{第百十五話} 自己防衛 投資 海外移住 日本脱出

会場の男達からのヘイトがある程度溜まった頃、ネイに体を優しく揺らされ目覚めった昌は次の試合相手を確認し、準備を始めた。

壁に映し出されたトーナメント表を確認すると、第三回戦の相手はあの「戦場の魔術師」であるタグだ。

最初に使う武器はごく普通の剣を選択し、盾は出さなかった。


両者は戦闘スペースに入ると、タグは昌を見るなり鼻で笑う。

「前回の戦闘結果から何か対策を練って来たかと思えば、前回と全く同じく剣一本。もう一度やれば勝てるとでも思っているのか?勝てないと誘って無駄な小細工を辞めたなら賢明な判断だな」

「いや、特別な事をしなくてもお前に勝てる事に気づいただけだ」

と軽く煽り返した昌だったが、こめかみの辺りに一滴の汗が流れていた。


「バトルスタート!」

バトルが始まった瞬間、昌はタグに切りかかる。

「確かに前回に比べれば、スピードやパワーが上がっている様だけど、ちょっと力が入りすぎて動きが固い」

「クソッ」

傍から見れば、一方的に攻撃され、よけるだけで精一杯に見えるが、タグが指摘した様に昌はいつも通りの戦闘が出来ておらず、スキが多く動きに切れ味が無かった。

「ただ避けているのも飽きてきたし、今度はこっちからいくか」

そう言うとタグの動きが逃げの一手から打って変わって攻撃を始めた。

タグは昌を翻弄するような動きを繰り返す。

「そろそろ思い出してもらおうか、お前が手も足も出なかったオレの恐怖を」

次の瞬間、タグは三人に分身し、昌へ向けて一斉に攻撃してくる。

「そうくると思った」

昌は自分を中心にスモークを焚いた。

このスモークを最初に抜けて攻撃してきたヤツが分身ではない本体だと昌は考えた作戦だ。

「お前か」

スモークを割いて最初に向かってきたタグを攻撃したが、避けられ次に来た2人の昌が分身と考えられていたタグが同時に振り下ろしたカマを間一髪の所で腕て防いだ。

「袖の中に何か仕込んでいたのか、気づかなかったよ」

昌は盾を持たなかったのではなく、盾を持っていない様に見える様に袖の中、腕をGOSで覆っていた。

しかし、3対1と言うこの状況は非常に厳しく、アーマーにヒビが入り、だんだんと広がっていく。

ついにアーマーの耐久値も限界が訪れ、昌のアーマーは音を立て砕け散った。

しかし、タグ3人の連続攻撃は止むことはなく続いている。

タグの攻撃は昌の体を切りつけ傷つけた。

着ているスーツはボロボロで所々切られ、切れ血がゆっくり流れている肌が見える。

「さて、フィナーレだ」

昌が死を悟った瞬間、手首に付けたGOSが赤く光出した。

「使用者の生命危機を察知しました。自己防衛モードを発動します」

無機質な女性の声がGOSから聞こえる。

「またこれに救われるのか」

昌の全身は赤いGOSで出来た鎧で覆われ、前回と同様に自分の意志では体は動かず、勝手に動く。

そんな昌は3人のタグに向かって横斬撃を放った。

放たれた斬撃は通常の昌が放つ斬撃とは5倍以上の威力や大きさがあり、そんな斬撃を食らった3人のタグは戦闘スペースを囲っている柵に背中を打ち付けた。

背中を打ち付けたタグ達はふらつきながら立ち上がる。

「攻撃を食らえば分身が消えるのが相場だろ」

「ここまでオレを追い詰めた功績に対して種を明かしてやろう。こいつらはオレの人格と容姿をコピーした人形だ」


タグの話を聞いていたネラとネイは思い当たる節があり、話を始めた。

「そんな事が出来るのは京一が作ったアレ位よね~」

「そうですね。アレの一件に関しては京一様の完全なるミスなので私達には養護できません」

「アレが試作機で所有者をコピーする機能しかないのよね」

「そのデータを元にダミーを完成させたので全体的にダミーにすら劣るのでそこまで脅威になる事は無いとは思いますが」

ネラやネイの二人は自分自信がコピーされ、敵に回らない限りてこずることは無いが、まだ成長段階である昌には十二分に脅威になっている。


赤い鎧に覆われ、昌の意志では自信の体を動かせない状況にあるが、タグ達の攻撃をいとも簡単に腕で受け止めた上で攻撃を与え、着実に3人が着ているアーマーの耐久値を削っていく。

「スピードとパワーがこのオレと並ぶレベルまで上昇している。アイツがあの赤い鎧で覆われた事と関係しているのか」

鎧の中で思い通りに体を動かせない事に対する苛立ちと焦りを見抜いたタグは昌の動きに集中した。

「何も焦る必要はない、途中で敵の動きが変わっただけだ。そらならヤツの動きを見切ればいいだけだ」

タグ自身は動かず、人形である2人に任せて昌の動きを眺めている。

昌は相手からの攻撃を腕で受け止め、切りかかるという動きを繰り返している事にタグは気づき、その確実性を得るため、自身も昌に攻撃をすると、先ほどまで見ていた通り、タグのカマを腕で防ぎ剣で切りかかって来たため、タグは軽々とかわした。

「こいつは決まった法則で動いている。それさえ見切ってしまえば高いスピードとパワーは無意味。鎧をまとう前のお前の方が手ごわい位だ」

そういうと、タグは昌の攻撃を完全に見切った上でかわし、見切った動きのパターンから確実に攻撃が当たる瞬間を見つけ、その瞬間に攻撃を与え、昌を柵に吹き飛ばし動けなくなった所へ技を繰り出した。

タグはカマを振り回しながら大きく飛び上がり、竜巻の様な物を昌に向かい放った。

怯み動けなかった昌はその竜巻を完全に無防備な状況で食らい、赤い鎧の全体にヒビが入る。

「この状況は絶望に近いな」

昌が諦めかけた次の瞬間、昌が掛けているメガネのネメシスのレンズに通知が表示された。

「一件のメッセージがあります。」

通知を選択し、そこからメッセージを表示すると「これはアリーセからの贈り物だ。」と書かれている。

急いで昌が辺りを見回すと、深く帽子を被り顔を隠し、肩にあの地下で出会った小さなロボットであるアリーセを載せて昌を見ている男を見つけた。

しばらく表示されていたメッセージが画面であるレンズから消えると、レンズ全体に見切れる量の数字とアルファベットの大文字や小文字の羅列で埋め尽くされ、それが消えるとレンズに新たなメッセージが表示された。

「自己防衛モードのオート機能を解除します。以後、コントロールが可能になります。」

といったメッセージと共に、おじさんが仕込んだと思われるボイスメッセージがインカムを通して再生され「お金いっぱい欲しいんだったら、年金なんてあてにしちゃだめじゃない 自己防衛 投資 海外移住 日本脱出だよね 国なんかあてにしちゃだめ あてにするから文句が出てくるわけでしょ」といった内容だった。

「これが言いたかったがために名前を「自己防衛モード」にした説がありうるな」

昌は軽く笑いながら剣を強く握り直し、構えた。

先ほどまでの苛立ちと焦りはおじさんのおかげで何処かへ行ってしまったらしい。

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