第87話 第5章 ひなた―――2017
時が流れた。
札幌の街はゆっくりと復興への道のりを歩み出していた。
まだ街の各所に震災の爪痕が残り、風景はところどころ抉り取られたような空白を残してはいたけれど、それでも街は少しずつ以前の状態を取り戻しつつあった。一時は避難所代わりになっていた学校も相次いで再開し、わたしは元の中学生に戻った。
震災のあと、まわりのみんなから別人のようになったとよく言われた。
曰く、優しくなった。我慢強くなった。細やかな気配りができるようになった。一言で言えば、大人になった、と。
確かに以前は気づかなかったような事柄によく目が留まるようになったことは確かだ。なにか行動する時にはよく考えるようになったし、どんなことにも率先して身体を動かすようになった。なにより労を惜しまず働くようになった。(なにせ、全盛期のおばあちゃんにみっちりと鍛えられたからね)
反面、だめになったところはなんだろう……? 長く使えなかった反動からか、スマホ依存は前よりひどくなったような気がする。あと、自分の気持ちを表すことにちょっぴり臆病になったような気もする。
みんなはそれを震災による変化だと思っているけど、それは半分当たり、半分外れている。今回の大地震はわたしに大きな影響を与えたけれど、それよりもっと深い、自分自身を揺るがすような出来事がわたしの中であったことは確かだ。でも、それを誰かに告げたことは一度もない。きっとわたしはこれから長い時間と人生をかけ、少しずつ理解していくのだろう。
あれが―――いったい何だったのかを。
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