。


 もちろん日本語を理解できないローマンにその彼の言葉を理解することはできないが、”カシウス”という固有名詞とこの状況、そしてこの勇者ブレイブゴーレムの異常とも思える”日本語”へのこだわりから、おおよそ何が起こったのかを察する。


 察するにこの”ポンコツ”は”カシウスの裏切り”を自分達への裏切りと捉えている。

 

 ただ、影に逃げ込めた我らと違い、彼の様な”兵士”は”裏切り者のゴーレム”の誹りから逃れることができなかった。

 それが作られて間もない彼の”幼い”人格に与えた影響を考えれば仕方がないのかもしれない。


「だからって・・・あの子はカシウスの”後継者”ですよ!?」


 ローマンが”仲間”として最後の懇願を行う。

 それはローマンが戦う理由であり、立ち塞がる理由だ。

 そしてカシウスのゴーレム達であれば共有できると信じている”理由”でもある。


 だがそれは即座に切って捨てられた。


「〈だからこそ、その芽を摘むことで、我らの汚名も晴らす事ができる! 我らの”アルファ”は我らが選ぶ!〉」


 ローマンは言葉こそ理解できなかったが、その姿勢からこの者の心理を初めて理解した。


「・・・なんだ・・・私と一緒ですか・・・」


 結局、機械人形の悲哀か・・・


 この者は社会に”アルファ”を求め、その踏み絵としてあの子を仕留めたという実績が欲しいのだ。

 そしてその心理はあの子に”将来のアルファ”を求めるローマンと何が違うというのか。


 結局は拠り所アルファを求めてさまよう人形が、生贄としてあの子を欲しているだけに過ぎない。


 そして、だからこそ負ける訳にはいかなかった。


「たとえあの子の命を差し出しても、社会はあなたを認めませんよ」

「〈欲しいのは認められることではない、”命令”だ!!〉」


 そしてこれが答えとばかりに勇者ブレイブゴーレムが弾丸のように間を詰め、ローマンの立っていた地面ごと粉々に打ち砕く。

 だが影に逃げ込めるローマンにその攻撃は当たらない。


 お互いにお互いを攻撃できない状態。


 それは一見するだけなら、膠着した戦闘といえたが、その実態は大きく異なっていた。


 勇者ブレイブゴーレムが無尽蔵に回復できるのに対して、実はローマンは無限に影に潜れる訳ではなく、戦闘能力も限定的であり、既に動きは見切られ始めていた。


「ぬっ!?」


 そして遂に、勇者ブレイブゴーレムの細剣がローマンの動きを完全に捉え、影化の解除に合わせて猛スピードで刃が迫る。


 あ、これは避けられない。


 ローマンは心の中で確信した。


 だがその確信は裏切られる。



 勇者ブレイブゴーレムの刃がローマンを捉えるその刹那。


 真っ青な光の濁流がローマンの目の前を通過し、勇者ブレイブゴーレムを押し流した。

 ローマンは呆然とその光景を見送り、慌てて首をそれの源流へと向ける。


 そこには血と泥で汚れボロボロになったタンクトップ姿の青髪の少女が、神すら射殺せそうな目をして立っていた。


「・・・とりあえず個人的な感情のある方に攻撃したけど、あなたはどっちの味方?」


 その少女が見た目に似合わぬ野獣のような恐ろしい声で聞いてくる。


「ルシエラさんですよね? 一応味方ですよ」


 だが口だけでは信じられないのかその目は更に険しくなる。


「・・・モニカは?」

「南に向かっています」


 私の手違いで足が使えなくなってるとは言わない。


 するとルシエラがにやりと笑い、勇者ブレイブゴーレムへ向き直り、目が眩むほどの大量の魔法陣を展開した。

 どうやら短期的にではあるが、手を組んでもらえそうだ・・・


 一方光の濁流が全てを洗い流した先では、勇者ブレイブゴーレムが瓦礫の中から当たり前のように無傷で立ち上がる。


 そしてそのまま足元の瓦礫を吹き飛ばして飛び出すのと、ルシエラが全ての魔法陣から砲火を放つのは同時だった。




※※※※※※※※※※※※※※※




 荒野の中で蹲る、少女1人とおっさん2人にスキル1匹。


 威勢良く街の壁を飛び出してはみたものの、走っていられたのは数分が限界で、その間は木に隠れたり、茂みに隠れたり、現在のように農場の水路に水路に身を伏せていたりする。


「行ったか?」

『行ったな』

「行ったって」

「じゃあ、行くぞ!」


 モニカが俺たちの索敵の結果を筋肉の剣士に伝え、それを聞いた筋肉剣士が俺達を抱えながら立ち上がり再び駆け出す。

 さっきからこの繰り返しだ。


『ストップ!』

「止まって!」


 モニカの言葉で筋肉剣士がすぐ近くの溝の中に入り、伏せる。


 長距離の気配察知はモニカのほうが圧倒的に分があるが、最近は近距離の正確な位置把握であれば俺のほうが勝っている。

 その俺がモニカより先に警告を発しているということは、まあそういうことだ。


 辺りには大量の巨人ジャイアントゴーレムが彷徨いていて、すぐに地響きが伝わり目の前に巨大なゴーレムが現れる。


 巨人・・・つまりでかい人形のゴーレム・・・さらにいうならば俺達にとってはものすごく馴染みのある姿の連中だ。

 その姿は俺の知るコルディアーノそのもの。

 

 だが、すぐ近くの茂みの中から見上げた時にモニカが言った言葉は意外なものだった。


「・・・コルディアーノとは違うね」

『本当に?』


 その時に驚いた俺が思わず聞き返してしまう。


「・・・うん、よかった・・・・」


 その言葉に込められた意味を全て察することは出来ないが、改めて見比べてみれば色々違いは見えてくる。

 

 身長13mの巨躯は同じ、わずかに黒光りする銀色の質感も同じ。

 ただし装備が違う。


 コルディアーノがその身一つで戦う格闘スタイルだったのに対して、こいつらは長さが10m近くある巨大な剣と、5m程から身の丈に迫るほど巨大な物まで様々な盾を装備している重武装型だ。

 なので戦闘スタイルの違いからかコルディアーノの方が腕周りが気持ち少し太い。


 あと一見して分かる違いとして、凄まじく機敏だったコルディアーノと違い、こいつらは少々動きが鈍い。

 そのせいか受ける印象はコルディアーノとかなり違うものだった。


 やはりあいつは特別性か・・・・

 嬉しい半面、こいつらのパーツですら互換性問題が起きそうで少し憂鬱になってきた。

 

 まあそれは、これを生き残った後の話だ。


 相手の無線システムが機能不全に陥ったことの代償として、そこからまともな情報が引き出せない。

 しかも俺達のいる街の外の南側は、”ガンマ”の無線の回線品質が良かったせいか、ほぼ敵だらけのようで、幾つかの場所でゴーレム達の簡易的な衝突が起こっていたものの基本的に敵側のゴーレムが押している。


 しかし、奇妙だ。


 つい数分前まで、ゴーレムは全て敵だったのに、敵でない個体混じってる可能性があるとは・・・

 さらにいうならこの状況はもっと奇妙だ。


 気配が去ったことを確認してモニカが筋肉剣士の背中から首を伸ばして辺りを観察する。


 すると少し遅れて、筋肉剣士と痩せた魔法士が同じように首を出した。

 その様子を外から見ると完全に”3人組”だろう。


 モニカなんかつい先程、足を使用不能にされた間柄だというのにすんごい馴染んでる。

 

「行けるよグレイ・・・・


 モニカが自分を担ぐ筋肉剣士に声をかける。

 だが声をかけられた方の筋肉剣士は、少々不満そうな顔を作った。


「俺はウェイドの方だ・・・」

「あ・・・ごめん」


 モニカがごく自然に謝った。


 なるほどこっちがウェイドか・・・ってことは痩せた魔法士がグレイだな。

 たしかに顔が灰色っぽい感じだ。


「それじゃ、ウェイド」

「はいよ・・・仰せのままに・・・」


 ウェイドが少し面倒な感じにそう答え立ち上がる。

 脳筋のいいところ。


 意外と優しい。


 だがその時だった。


 俺の”無線受信機”に緊急の通信が入る。


《P44981より全隊に! ”目標”をCの52.6地点で視認!!》

『モニカ!! 上だ!!!』


 モニカが俺のその叫びに反応し頭を上に向ける。

 そこにいたのは上空を鷹のように旋回する、鳥の姿・・・いや


『鳥ゴーレムだ!! 撃ち落とせ!!』


 考えれば当たり前の話だ、”偵察兵”はどこにでもいて、その中に機能しているやつが残っていても不思議じゃなかった。

 モニカが即座に手に持っていたフロウを上に向け、”砲撃”を発射する。


「うお!!?? なにしやがっ!?」


 その発射音に驚いたウェイドが悪態をつき、その悪態が続けざまの砲撃で掻き消された。

 悪いが俺達の興味はあの鳥ゴーレムだ。


 幸い今の2発が綺麗にヒットして、空中で花火のように爆炎が上がる。


 今ので目は潰せたが・・・・


 俺達4人が周囲に意識を配る・・・・・・


 その直後無線網が一斉に活発化し、俺達の周囲のゴーレム達が動きまわる振動が伝わってきた。


「ダメだ!!!」

「走るぞ!!!」


 ウェイドが再びグレイの体を抱え上げると、一気に南に向かって走り出した。

 どうやらグレイは自分で走るより、ウェイドに補助魔法を掛けながら抱えられる方が速く移動できるらしい。


 そのまま小柄な2人を抱えた筋肉ダルマの剣士は、顔を真っ赤にしながら力いっぱい郊外の街道沿いの畑の中を疾走する。


 だが周囲には既に巨人ジャイアントゴーレムの巨体がこちらに向かって猛スピードで走る姿が映り込み、最悪なことにすぐ後ろの個体の方が足が速い。

 このままではすぐに追いつかれて蟻のように踏み潰されるのがオチだ。


 こうなれば短いフロウ一本でも出来る限りのことはしなければならない。


「ごめん! うるさくなるよ!」

「え!? なんて!?」


 モニカがすぐ下のウェイドに注意を促し、判然としない返答を無視して”砲撃”を行いその衝撃がモニカを通してウェイドにかかる。


 そして次の瞬間、一番近くにいた後ろのゴーレムの頭に爆発が発生し、そのまま何かにつまずいたかのようによろけた。


 だが流石にあの分厚い装甲にはキズ一つ入ってない。

 この短い砲身ではこれが限界か。


 それでも無いよりはマシとばかりにモニカが周囲のゴーレム達に向かって砲撃を連射する。


「いいぞ! そのまま撃ちまくれモニカちゃん!!」


 俺たちを抱えて走るウェイドが大声で応援してくる、こういうのが筋肉人間のいいところで心に余裕が生まれる。


 だが、


「『危ない!!』」

「うわっ!?」


 恐ろしいことにゴーレムが投げた巨大な剣がすぐ目の前を通過した。

 一瞬でも警告が遅れていたら直撃だったぞ!?


 どうやらゴーレム達は手持ちの武器を投げて攻撃する方針に切り替えたらしい。

 大きさが大きさなだけに、直撃すれば良くてミンチだ。


 そしてそれを俺達が必死に避けている間に、ゴーレム達の一部が俺達に追いつき、先程投げた剣を拾って振り下ろしてきた。


 ええい、こうなりゃヤケだ!!

 俺がモニカに”作戦”を伝える。


「ウェイド! 剣で受けて!」

「うおおおおお!!!」


 ウェイドが腰の1番大きな剣を引き抜いて上に掲げる。

 脳筋のいいところ、その2。


 咄嗟に指示に従ってくれる。


 そして俺がフロウを変形させてその剣に纏わし、次の瞬間ゴーレムの大剣がそこに直撃した。


 だがわずかに衝撃がかかったものの、それ以上はない。

 むしろ叩きつけたゴーレムの剣の方がポッキリと折れてしまった。


これは俺がフロウでガチガチに強化して切れ味を限界まで上げたウェイドの剣が、ゴーレムの大剣を真っ二つに切り裂いたのだ。


「おりゃあああああ!!!!!」


 続けてウェイドがそのままの勢いでそのゴーレムの足を切り裂く。

 脳筋のいいところ、その3


 本能に従うので、攻撃が通りそうならそのまま攻撃してくれる。

 さらに横からグレイが阿吽の呼吸で補助魔法を展開しその動きを的確に補助してくれるので巨大なゴーレムの装甲でもバターのように切り裂くことが出来た。


 そのまま俺達は、まるで嵐のようにゴーレム達を切り刻みながら前へ前へと進んでいく。


 そして俺達の中に”このままたどり着けるのではないか?”という希望が満ちてきた。




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