第98話 そのパターンか

「指輪の忘れ物ありませんでしたか?」

「今日ですか?」

「はい」

「利用時間と覚えていれば部屋番号、車で来られていればナンバー教えてください」

「あの…利用時間は…昼間から深夜…部屋番号は覚えてません、車では行ってません」

「えっ?」

「う~ん、シルバーの指輪なんですけど…」


 確かにある。

 指輪の忘れ物はあるのだが…本人確認できないと渡せない。

「あの…本人証明できる情報が無いと、お渡しできないんですけど…防犯上、どうしてもというならば、警察に届けますので、そちらで手続きしてもらってもいいですか?」

「えぇ~困ります…」


 そして電話は切れた。

 意外と落し物の引き渡しトラブルはあるし、コレが面倒くさいことになる。

 簡単には渡せないのだ。


 少しするとデリヘルから電話が入った。

「デリヘルです、ウチの子が忘れ物したらしいんですけど?」

「えっ?」

「あの指輪らしいんですけど」

「さっき電話くれた人ですかね?」

「そうです」


 納得した。

 1日に何度も来てるから、時間も部屋も特定できない。

 送迎で来てるからナンバーなんて一致するわけない。客の車で忘れ物登録してるのだから…。


「そういうことですか…解りました、特徴一致すればお渡ししますよ」

「すいません、お手数かけます、これから取りに行きます」


 嬢と受付の娘が一緒にやってきた。

「すいません、お手数かけます」

「いえ、人によっては警察引き取りになると思うので、私物は気を付けてくださいね」

「すいません」


 現実とは想定を越えてくるものなのだ。

 バカの考え休むに似たり…よく言ったものだ。

 私の考えなど現実は軽々と越えてくる。


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