{第百話} アーティー

今目の前に居る人形は他の人形達と様子が明らかに違う。

明らかに敵に目視圏内に入っているのに攻撃してくる様子は無く、ダクトの中央に立っている。

実に不気味で、出来れば関わりたくない。

近くの天井にコウモリが数匹止まっているのも不気味な雰囲気を引き立てている。

人形の格好がドラキュラだから、このコウモリは眷属か何かなのかもしれない。

しかし、目的地はその人形の先の為、無視する事は出来ない。

ミイ達はそれぞれいつでも戦闘に入れる準備をして、人形にゆっくりと近づいていく。

人形との距離が20cmの辺りを切った瞬間、人形の目が赤く光り顔を上げると、両手から無数の火の玉を飛ばしてきた。

急いでミイ達は後ろに飛びのいた。

距離と取るが、火の玉は止まらない。

一番距離を取ったネラのミニメイドが矢を放つが、人形は軽々と避けた。

避ける速度が速すぎて、ミイ達にはその場かた消えた様に見え、見失ってしまい辺りを見回すと、ダクト上部に張り巡らされたパイプやワイヤーがあり、そこにつかまって居る。

ミイ達が上を向いて人形の行方を見つけると、人形はまた火の玉を飛ばしてきた。

片手はワイヤーにつかまって居るため、火の玉を飛ばしてくる手は片手になったはものの、近づけない。

ネラのミニメイドは矢を人形に向かって何度も放つが、ワイヤーを伝って矢をかわしつつこちらに近づいてくる。

ワイヤーを上手に伝っている姿は動物園等でよく見るサルの様だ。

人形は距離を取って矢を放ってくるネラのミニメイドを先に倒しておくのが先決と思ったのか、一気に距離をつめて、弓を持っている方の腕を掴んで動きを止めると、もう片方の手でミニメイドの顔面を殴って吹き飛ばした。

近距離戦闘ならネイのミニメイドが専門とする分野だ。

ネイのミニメイドはすばやい動きで人形の周りを走り回り、飛び跳ねると壁を蹴って人形に向かって双剣で切りかかったが、ネイのミニメイドをはるかに上回る速度で攻撃をかわし、ミニメイドの両腕を掴んで持ち上げると、両腕を引きちぎろうとしている。

ミイが背後から人形に切りかかると、衝撃でミニメイドから手を離した。

次の攻撃を繰り出そうとするミイに火の玉を放ち、動きを止めると、高く飛び上がり上部のワイヤーにつかまって火の玉を連続で放ってくる。

どうやら敵はダクトと言うこの場所での戦闘に特化した近接スピード特化型スタイルで、実に戦いにくい。


ネイ達の視点をスマホ画面に映し出し、様子を見ていたネラはミイにスマホを通して話しかけた。

「重火器の使用をレベル1まで許可します。対象を制圧してください」

「分かりました!」

ネラの許可を得ると、ミイはメイド服のスカートで隠れた足に着けたホルダーからハンドガンを抜いた。


ミイはハンドガンで人形を撃ったが、効いている様子が無い。

いくら撃っても意味がなく、火の玉を飛ばす手を止めない。

大きな盾を構えたミイの影に隠れ後ろに下がり、ダクトの別の道に逃げた。

ある程度距離を取って振り向くが、人形の様子は無かった。

ミイは人形と戦闘をした所を壁から顔だけ出して見てみると、もともと立っていた位置に戻って何も無かったかの様に立っている。

ミイは監視専用で定位置から動かないと当たりを付けてたが、核心が持てない為、試しに空のマガジンを人形の目の前に投げると、人形は顔を上げてマガジンに向かって火の玉を撃ち始めた。

火の玉が当たったマガジンが床に落ちると、火の玉を撃つのを止め、またうつむいて止まってしまった。

どうやら動く物を端から攻撃しているだけの様で、そこに人間的な意志は感じられなかった。

さっき戦った大量の人形達は、実力こそ無かった物の確かにそこに意思が感じられた。

この人形は現世で言う所の「AI」の様な物だ。

そうと分かれば、戦い方は変わってくる。


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アーティーの様子をモニターしている警備員達が見ており、その様子を応接室のオイラーに伝えた。

「アーティーの戦闘態勢が解除され待機監視体勢に切り替わりました、どうやら監視用のコウモリの映像からは一旦その場から離れた体勢の建て直しを図っていると考えられます」

「ふっ、無駄だ。アーティーを攻略出来るわけが無い」

ミイ達の様子を見て鼻で笑ったオイラーに対してガウスは質問した。

「本当にアーティーで大丈夫なのですか?」

「当然だ」

余裕な様子で、アーティーが負ける事を少しも考えていないオイラーにガウスは警告した。

「しかし、彼ら戦闘能力は中々の物で、そんな者達に仕えるメイドです。甘く見ていると痛い目に合いますよ」

「ここでGOSを奪い取れば何の問題もあるまい。君は黙って見ていればいい」

「はい、そうさせていただきます」

何を言っても耳を貸さないオイラーに対してガウスは警告するのを止めた。


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ミイ達はAIの弱点について会話していた。

そもそもAIは何を判断して攻撃をしてくるのか。

これは空のマガジンを投げた事で結論は出てる。

自分の身辺で動く対象を端から攻撃している。

つまり、動く対象を認識している目を無力化または破壊してしまえば、人形の動きは止まるはずだ。

戦闘中からミイには一つ疑問に思う事があった。

それは人形の周囲に居るコウモリで、こちらに攻撃を一切してこない事が気がかりだった。

コウモリは人形を丸く囲う様に天井にとまってこちらを見ているだけだ。

では、何のために存在しているのだろうかと疑問に思っていたが、マガジンを投げた時にネラのミニメイドが撮影した映像を再度確認するとその答えが判明した。

映像にはマガジンが人形に近づいた瞬間、人形よりもコウモリの方がすばやく反応している様子が映っていた。

これはコウモリに音や動きに反応し、対称の位置や動きを把握して、その情報人形に伝達している可能性がとても高い。

以上の点を踏まえてミイ達は人形が居るダクトから顔を出し、人形に近づいた。

近づくとやはりコウモリがこちらに気づいてから人形は目を赤く光らせて顔を上げ、火の玉をこちらに向かって大量に放ってきた。

ミイが火の玉をかわしつつ、ハンドガンで人形の頭上に止まっているコウモリ五匹を打ち落とした。

コウモリが打ち落とされると、人形の攻撃は止まり、目の赤い光りが点滅し始めた。

あとは、こちらに攻撃してくる様子はなく、ひたすら見えていないのにも関わらず辺りを見回している。

そんな人形の横を走り抜けて、ミイ達は先に進んだ。


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様子を見ていた警備員はすぐさまオイラーに連絡を入れた。

「アーティーがやられました!」

「何っ!?」

驚きを隠せないオイラーに対して、ガウスは「言っただろう」と言った様子でオイラーを鼻で笑い、軽く煽った。

「当然次の手も打ってあるんですよね?」

「当然だ!」

オイラーは焦りを見せていた。

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