{第百七話} アネイアス
早朝、日が昇って間もない時間だ。
異世界時間に設定されている枕元に置いた腕時計で5時である事を確認し、腕に付けた。
ここでの生活も長くなり、最初は着慣れなかったスーツもだんだんと慣れてきた。
着替える速度も速くなり、無駄な動きが減っている。
スマホや車のカギをズボンのポケットにしまった。
ふと、自分の財布の中身を確認したが、紙幣がないこの世界では長財布は不向きである事を再確認する事になるだけだった。
財布を尻ポケットにしまって、手首にGOSが付いている事を確認して自室から廊下に出ると、ちょうどネラがこちらに歩いてきているところだった。
昨日の今日で何をしたらいいかわからない昌はネラに考えをあおる事にした。
「今日はどうする?オレの用事は特に無いんだが、何かネラからはあるか?」
「冒険者組合の本部に行ってみてはいかかでしょうか。組合の掲示板や他の冒険者の話の中に何か有力な情報等があるかもしれません」
ゲームでやることがわからなくて困っている時に、画面端等に出てくるインフォメーションの様な語り口調と内容だが、それがわかりやすく今の状況にあっている。
こんな朝早くに行って組合は空いているのかと疑問に思ったが、ネラの話では24時間空いているらしいので「コンビニかな」とおもいつつ朝の帝都を後から合流したネイも一緒に歩いて向かった。
冒険者組合本部に入ると、朝早くというのに冒険者達が集まっていた。
これは「とりあえずネラに聞く」というテンプレになりつつある流れになる。
ネラの話によれば、朝が一番クリスタル等の買い取り査定額が高いらしく、それを狙っている冒険者が集まっているらしい。
組合自体は24時間影響しているが、ダンジョンは午前7時から。査定の受付は8時からと1時間の差があり、ダンジョンへと向かう途中にある地下のショップの開店閉店時間は各自の判断に任されているさしい。
ダンジョンが開くまでまだ時間がある為、そこで話を聞くことにしたが、誰に聞いたものかと悩んでいると、男が昌に話しかけてきた。
「よう、兄ちゃん。あえてうれしいぜ。あんた「菊田昌」だろ?あの「菊田京一」の甥にあたる人物だ。色々と話しを聞くが、京一と同様に謎が多い人物でもある。そんな君に直接会えてうれしいよ」
昌の事についてある程度語ると、昌の後ろに立っているネラとネイについても語りだした。
「君たちは「ネイ」と「ネラ」。姉妹であり、京一と一緒にいるだけあって戦闘力がとても高い。この場に集まった冒険者をすべて相手にしても余裕だろう。しかし、君たちは京一以上に謎が多く情報が少ない。おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前は...」
男が自分の名前を言おうとした瞬間、ダンジョンが開く時間になったため、集まっていた冒険者たちが地下に向かって走り始め、騒がしくなったせいで男の名前が聞こえなかった。
ネラに名前を聞いたが、いつも邪魔が入って名前が聞けないらしく、ネラも知らないらしい。
そのため、おじさんは男の事を「情報屋」と呼んでいるらしいので、昌もそう呼ぶ事にした。
冒険者達がいなくなり、この場が落ち着いたところで、情報屋との話を続けた。
「おじさんと同じく、情報屋と呼ぶ事にするが、何か興味深い情報は入っているか?」
「そうだな、この町に新しくやりての冒険者が来ているらしい」
話を聞いていると、ウワサをすればというヤツで、組合に少年が入ってきた。
見た感じ年齢は昌と同じくらいで、イケメンに入る部類の顔だった。
そんなイケメン少年は昌の事を知っているのか、昌の方を見ている。
組合の登録手続き内容を聞いていた情報屋の話を彼が帰った後で聞くことにした。
「名前は「ブラット・アルキメデス」だ。「アルキメデス」と言うとあの議員と一緒だな。性別は男、これは見ればわかるな。年齢は16歳で昌と一緒だな。わかった内容はこれくらいだが、役に立ったか?」
とりあえずの前情報としては十分だろう。
組合に行けば情報屋は大体いるらしいので何かあったら行ってみる事にしよう。
次は「BC」について聞くためにブルーキャッツに向かった。
「BCはどんな攻撃方法も許されるルール無用の大会だ。もちろん公式の大会よりも治安が悪い。しかも、次のBCは特別だ」
ブルーキャッツ店内に居たエイムとソアリンから、BCに関する情報を聞いた。
「君達は「アネイアス」のことは知っているか?」
ソアリンの口から出た単語に聞き覚えはなかったため、とりあえずネラに説明を求める。
「京一様が企画して開催している冒険者達の頂点を決める世界大会の名前です。年に一回開催される大会で、次の開催で10回目になります。ちなみに初代優勝者は京一様です」
「アネイアスの事は理解したが、それとこれとにどういった関係があるんだ?」
「今回の優勝者にはアネイアスの特別出場が与えられる。それを手に入れる為に激しい戦闘が予想できる」
「この状況から考えるに、奴らの目的は、大会に出場させて君が負けたところでデータクリスタルを奪うつもりだろう。死角を何人か大会に潜らせている可能性が高い。それに、たとえ大会に優勝しても京一が帰ってくる保障はどこにもない」
「そんな事はわかっているが、何か手掛かりがつかめるかもしれない」
「そうですね、私達も参加します」
「もちろん、そんな危ない大会に昌くんを一人で出場させるわけにはいかないわね」
昌達は顔を見合わせて笑った。
「わかった。大会エントリーはこちらでしておく」
「でも大丈夫か?オイラーの工場での戦いで負ったタメージは相当な物だろう。回復できているのか」
「この様子だと2、3日もあれば完全回復できるでしょう。アーマーの修理も同じく」
「そうか、次のBCは一週間後だ」
「すぐじゃないか。すぐにでも準備を始めないと」
十分な準備期間が無い事を理解したが、まずは具体的に何からはじめようか悩んでいた。
「ならその前にBCの会場を見ておくといいだろう」
「案内しよう」
ソアリンの後に続いて、店の裏口から外へ出た。
裏道に出ると目の前にその場には似つかわしくない地下鉄の入り口のような下へと続くと思われる階段があった。
「ここから会場に入れる。会場はこの地下にあるんだ」
レンガ造りの階段を下りていくと人々の歓声が聞こえてきた。
開けた場所に出ると、松明で明かりを確保された2階にでた。
2階からは1階でならず者の冒険者達の観戦をすることができる。
昌達の他にも見るからに柄の悪そうな男女達が観戦している。
「ここがBCの会場だ。大会が無い時は自由に戦える場所として開放している」
会場には戦闘が行える金網で囲われた正方形のエリアが4ヶ所あり、それぞれで戦闘が行われている。
そんなエリアの1つで戦っている冒険者達を見ていると、その中に組合で見かけた「ブラッド・アルキメデス」の姿があった。
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