第14話 家族
チユキから許可を貰ったコウキはオズとボームの所へと戻る事にする。
今2人はボームの家にいるはずだ。
つまりは岩中の所有する集合住宅である。
夕方近くになり、今頃はボームの家族は帰っているだろう。
灯りは貴重であり、それが必要な、もしくは灯りをつけてもそれ以上の利益が見出せる者しか、使う事はしない。
コウキは知らないが聖レナリア共和国の市街は夜でも道に灯りがあるらしい。
しかし、ここはエルドである。
エルドの市街は夜になると道が暗くなり、星明りがなければ転ばずに歩くのも大変になる。
そのため、多くの者は日が落ちる前に家に帰るのだ。
コウキが集合住宅についた時、すでに日は落ちかけている。
すると1階の近くに大勢の人が集まっていた。
その中にオズやボーム、そして子どもの姿が見える。
理由は簡単だ。
集合住宅の1階は当主の住居だけでなく飲食店や雑貨店もある。
集まっている人達は飲食店の客なのだ。
集合住宅には調理場がなく、火鉢等で簡単な料理は作れるが、煤などが出るので外食か出来合いのものを買って食べるのが一般的である。
ボームの家族も1階で食べるのが普通のようだ。
コウキが聞いたところによると集合住宅に住んでいる者達は皆家族のようなものらしい。
集合住宅に住む者達は仕事が終わると飲食店に集まり、楽しく語らうようだ。
「あっ、コウ。こっちこっち」
コウキの姿を見たボームが手招きする。
そこにはボーム以外にオズと恰幅の良い大人の男女に子どもが2人いる。
おそらく、ボームの両親と弟と妹だろう。
ボームの父親の名はボーマスで母親はカカラという名前だったとコウキは思い出す。
「ほう、よく来たね。君がコウキ君だね。いつも倅と仲良くしてありがとう。夕食はまだだろう。一緒に食べていきなさい。今日は御当主様が出して下さるようだかね」
ボーマスはそう言って笑うと人々の集まりの中心部を見る。
そこには当主である岩中がいる。
多くの人が岩中を称える声を出している。
ここにいるのは岩中家に仕える者達だ。
ボームの夕食は大体こんな感じらしい。
「いらっしゃい。コラ、ボロム。新しいお兄さんが来たわよ。挨拶なさい」
ボームの母が小さな子を前に出す。
どうやら、ボームの弟と妹らしい。
妹の方が大きい所から、女の子の方が年上のようだ。
「うわ~、カッコ良いお兄ちゃんの次は綺麗なお兄ちゃんだ。はじめまして、コラです」
「うん、あのその……はじめまして、ボロムです」
女の子は活発そうで、弟は大人しそうである。
カッコ良いと言うのはオズの事だろう。
コウキは綺麗と言われるのは久しぶりであった。
なぜなら、エルドの宮殿には容姿が優れた者が多くいる。
その中でコウキは目立たない方なのだ。
どちらかと言えばカッコ良いと呼ばれたかったコウキは複雑な気持ちになる。
オズとボームは複雑な表情を浮かべるコウキを見て笑っている。
複雑な気持ちだがオズが元気になったのでコウキは良かったと思う。
「こっちに座りなよ、コウ。チユキ様は許可してくれたかい?」
「うん、良いってさ。だから、明日は耕作地に行こう」
コウキはオズの横に座ると答える。
ルウシエンが一緒なのは言わない。
姿を消している時のルウシエンはいないものとして扱うのが決まりであり、用事がない時は声をかけてはいけない。
コウキとしてはそれで良いのかと思う時があるが、ルウシエンは姿を見せる事で人間と話す事になるかもしれず、それが面倒臭いらしいのでそれで良いそうだ。
そのため、そのままにしている。
「良かった。それじゃあ明日行こう。あの魔術師様もチユキ様の許可があるのなら一緒に連れて行ってくれるだろうし」
ボームは笑って言う。
コウキは乾いた笑みを浮かべる。
「それなんだけど、ゴシション先生に見つからずに行きたいんだけど、良いかな」
コウキが言うとオズとボームは不思議そうな顔をする。
事情がわからないのだから、当然の反応であった。
「まあ、コウがそういうのなら」
「ああ、そうだな。何か理由があるんだろ? どうしてだ?」
「ええと、それはまだ言えないんだ。ただ、ゴシション先生に少し疑わしいところがあるんだ。だから、隠れて行きたいんだよ」
コウキは理由を隠して言う。
嘘がわかるルウシエンの事を言うわけにはいかない。
そのため、返答が曖昧になる。
「まあ、コウが言うのなら、仕方がないか」
「うん、仕方がないか」
コウキの予測に反してオズとボームは納得する。
「おい、ちびっ子共。食事を持って来てやったぞ」
話をしていると大人が食事を持って来てくれる。
雑穀パンに野菜スープ 飲み物は果実酢を水で薄めたものである。
食べ物は修練所に出されるものとほぼ同じものだ。
ただ、干果が入った甘いパンが付いて来ているのが、違っている。
甘いパンを見てボロムとコラが目を輝かせる。
おそらく普段は食べることが出来ないのだろう。
コウキは自身が恵まれた境遇にいることを実感する。
勇者の側にいる女性達は甘い物が好きであり、コウキにも食べさせてくれる。
(今度機会があったら持ってきてあげよう)
コウキはそんな事を考える。
岩中が飲み物の入ったガラス製の杯を掲げると食事が始まる。
大人達は麦酒を飲み楽しそうにする。
専属の料理人はいるが、持ち回りで集合住宅の住人が手伝うらしい。
料理を持って来たのもその人だ。
皆が楽しそうであり、ここにいるのは本当に家族のようであった。
ふと、横を見るとオズが羨ましそうにしている。
大畑家は岩中家に比べて圧倒的に大きい。
出される食事ももっと豪勢だっただろう。
しかし、大畑家で出された食事よりも、ここの食事の方がきっと美味しいに違いないとコウキは思うのだった。
◆
食事が終わりコウキとオズは神殿へと戻る。
すでに日は落ちていて暗くなっている。
「シュイラは大丈夫かな?」
戻る途中でオズが妹の事を心配する。
オズの妹は今日から宮殿の下働きをすることになっている。
コウキは大変だなと思う。
宮殿で働く者達は皆優秀である。
勇者の元で働きたいと思う者は多く、そこで働ける者は羨望の対象である。
もちろん、どのような者でも働けるわけではなく、能力がなければいけない。
そして、見習いとなり一定期間教育受けて得てようやく正式に働く事ができる。
コウキも礼儀作法の教育を受けたが大変だった。
カヤは厳しく、騎士になるという目標がなければ耐えられなかっただろう。
それを考えるとコウキもオズの妹が心配になってくる。
やがて、レーナ神殿へと帰り付く。
すると司祭のハウレナが入り口で待っている。
もしかするとずっと待っていたのかもしれない。
「おかえりなさい、コウキさん。サーナ様がお待ちですよ」
「えっ、サーナ様が?」
ハウレナの報告にコウキは驚く。
コウキは年齢が近い事もあってサーナのお世話をする事が多い。
しかし、犯人捜しのために少しの間お世話する暇がなかったのである。
コウキは急いで自身の部屋へと行く。
「コウキ!」
近づいて来たのに気付いたサーナは飛び出してコウキに抱き着く。
「すみません、サーナ様。留守にしてまして」
コウキは謝る。
そして、ふと横を見る。
そこには少し疲れた顔をした少女が立っている。
その顔は知っている顔であった。
「シュイラ!? 来てたのか?」
「はは……、お兄ちゃん、おかえり」
シュイラは少しやつれている。かなり疲れている様子であった。
どうやら、コウキがいない間、シュイラがサーナの遊び相手をしていたらしい。
サーナは大人しい子なので、そこまで大変ではない。
きっと、他の事で疲れたのだろう。
コウキはそう判断する。
「コウキ、今夜は一緒にいて」
「はいサーナ様。絵本をお読みしましょうか?」
「うん!」
サーナは嬉しそうに頷く。
「ごめんオズ。今夜はちょっと……」
「ああ、仕方がないさ」
コウキはオズに謝る。
オズの妹シュイラも疲れているだろうから、兄と一緒の方が良いだろう。
だから、今夜はオズとは別に過ごす事にする。
「コウキ」
サーナが抱っこをせがむ。
コウキはサーナを抱き上げる。
「はい、サーナ様。それじゃあ、オズ。行くね」
こうして、コウキはオズと別れるのであった。
◆
「かなり疲れているようだな、やはり下働きは大変だったか? シュイラ?」
兄であるオズが優しく笑いかける。
「うん、まあ少しね……。あははは」
シュイラは力なく笑う。
下働きは大変ではなかった。
むしろ何もやらせてもらえず、居心地悪かった。
だから、この宮殿の姫であるサーナの世話を任せられ、頑張ろうと思ったのである。
しかし、サーナは普通の子ではなかった。
彼女はとんでもない怪力であり魔力の持ち主なのである。
下手に抱き着かれれば体の骨が折れかねない。
不機嫌になり、魔力を発すれば壁が軋むのである。
何度命の危険を感じただろう。
御付きの侍女達が手伝うが上手くいかない。
サーナはこちらが怯えているのを感じてつまらなそうにする。
結局、勇者かその仲間である女性達の手が空くのを待つか、コウキが帰ってくるのを待っているしかなかったのである。
それまでが大変であった。
シュイラはコウキに会った時のサーナを思い出す。
シュイラに向けるのとは全く違う表情である。
サーナはとても嬉しそうで、それは遊び相手が帰って来ただけでないように感じた。
綺麗な男の子が好みなのかもしれない。
シュイラはそんな事を考える。
コウキは綺麗な子であった。
一瞬女の子かと思うぐらいに整った顔立ちをしている。勇者達じゃなくても側に侍らせたいと思う貴族は多いだろう。
兄も自分もそれなりの顔立ちだと思うが、さすがに負ける。
(それにしても、サーナ様にあんなしがみつかれて大丈夫なのかな?)
コウキはサーナを抱き上げた。
その時にサーナはコウキにしがみ付いた。
シュイラはサーナに腕を掴まれた時、死ぬほど痛かった。
それを我慢するのは大変であった。
別にサーナは意地悪をしたわけではない。
力の制御ができなかっただけである。
そのサーナからしがみつかれて平然としているコウキは一体何者だろうとシュイラは思うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
話の進展がないですね。
でも日常的な事も書きたいし、迷うところです。
web小説でなければ修正が入ったでしょう。
ちなみにハウレナはレーナから神託を受けているのでコウキを大切にしています。
後限定公開ノートでリノのイメージを載せました。
ただでさえ低い画力が確実に落ちていて、本当にこの小説のオマケになっています。
また先日、同業者に小説を書いている事を話した件ですが。
どうやら小説を書いて本も出している事を信じてもらえず、嘘だと思われているみたいです。
同業者にこの小説を読まれたくないので、証明することができず、凹んでいます。
本当に口は災いですね(;´・ω・)
最後に誤字脱字、文章でおかしいところがあったら報告お願いします。
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