1-13【お受験戦争 3:~広場の戦い~】


 現状確認


 敵 : 大量

 種類 : 一種類、ただし武装は結構バラバラ、見た感じ剣と槍が多いか?


 構造は身長2mと少しのメタリックな銀色の体に、全身を覆う重たそうなフルプレートの鎧を着込んでいる。

 そしてまるでそれが制服といわんばかりに同じ形のマントを羽織っていた。


 だが頭部は装甲は追加されているが、俺達も知っているクーディと同じ顔だ。

 いや、見た感じだと、むしろこいつらの頭部をクーディに移植した感じか・・・


 こんなところは天下のカシウスも共通規格化を図っているのだろう。


 モニカも見た瞬間は驚きで一瞬固まったが、あまりにも雰囲気が違うので即座に切り替え、戦闘の構えを取った。

 戦力としてはぶつかってみるまで1体当たりの強さはわからないし、分かっても全体の戦力を推定する材料にはにならないだろう。

 

 それに国中にその名が轟く”カシウスのゴーレム”が弱い訳がない。


 気になるのは、さっきからずっと感じる目線の正体がはっきりしないことか。


 一方、こちらの戦力としては、俺とモニカとロメオの1人と1匹は無傷だ。


 だが、最大戦力であるルシエラは謎の妨害によって魔法を暴走させられ、その反動で俺達の後ろに横たわっている。

 命に別状はないようだが、この様子だと即時の戦線復帰は難しいだろう。


 そして次の瞬間、体の表面に独特な奇妙な違和感が発生し、俺達を覆っていた隠蔽魔法が剥がれていった。

 ロメオに付けた感覚器からの映像だと色までは分からないが、光の加減の変化や特徴的なソバカスが消えたのが確認できたので間違いない。

 

 後ろで伏しているルシエラも同様だろう。

 おそらくダメージを負ったルシエラが魔法を維持できなくなったのだ。


「・・・ロンは、知ってたの?」


 周囲の騎士型ゴーレム達を目で牽制しながら、モニカが確認するように聞いてきた。

 何が?  とは聞き返さない、間違いなく相手が”こいつら”である事を知っていたかどうかのことだろう。


『アレス高地で逃げた時の情報から知っていた、モニカに言わなかったのは悪いと思ったが、必要だったと思ってる』

「・・・対策は考えてる?」


 モニカは短くそう言いながら、棒状のフロウを握り込んでさらに一歩前に踏み込む。

 言わなかったことを非難はしているが、その必要性も理解して腹に飲み込んでいる感じだった。


『・・ある程度は考えてるが・・・』

「それじゃ、付いてきて」


 モニカがそう言うと、ふう・・・っと音が鳴ったかと錯覚するほどモニカから飛んでくる感情が消えた。


 今はまるで凪のように無風で、ただ次の行動を待ち構えている。 

 おそらく今回は俺への”指示”を極限まで使い倒す腹づもりなのだろう。

 これはその準備といえた。


 そして次の瞬間、まるで何かの合図でもあったかのように一斉にゴーレム達が突っ込んできて、その急激に膨らんだ圧迫感に俺が一瞬気圧される。


 そしてまるでその隙きを狙われたかのように、ゴーレムの剣が迫ってきた。

 

 だが、次の瞬間モニカの視界が一瞬だけブレて、わずかに後ろに移動してその攻撃を避ける。

 そして次の一瞬で地面を蹴り、一気に前進して、今攻撃してきて胸元がガラ空きだったそいつの喉元に棒状のフロウを突き刺し、間髪入れずに砲撃魔法を叩き込んだ。


 その感触から予想通り装甲自体はかなりの強度で、きっと俺達の砲撃魔法の直撃でも耐えられただろう、だがその隙間に突っ込まれた砲身から内部に直に発射すればその限りではない。


 ゴーレム機械は外は頑丈でも内側は結構脆いと相場は決まっていた。


 首の内側で発射された魔力砲弾は轟音を響かせて、その哀れなゴーレムを吹き飛ばし、さらに後ろにいた別のゴーレムへ襲いかかる。

 残念なことにそれは盾で防がれてしまったが、ゴーレム達の連携が乱れその場で固まってしまった。


 さらに今の砲撃の反動で後ろに吹っ飛んだモニカが、後ろ側でルシエラに向かって剣を振り下ろしていた別のゴーレムにフロウを叩きつけた。 

 その時、咄嗟に飛んできた思念でフロウを刀型に切り替えたことで、そのゴーレムの左肩から袈裟懸けに真っ二つに切り裂かれる。


 そして、即座に砲撃でそいつを吹き飛ばし、その反動でまた別の方向から接近していたゴーレムへと向かい、今度はロメオへと向かっていた一団に飛び込んだ。


 俺はその間も必死にモニカから飛んでくる”指示”をこなし、必要と判断した情報を”感情”だけで伝えていく。


 四方八方から次々に繰り出される剣と槍の猛攻を目にしては、いちいち声に出して確認したり指示をしていたんでは間に合わない。

 むしろ余計な気を取られかねないため、絶対に声をかけることができなかった。


 今、俺が伝えられるのは危険度の高い方向を伝えることだけ、あとはモニカの本能任せだ。


 騎士型のゴーレム達は量産品とは思えないほど性能が高く、スムーズな動きと連携で効率的に動き回り的確に俺達を追い詰めてくる。

 さらに重そうな装甲を身に着けているのにもかかわらず、振り抜かれた剣の切っ先は全く見えなかった。


 だがそれでも、モニカはそれに負けずに凄まじい勢いで戦闘区域を飛び回り、次々にダメージを与えていた。


 ゴーレム達の超高速の攻撃はなぜだか当たることがなく、こちらの攻撃だけ一方的に決まっていく。

 

 今も、フロウで激しく打ち付けられたゴーレムが放ったやぶれかぶれの一撃を、そのモーションと同時にそいつの頭に砲撃を叩き込むことで回避し、後ろから迫ってくる別のゴーレムへと飛び込み、力任せに蹴散らした。


 これは一体どういうことだ!?


 いくら俺のサポートで瞬時に筋力強化を適切に切り替えて俊敏に動けるといっても限度がある。


 もちろんその一端は、相性の問題もあるだろう。


 以前邂逅したときや、書籍などの描写からこのゴーレム達がかなり近接能力に秀でていることはわかっていた。

 と、同時にルシエラなどの魔法士が行うような、言ってしまえば”小細工”に近い攻撃が少ないこともわかっていた。


 こいつらは徹底的に基礎に忠実の超効率特化のモーションと、部隊単位での効率運用で敵を追い詰めていく”兵士”なのだ。

 それは同時に、見た目以上に”変”な行動をしてこないということでもある。

 なので、近接主体で的の小さいこちら側に1対1では大きな”分”が発生しているのだ。


 だがそれでもこいつらの動きは先程から驚くほど空回りさせられている。

 モニカの動きはまるで相手が何をするのか知っているかのように適切だった。

 

 モニカが最も隙きの多い個体を狙って、猛烈にフロウで攻撃を行い、その最後の一撃の反動で飛び退くことで反撃を躱す。 

 こんなことが何度も続いた。

 

 そして次第に俺はモニカのこの動きに既視感があることに気付いていく。

 俺はこの動きを前から何度・・・も見ていたのだ。


「・・・ふっ!!!!」

 

 息を込めて渾身の一撃を目の前の騎士甲冑のど真ん中に叩き込み、相手を数十mも吹き飛ばし、自分はその反動で相手の一団から遠ざかる。


 気がつけば倒れたルシエラと恐怖でうずくまるロメオを中心に直径10mほどの空間ができ始めていた。

 既に広場にはモニカの攻撃で倒されたゴーレムの残骸などが散らばっている、だがそこの空間だけは全くの更地だった。


 この10mの円がいわば俺達の”制圧圏”で、このわずか外を基準に砲撃の反動を使って縦横無尽に飛び回りながら攻撃を行っている。


 相手は集団ではあるが、同時に攻撃できるのは精々が4体が限度で、さらにモニカが懐に潜り込めば1対1の状況を容易に作り出せた。

 そしてその一体が倒されると、その個体が邪魔になり、その間に今度は即座に反対側に飛んでそちらを抑えられる。


 相手が”カシウスのゴーレム”でよかった。


 皮肉なことに俺はこの時ばかりは、そう本気で思った。


 なぜならもう既に入念・・・に対策が完了していたのだ。


 俺はここで初めて、モニカがいつも訓練などの前に行っている”シャドーファイト”の対戦相手の正体を知ることになった。


 いつも適当な相手に素振りしているのかと思っていたがとんでもない。


 モニカはずっと想像上のこいつら騎士型のゴーレムと戦うことをシミュレーションしながら棒を振り込んできたのだ。

 その証拠に、モニカの顔が僅かに引き攣るような笑みを孕み、飛んでくる感情の中に恐怖や怒りだけでなく高揚感や歓喜といったものが混ざり始める。


 それは、例えるならずっと憧れていたスター選手と、キャッチボールしてもらえた少年の感情といったものだろうか?


 当然、その選手がどんな選手なのか改めて確かめる必要はない。

 

 体の大きさ、得意不得意、癖、行動パターン。

 本人だって気づいていない弱点だって知っていることもある。


 ただひたすら、”そこ”に届くことを夢見て、練習に打ち込んできたのだ。


 もちろん現物を見たことがないモニカは書籍などから想像する他無いが、恐らくは絵本だけでなく他の文献に書かれている情報も加味して作られたイメージ対戦相手なのだろう。

 モニカのこのいつもと何一つ変わらない動きは、彼女の中のこいつら騎士型のゴーレムの正確性が驚愕のレベルにあることを物語っている。


 そして彼女の長年の”研鑽”は皮肉にもこんな所で初めて日の目を見たのだ。


 次第に俺は、この機械の人形の集団の中に戸惑いに似た空気が充満するのを感じた。


 

 状況は好転していると思うだろう?


 だが、答えはノーだ。


 これだけ一方的に俺達の攻撃が通り、次々にゴーレム達が倒れているのにもかかわらず・・・・



 敵の数は全く減っていなかった。

 

 

 広場に通じる道はいつの間にか大量のゴーレムたちで埋め尽くされ、周囲の建物の窓からも姿を表し始めた。

 そこに住んでいた人や、道行く人は何処に行ったのかは分からないが、結構丁寧な人払いが現在進行形で構築されていると思われた。


 更にはモニカが倒したゴーレムにしても、破壊された状態で地面に倒れたあと、攻撃の流れの中で回収されて後ろに運ばれ・・・・


『嘘だろ、おい!?』


 俺の言葉にわずかにモニカの集中が乱れ、かなりギリギリのところを剣が掠めていった。

 針の穴に糸を通すような集中の中なのにも拘らず、思わずそんな言葉を口走ってしまったのだ。

 だが悪態をつかずにはいられない。


 俺とモニカのこの奇跡的なまでの一方的な攻勢は、その実・・・・・全く意味を成していなかったのだ。


 俺達の倒したゴーレム達は、他の仲間に回収されたあと即座に後方に回されて、損傷の軽い者は後ろに何体かいる、装甲は付けているけれど騎士型ではなく、武器も持っていない支援型と思われるゴーレム達の手によって即座に修復され前線へと復帰していた。


 現場での修復が間に合わないと判断された個体はさらに後方に送られているようだが、あれもその内復活するんだろうな。


 この継続戦闘能力がこいつらの真の恐ろしさだ。


 この様子だと、人間だったら絶命に至るようなダメージを負っても1時間以内に戦線復帰可能だろう。


 そしてその光景を視界に収めたモニカが一瞬だけ、嫉妬に近い感情を持つ。

 そりゃそうだ、ゴーレムの修理のためにこんな長距離を必死に旅をしているのに、それを敵に目の前で当たり前のようにやられては腹の一つも立つ。


 だが今は戦闘中だ、すぐにその感情を捨てると、目の前のゴーレムへの対処に戻る。


 状況はどんどん悪い方に流れていた、今は相手が馬鹿の一つ覚えみたいに近接に拘って突っ込んでくるから対処できているが、俺はこの状況に違和感を感じていた。

 何か他に策があるはずなのではないか?


 いや、現状だってこのまま行けば遠からずモニカの体力が尽きてやられてしまうだろう。

 そう考えればこれも、”確実な対処”といえるのかもしれない。


 だが、やはり悪い予感は当たっていた。


『モニカ! 戦闘区域の中央まで下がれ!』


 ”それ”に気付いた俺が、モニカに向かって怒鳴るように指示を飛ばす。

 次の瞬間、モニカがそれに従い目の前の個体に砲撃を打ちこみ、その反動で真ん中へと大きくジャンプした。


 だが今回は追いかけて来るような反応がない、やはりビンゴ仕掛けを使うということか、うれしくねー。


 そして俺達が戦闘区域の円の中心に降り立った途端、


 俺達の周囲を囲む建物の2階や3階の窓から、弓を装備した騎士型のゴーレムが大量に現れ、既に限界まで引き絞られた巨大な金属製の弓から一斉に矢が放たれた。


 周囲の視界が高速で動く大量の矢に埋め尽くされて黒くなる。


 こいつらがわざわざ不利である近接戦闘に付き合った理由はこれだ。

 この圧倒的な飽和攻撃の準備を行うための時間稼ぎをしていたのだ。


 寸分の狂いなく同時に放たれた矢の雨は、避けることを許していなかった。

 さらにあえて的を外すことで、仮にその場から移動しても、確実に少なくとも十数本の矢の餌食にはなるという念の入れようだ。

 

 だが、準備をしていたのはこちらも同じだ。


『モニカ、流せ!』


 俺のその言葉と同時に、モニカが大量の魔力を足元に叩き込む。


 するとそこに引かれていたフロウの”配線”を通して、四方八方に大量の魔力が飛んで行き、そこに配置されていたフロウの塊に流れ込んだ。


 これは俺が戦闘の間、何かに使えないかと少しずつ様子を見てロメオの背中から”転送”で配置していたものだ。


 最初は地雷代わりにでも使えないかと考えての行動だったが、他の使い方もできる。

 大量の魔力を流し込まれたフロウの塊は、一斉にその形を変えて内側にたたんでいた魔力繊維を広げた。


 そしてそれは一瞬の内に俺達の周囲をぐるりと囲む即席のドームとなって現れ、俺達を守るために立ち塞がる。


 間一髪、フロウのドームが完成した刹那、



ズガガガガガガガッガガガガガガガガッガガガ!!!!!!!!!!!!!


 ドームの内側に凄まじい着弾音が響き、矢の当たった箇所の内側が僅かにへこんだ。


 ピスキアの一件で得たフロウは高度で即応性の高い用途には使いづらいが、大量にある。

 もしこれが棒2本分に限定されていたらとても間に合わなかっただろう。


 だが、その量に物を言わせた分厚い装甲は、一本として矢を通すことはなかった。


 矢の勢いを殺すためにあえて中空構造の部分も混ぜたりと、一瞬で出来得る限りの対策は行ったのも大きい。


 広場に突如現れた真っ黒なドームは全ての矢を受けきって針山のようになっていた。



 だがそれで終わる”カシウスのゴーレム”ではない。


 矢による飽和攻撃が失敗したことを悟ったゴーレム達は、即座に最前列に陣取っていた騎士ゴレーム達がそれまで使っていたのと異なる大型の槍を構えて一斉にフロウのドームに突撃を敢行した。


 次々に突き刺さる巨大な槍。


 だがそれもフロウの装甲を突き破ることはできなかった。


 しかし、それが前提の攻撃なので彼等は気にしない。

 特殊な形状の槍がフロウのドームに刺さると、その内側で槍の先端の形が変形しそこから僅かな魔力を流し込んだ。


 するとそれまで強固な壁のように立ち塞がっていたフロウの壁の表面が砂のように形を失い、次第にそれが全体に広がってどんどん崩れていく。


 これはゴーレム達がそれまでの情報から”対モニカ”用に用意した、”対カシウス”装備だった。


 その内容は刃先から僅かな魔力を流すことでフロウの内側に流れる魔力を狂わせて、コントロールを失わせるというもの。

 これを打ち込まれればフロウの変形を維持できなくなる。


 しかも、この魔力は暫くの間持続するので、もうこのフロウのドームの壁を使うことは出来ない。


 砂のように崩れていくフロウのドームの中心に向かって、ゴーレム達が第二射に備えて金属の矢を弓につがえて構え、崩れるドームの向こうに”獲物”が見える瞬間を待った。


 そして、その中心にモニカの姿が現れた次の瞬間・・・・



 ゴーレム達の手が弓から矢が放たれることはなかった。


「「「「!!??」」」」


 その光景を目の当たりにしたゴーレム達に明らかに動揺のような空気が広がる。

  

 機械の割に随分と感情豊かな連中だ。

 だが無理もないか。


 モニカがおっかなびっくりといった具合に周囲の建物を見渡し、その凄まじい異様に目を奪われた。


 俺達をぐるりと取り囲む周囲の全ての建物が、中のゴーレムごと凍りついていた・・・・・・


「・・・よくやったわモニカ、おかげで・・・だいぶ回復できたわ」


 そしてその異様を作り出した張本人が、左手で右肩を抑えながら右腕をブンブンと振り回し立ち上がる。

 その足元には、今しがたこの異様を作り出した魔法陣が使用後にもかかわらず未だに物騒な光を発しながら、徐々に消えていく様が見えていた。


 発動準備に余裕があったとはいえ、この威力は流石だ。

 建物を覆った大量の氷は凄まじい冷気を放ち溶ける気配はない。 


「ルシエラ、もう大丈夫?」


 モニカが隙きを生じさせないために、あえて振り向かずに声だけでルシエラの状態を確認する。

 俺達がここから逃げなかったのは、彼女が回復するまでの時間を稼ぐためだ。


 俺達が必死に近接戦闘で時間を稼いでいる間、ルシエラは全てを回復に当ててもらっていた。


「全快ではないけれど・・・・戦うだけなら・・・・」


 そう言ってルシエラが周囲を睨む。


「どうにかなると思うわ」


 その言葉に俺達の中に希望の感情が渦巻いた。

 これで戦力は戻した。


 ルシエラがいれば俺達にも余裕が出来て大出力攻撃も可能になる。


 

 だが、”主力”を投入するための時間稼ぎを行っていたのは俺達だけではなかった。


 その瞬間、モニカとルシエラの目が鋭くなる。

 さらに背中に感じる謎の視線の量が一気に増大した。


「あちらさんも、”本命”が到着したらしい・・・」


 俺が苦々しげにそう呟く。


 ”そいつ”は明らかに、次元が異なる雰囲気を纏っていた。


 まるで海が割れるように騎士型ゴーレムの隊列が左右に別れ、その向こうから一回り小さな・・・・・・・騎士型のゴーレムがまるで覇王のように悠然と歩いてきた。

 そして、そいつは明らかに他のゴーレムと比べても格段に高度な印象を受ける。


 メタリックな質感の装甲をまとった騎士型という点こそ共通であるものの、それ以外はまるで別物だった。

 甲冑は量産品の用にシンプルな他のゴーレムと異なり、複雑な形のピースがいくつも組み合わさった形をしていて、装甲の隙間などが小さくなるようにデザインされていた。


 さらに背中に羽織ったマントが、内部からの排熱と思われる気流にわずかにはためき、まるでオーラのように見えた。


 そして、そいつは歩きながら脇に挿していた細身の剣を抜き放つと、ゆっくりとこちらに向かって突き出す。

 それは攻撃ではなく、明らかに”意思表示”のための行動だった。


 そこからも、そいつの”自信”とも取れる強さが見えてくる。

 体格こそ小さいものの、その力は比較にならないほど強いのは間違いない。


 その瞬間、俺達はここまでのゴーレムの攻撃がコイツが現場に到着するまでの足止めに過ぎないことを肌で感じ取る。

 

 そしてヴェレスの広場の戦いは、両者の主力が戦線に揃ったことで、その第二幕が開けようとしていた。


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