{第五十話} これだから異世界は嫌いだ

帝都 城内 王の間


部屋の一番奥の中央に置かれたイスに中年の男が座っている。

「鉱山の一件は実に見事であった」

服装といい、態度といいとても偉そうだ。


「ありがとうございます、帝国王」

「私には勿体無い」

京一は膝を床に付き頭を下げた。


「頭を上げよ」

「何か褒美を与えたいのだが、ほしいものはあるか?」


「では、貴族の位を...」


「そんな事か、良かろう」

「おい」

使用人が謎の紙を2枚持ってきた。

王はその紙2枚ともにサインをし、同じく京一も2枚にサインした。


「これで、貴族になる手続きは終了した」

「よって、お前はこの国の貴族の一人になったわけだ」

「1枚はこの国で保管し、もう1枚は自分で管理しろ」

「その紙がお前が貴族である証明になる」

「説明してやれ」

使用人が京一へ説明を始めた。


「この紙はあなた様が貴族であることの証明する物です」

「もし紛失したりした場合でも、もう1枚が存在すれば再度作り直す事が可能です」

「王が変わった場合には王の名前の欄を現在の王に変える必要がありますが、一代前の王の名前の物なら有効です。その有効期間内に更新してください」

「二代前の物になると無効になってしまいます」

「もちろん、国に保管されている物もです」

「気をつけてください」

「更新の手続きや質問、紋章の変更等はこの国の役所にお願いします」

「私はこれで」

使用人は王と京一に頭を下げて帰って行った。


「ほかになにか私に出来ることはあるか?」


「十分です、ありがとうございます」

そこへ、数人の柄の悪い兵士が現れた。

こんなやつらがこの国を背負っているなんてな...


「国王!例の森の制圧が片付いたぞ!」


「国王じゃない!帝国王だ!何度言ったら分かるんだ!」


「例の森とは?」


「ああ、とある森によからぬ者達が住み着いていると言う噂を聞いてな」

「そこの制圧を頼んだまでだ」


「制圧ですか...」


「そう言えば、とっ捕まえてきたぜ!」

後ろの仲間の兵士がなにやら鎖を何本も引っ張ってきた。


「それは...!?」


「おお!」

その鎖の先には10人の女性が首輪で繋がれていた。

布一枚で適当に作ったぼろぼろの服を着せられ、顔や体にあざや傷だ。

そんな彼女達の目からは光が消えていた。

どうやら心もぼろぼろらしい。

それに彼女達は...


「彼女達は!?」


「彼女達は例の森に住み着いていた「エルフ」達だ」


「エルフ!?」

男達に乱暴に扱われたおかげでエルフ特有の綺麗な肌や髪が汚れて痛んでいて分からなかった。


「本当にエルフなんだろうな?」


「もちろん、ほれ」

そう言うとエルフの長い髪を乱暴に引っ張った。

髪に隠れていたエルフの特徴の一つでもあるとがった耳が見えた。


「ほう、お前ら手は出して無いだろうな?」


「まぁ、痛めつける程度ならしたがな」

「最初からそう言われてたしな」


「そうか、報酬はあとで渡そう」


「待ってるぜ~」

兵士の男達は部屋から女性達を残して出て行った。


「これは、これは...」

国王はイスから立ち上がり、床に座り込んだ女性達に近づきあごを掴み顔を確認した。


「彼女達をどうするつもりですか?」


「決まっておろうオレ専用の奴隷になってもらう」


「はぁ~」


「何だ?」


「どんなにこの国の奴隷事情を知らべても下っ端のザコしか出てこないと思ったら」

「国王が絡んでいたとは...まぁ、うすうす感づいてはいたが...」


「どういう...」


「こういう事だよ!」

国王の顔面に拳で一発。


「ぐはっ!」

王は飛ばされ床に倒れた。


「これだから異世界は嫌いだ」

「まだ俺が国王をやった方がましだな」


「ああ、違いないw」

扉を開けて男が一人現れた。

後ろには、さっきのガラの悪い兵士が倒れていた。


「よう、ハネット!」

「そっちは終ったか?」


「少し時間が掛かったがな」

「国王がやはり一枚かんでたか...」


「お前の予想通りだな」


「彼女達は?」


「国王が奴隷にしようと捕まえてきたエルフ達だ」


「エルフだと?!」


「ああ、取り合えず鎖を外すのを手伝ってくれ」


「おう」

床に倒れた王をよそに彼女達の鎖を外した。

鎖を外したが彼女達の心の鎖は簡単には外せないらしい。

最初は鎖を外そうと近づいた俺たちにもおびえていたくらいだからな。

取りあえず、傷だらけな彼女達に治癒魔法をハネットが掛けた。


「京一、彼女達をどうするつもりだ?」

「ティアドまで連れて行くか?あそこなら安心だろう」


「そうだな、そうしよう」

「ワープするぞ、よろしく!」


「よろしくって、あのな...」


「しょうがないだろ?」


「まぁ、そうだが...」

「この人数となると、私の魔力では足りない」


「しかたないな~」

「俺の魔力もくれてやるよ~」


「当たり前だ!」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


ティアド 村付近


「やっぱ、彼女達を連れて村に行くのはまずいよな...」

「どうする?」


「では、取り合えず京一の家に連れて行こう」


「そうだな...」

「さすがにおなかも空いてるだろうし、それにお風呂にも入ったほうがいい」

「服もどうにかしないとな」


「あそこなら食事もあるし、お風呂もある」

「たしか、空き部屋も幾つかあったはず」


「そうと決まればレッツゴー!」

「また、よろしく!」


「しょうがないな...」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


ティアド 京一宅


「さて、靴を脱いで~って君達素足じゃないか!」

「泥だらけで、小石を踏んで血が出ている」

「取り合えず洗って消毒して絆創膏を張らないと」

「消毒液が効くかは分からないが」

「無いよりかはましだろう」

「さあ、風呂場へ行こう」

風呂場へ行く廊下は泥で彼女達の足跡が付いた。


「足上げて~冷たいかもしれないけど我慢してくれ」

「ハネットは俺が洗った彼女達の足をタオルで軽く拭いてやってくれ」


「わかった」

彼女達の足を綺麗にしてタオルで拭いた。


「このままついでに風呂にも入ってもらうか」

「ゆっくりしていってね」

シャワーの使い方やシャンプーの事などを一通り教え洗面所から2人は出た。


「さて、次は食事の支度だ!」

「ハネットも手伝ってくれ」

「流石にあの人数の食事を俺一人で作るには時間がかかる」


「いいだろう」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


「よし、こんなものか」

「やっぱ大人数で食べるものといえばカレーだよな!」


「そ、そうなのか?」


「た、多分...」

「彼女達はまだお風呂に入っているみたいだな」


「京一、タオルと着替えは用意したのか?」


「あ...」

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